1989年に「子どもの権利条約」が国連で採択されて30年以上が経ちました。各国は、子どもの権利を守ろうと、自らの行動について目標を掲げて歩みを進めてきたものの、依然として問題は残されています。
この記事では、子どもの権利条約の歩みについて紹介し、それを取り巻く問題点も併せて解説します。また、子どもたちが今直面している問題をすでにご存知で、支援を検討している方へ、ワールド・ビジョンが行っている取り組みについてもご紹介します。
スーダンで暮らす生後7カ月の子ども
子どもの権利条約の採択から30年以上が経った現在、30年以上が経った現在も、日本を含む世界の子どもの権利が十分に守られているとは言えません。まずは、子どもの権利について知り、子どもの権利条約の成り立ちや目的を把握しておきましょう。
ここでお伝えしたい権利は、子どもの権利条約で定められている子どもの基本的人権に関してです。18歳未満の子どもが権利をもつと定められており、大人と同じく、人権が保障されていることをいいます。
子どもの権利とは、すべての子どもが心身ともに健康に育つために必要とされる権利です。子どもの権利には、大きく分けて「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」があります。
子どもは大人と同じように人権を持っていますが、その一方で、特別な保護が必要とされています。大人や国には、子どもの権利を守る責任があるのです(注1)。
1989年11月20日、「世界中の子どもたちに権利を」という願いを受けて、国連で「子どもの権利条約」が採択されました(注2)。平和と繁栄を追い求めるなか、戦争への反省から生み出されたものです。また、この出来事は、子どもに対する見方を大きく変えるきっかけとなったことでも知られています。
「子どもの権利条約」は、国連で作成された人権に関する国際条約の1つです。2019年現在で、196の国と地域が批准しています。この条約では、大人と同じように、子どもが1人の人間として持っている権利が定められているのです。
子どもの権利条約では、「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」、「参加する権利」の4つが、子どもたちが持つ基本的な柱とされています。
1. 生きる権利
・住む場所や食べ物があること
・病気やケガをしたら治療を受けられること
・健康に生まれ、防げる病気などから命が守られること
2. 育つ権利
・教育を受け、休んだり遊んだりできること
・もって生まれた能力を十分に伸ばしながら成長できること
・自分の名前や国籍を持ち、親や家族と一緒に生活できること
3. 守られる権利
・紛争や戦争に巻き込まれず、難民になったら保護されること
・あらゆる種類の暴力や搾取、有害な労働などから守られること
・障がいのある子どもや少数民族の子どもなどは特に守られること
4. 参加する権利
・プライバシーや名誉がきちんと守られること
・自由に意見を表したり、団体を作ったり、自由な活動を行えること
・成長に必要となる情報が提供され、子どもにとってよくない情報から守られること(注1)(注3)
子どもの権利条約では、「子どもにとって一番いいことは何かということを考えなければならない」とされています(注1)。子どもたち一人ひとりと丁寧に向き合っていくことが求められているのです。
子どもの権利条約は、誕生以来、世界の子どもたちの状況の改善に大きな役割を果たしています(注4)。また、日本においても、この条約を批准したことで少しずつ変化が生まれています。ここでは、子どもの権利をめぐる世界と日本の動きを詳しく見ていきましょう。
子どもの権利条約が誕生するまでは、「子ども=心身ともに未熟であるため大人の言う通りにするべき」といった支配的な考え方が横行していました。しかし、この条約の誕生以降、各国は子どもの権利を守ろうと自分たちの行動について目標を設定し、課題の解決に力を入れてきたのです(注4)。
そのような努力もあり、子どもの権利条約が採択されて以来、5歳未満での死亡率が低下し、強制労働の被害にあう子どもの数も減少しました。しかしその一方で、武力紛争に巻き込まれて命を落としたり、兵士として戦場に駆り出されたり、劣悪な環境下で働かされたりする状況は、今もなお残っています(注1)。
私たちは、条約を締約しただけで、権利が守られるわけではないことを理解しておかなければなりません(注2)。
子どもの権利が守られる社会を作るために、子どもの権利委員会が定期的に、各国より「子どもの権利条約をどう守ったか」に関する報告を受け、審査し、不足があれば勧告を行っています。各国は、子どもの権利を守るために法律や制度を整えることを求められています(注1)。
子ども一人ひとりの幸せの実現は、各国に共通する願いです。大人は、子どもにとって何が最善かを考えて行動しなければなりません。また、子どもたち自身が、自分たちの持つ権利について知り、学び、声を上げていくことも大切です(注2)。
「子どもの権利条約」を批准して30年以上経った日本ですが、日本政府が「子どもの権利条約」に批准したあと、日本の各自治体で、「子どもの権利条約」の考え方を取り入れる動きが出始めています。各自治体レベルで、この条約の考え方を取り入れた条例の制定が進められているのです。ここでは、大阪府と兵庫県川西市、神奈川県川崎市での事例をご紹介します。
・大阪府「子ども条例」
子どもが健やかに成長するために、仕事と家庭の仕事の両立支援や児童虐待やいじめなどから子どもを守る活動を行っています。
出典:大阪府/大阪府子ども条例
・兵庫県川西市「子どもの人権オンブズパーソン条例」
平成10年12月22日、子どもの権利に関する条約の普及や、いじめ問題などの子どもの人権に関わる課題の解決のために、「川西市子どもの人権オンブズパーソン」を設置しました。2020年の具体的な活動としては、「学校運営における組織的対応についての提言」が行われました。
出典:川西市子どもの人権オンブズパーソン条例全文|川西市
・神奈川県川崎市「子どもの権利に関する条例」
平成10年9月に「川崎 市子ども権利条例検討連絡会議」と「川崎市子ども権利条例調査研究 委員会」を設置します。その後、条例案の作成が進められ、平成13年4月1日に施行されました。川崎市の子どもが自主的かつ自発的に活動できるための場づくりや川崎市子ども会議などを開催して、子どもの権利を保障する取り組みをしています。
出典:川崎市:川崎市子どもの権利に関する条例
ここで紹介した自治体以外でも、子どもの権利が守られる社会を包括的に実現するべく、条例が策定されています。
2019年2月に日本政府が2017年に提出した子どもの権利条約に関する内容に対して、国連・子どもの権利委員会は報告内容をまとめました。特に以下の点については、重要度の高い課題として掲げています(注9)。
1. 差別の禁止
2. 児童の意見の尊重
3. 体罰
4. 家庭環境を奪われた児童
5. 生殖に関する健康及び精神的健康
6. 並びに少年司法
引用:国際連合 CRC/C/JPN/CO/4-5 (仮訳) 配布:一般 2019年3月5日 原文:英語 児童の権利委員会 日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見
日本政府の動きとして、子どもの権利保障を基本にした総合的な法律、いわゆる「子ども基本法」制定に向けた議論が活発化しています。子どもの権利を包括的に保障する法律(仮称:子ども基本法)の制定、子どもの権利擁護・救済のための独立機関(子どもオンブズパーソン/コミッショナー)の設置に向けた動きも各方面で多く見られます。子どもを取り巻く環境の変化と課題の拡大に応じた対応が求められているのです(注5)。
また、各自治体で子どもの権利条約の考え方を取り入れる動きが進んでいます。その一方で、セーブ・ザ・チルドレンが2019年夏、全国の15歳から80代までの3万人を対象として実施した「子どもの権利に関する意識調査」によると、「子どもの権利条約の存在を知らない」と答えた子どもは31.5%にのぼり、依然として多くの子どもたちが自分たちの権利について知らない現状があります。また、同調査結果によると「子どもの権利条約を聞いたことがない大人」が約4割いることも明らかになっています。大人たちが、子どもの権利に基づいた行動が取れているとも言い難いでしょう(注6)。
1人でも多くの人が子どもの権利について知り、子どもの権利があたりまえに実現される社会を作っていくことが求められます。
ワールド・ビジョンでは、世界の子どもの権利の実現を目指し、支援活動を行っています。
ここでは南米エクアドルでの「子どもの権利条約」をめぐるワールド・ビジョンの取り組みをご紹介します。
エクアドルのリスベットちゃん(12歳)はワールド・ビジョンの取り組み「チャイルド・スポンサーシップ」を通じて子どもの権利を学び、自分で意見を言うことができるようになりました。
「以前は子どもたちが発言することは許されていませんでした。ほとんどの大人たちは、私たちに騒ぐなと言い、外に追い出していました。私はワールド・ビジョンが開催したいくつかの講習会に出席し、子どもたちにも話し合いに参加し、意見を言う権利が あることを学びました。
私は、もう昔のような恥ずかしがり屋の女の子ではありません。今は、地域の子ども代表として意見を言うことができるし、私たちの声は聞かれると確信しています」
地域や社会から蔑ろにされてきた子どもたちは権利について学び、その権利を行使することができるようになることで、「僕たち/私たちにも状況を変える力があるんだ!」と自信を深められるのです。
ワールド・ビジョンは、もっとも弱い立場にある子どもたちの権利を守るため、これからもより多くの方々とともに活動を続けていきます。
ワールド・ビジョンは、世界中でチャイルド・スポンサーシップによる支援活動を実施しています。
チャイルド・スポンサーシップは、月々4,500円、1日あたり150円の継続支援です。チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、支援地域に住む子ども"チャイルド"をご紹介します。いただいたお金はチャイルドやその家族に直接手渡すものではなく、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動に使わせていただきます。子どもたち、そして地域の人々が〝未来を切り拓く力〟をつけられるように支えていきます。
ワールド・ビジョンは支援活動の実施にとどまらず、子どもたちを取り巻く状況についての調査・報告を行い、国連人権理事会等の国際的なフォーラムや地域・国家レベルでのアドボカシーを行っています。
インドで暮らす子どもたち
ワールド・ビジョン・ジャパンは、2020年に開始した、新型コロナに対する国内の子どもの支援を拡充することを決定し、2022年3月11日に募金の受付を開始しました。
「国内子ども支援募金」を詳しく知る
例えば、3000円のご支援で、子ども食堂で15食分の食事を提供したり、お米約6kgをひとり親世帯に提供することができます。
ぜひ、支援にご協力ください。
注1 UNICEF:子どもの権利条約
注2 UNICEF:子どもの権利条約30周年
注3 認定NPO法人 国際子ども権利センター:子どもの権利とは
注4 UNICEF東京事務所:子どもの権利条約
注5 公益財団法人 日本財団:子どもの権利を保障する法律(仮称:子ども基本法)および制度に関する研究会 提言書 p2
注6 セーブ・ザ・チルドレン:3万人アンケートから見る子どもの権利に関する意識
注7 公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本:子どもの権利