第96報 東日本大震災の経験から学ぶ

国内災害における国際協力NGOの可能性(2013.02.28)

2月22日、東日本大震災以来実施してきた緊急復興支援の体験を、今後どのように生かしていけるのかを探り、関係者の方々と共有するための勉強会を開催しました。ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)がこれまで支援活動をともに進めてきた国内のパートナー機関(宮古市社会福祉協議会、気仙沼漁業協同組合、株式会社ダイエー)、類似の活動を行った国際協力NGO(ケア・インターナショナル)、国内災害復興専門家(人と防災未来センター)からゲストを迎え、活発な議論が交わされました(敬称略)。また、オブザーバーとして、国際協力NGO、企業、メディア、大学関係者など、様々な分野の方々が参加してくださいました。

NGO関係者や企業の方など、多くの方にご参加いただきました
NGO関係者や企業の方など、多くの方にご参加いただきました

東日本大震災においてワールド・ビジョン・ジャパンが果たした役割

第一部では、まず、WVJによる東日本大震災緊急復興支援を、第三者(外部コンサルタント)が評価した結果を紹介。評価結果がおおむね高かったことに触れつつ、「本来のWVJの活動地は、途上国や災害紛争発生国」、「東北でのネットワークはほとんどなかった」、「国内の認知度が低い」などの様々な制約があった中で始めた支援事業にもかかわらず、なぜ現地のニーズ(必要性)に合った支援をお届けすることができたのか、という問題提起を行いました。

これを受け、復興支援事業をともに進めたパートナーから、WVJが果たした役割やその強み・弱みをお話いただきました。

仮設住宅や周辺地域でのコミュニティ形成について、WVJとの協働の体験を語ってくださった、宮古市社会協議会の有原領一氏
仮設住宅や周辺地域でのコミュニティ形成について、WVJとの協働の体験を語ってくださった、宮古市社会協議会の有原領一氏

社会福祉法人宮古市社会福祉協議会 地域福祉課主任 有原領一氏からは、WVJが果たした役割として、中越沖地震で被災者対応をしていた柏崎社協との繋がりを残したこと、WVJの強みは、現地のニーズに迅速に対応し、相手の想いを酌む姿勢や、ご支援者への報告体制であるという温かい言葉をいただき、逆に弱みとしては、手続きに時間がかかるという点をご指摘いただきました。

気仙沼漁業協同組合製氷冷凍部長 熊谷浩幸氏からは、WVJが、漁協と一緒になって、超低温冷凍冷蔵庫の復旧に向け、組合の仕組みや意義、工場再開後の影響力や雇用の回復など、様々な角度からの検証に取り組み、気付いたときには漁協の奥深くに入り込み復興になくてはならない存在となっていたことを紹介してくださいました。

「WVJさんは気づいた時には我々の奥深くにいて、我々の復興にはなくてはならない存在になった感があります」と語ってくださった、気仙沼漁業協同組合の熊谷氏
「WVJさんは気づいた時には我々の奥深くにいて、我々の復興にはなくてはならない存在になった感があります」と語ってくださった、気仙沼漁業協同組合の熊谷氏

株式会社ダイエー 商品グループ商品戦略部業務管理課課長 酒井心平氏からは、WVJは世界での支援活動の実績を通じたノウハウを蓄積していること、広範囲で支援活動ができること、想定される問題に対し適切な対応ができることを強みとして話してくださった一方、弱みとして、物流機能を有していないことや平時の商習慣にはないような依頼があったことをご指摘くださいました。

類似の経験を有する国際協力NGOである公益財団法人 ケア・インターナショナル ジャパンの玉熊諭氏からは、海外での災害対応経験のうち、東日本で生かせた部分として、政府の手が届かないところへの比較的迅速な対応、受け取る方の自助努力や、弱い立場の方への配慮、世界各国の専門家による技術協力などが紹介されました。また、弱かった部分として、日本国内ではNGOやケアの知名度が低かったこと、ジェンダー分析や支援の国際基準への配慮と、それらの知見を現地で活動するパートナー組織と十分に共有できなかったことなどが挙げられました。

ダイエーとして初めてNGOとパートナーを組んだ経験について語ってくださった酒井氏
ダイエーとして初めてNGOとパートナーを組んだ経験について語ってくださった酒井氏

これらの話を踏まえ、阪神淡路大震災記念 人と防災未来センター 主任研究員の阪本真由美氏より、国内における災害復興専門家の立場から、WVJの活動の特徴として、子どもへの支援(避難所・給食・防災)など、従来の日本の災害対応にみられなかった支援の重要性を認識させた点、仮設住宅入居者への生活物資の配布や民間企業との連携など、行政の制度的枠組みでは対応が難しい被災者支援事業を実施した点を挙げていただきました。

以上をまとめると、WVJが様々な制約の中、現場のニーズ(必要性)に合った支援を届けられた理由としては、以下の3点に集約できます。
・ 海外での災害対応経験を生かした提案・支援の積み重ねを通じて、パートナー機関の信頼を獲得できた
・ 「一緒に課題を見つける力」を通じてニーズ(必要性)を掘り下げることができた
・ 「外部者性を生かした繋げる力」を通じて、ニーズ(必要性)に合致したリソース(資源)を提供することができた

災害復興の専門的見地からコメントしてくださった、人と防災未来センターの坂本氏
災害復興の専門的見地からコメントしてくださった、人と防災未来センターの坂本氏

国内災害における国際協力NGOの可能性

第二部のパネル討論では、第一部のスピーカーの方々に、ケア・インターナショナル事業部長の菊池康子氏WVJ事務局長の片山信彦を加え、WVJ東日本大震災緊急復興支援部部長の木内真理子をファシリテーターとして議論を進めました。第一部のWVJの経験振り返りを踏まえ、今後の国内災害対応において、国際協力NGOにどのような役割が期待できるかについて議論を行いました。

まず、国際協力NGOは、次の災害対応を行うのであれば、海外と異なるスピード感を前提に支援を行うことが重要であること、また地域のエンパワーメントを側面支援する立場であることを鑑み、他団体や企業と現地の関係者を繋げる役割が重要との指摘がありました。

国際NGOとしての活動経験を共有してくださったケア・インターナショナルの玉熊氏(左)と菊池氏(右)
国際NGOとしての活動経験を共有してくださったケア・インターナショナルの玉熊氏(左)と菊池氏(右)

また、どうしたら国際協力NGOの強みを最大限引き出すことができるかについて、次の災害対応主体に対するアドバイスとしては、被害が甚大な現場では何から手を付けて良いのかわからない中、短期的な視点を持ちがちであるが、中長期の視点を持った復旧・復興支援の効果がとても大きいこと、したがって、中期的な復興課題についても国際協力NGOと話し合うことが重要であるとの意見が紹介されました。

一方、東日本大震災における国際協力NGOの反省点として、市民社会やボランティアの方々といかに連携していくかという点に課題があったこと、NGOの働きは良かったかもしれないが、NGOの活動目的である日本社会へどのような変革をもたらすことができたか、どこまでインパクトを与えることができたかについては、次の災害対応に向けて考えていく必要があるのではないか、との意見が紹介されました。

打ち解けてお話くださる、宮古市社会福祉協議会 有原氏(右)と、WVJ事務局長 片山(左)
打ち解けてお話くださる、宮古市社会福祉協議会 有原氏(右)と、WVJ事務局長 片山(左)

最後に、東日本大震災での国際協力NGOによる活動の良かった点として、既存の行政による支援の枠組を尊重したこと、行政のやり方を聞き、その対応できないところをカバーしたことが挙げられました。一方、国内の災害対応の制度には、すでに各地の社会福祉協議会(社協)が組み込まれており、災害時の応援体制という社協間ネットワークや人材育成も行われている中、今後国際協力NGOが国内災害対応を行う際には、社協とどう分担・連携していくかが課題であるという意見が出されました。また、首都直下・南海トラフなど今後予見される災害の規模になると、海外の支援に頼らざるを得ないこともあり得ることを考えると、海外との繋がりを強みとして持つ国際協力NGOとしては、海外からの支援の受け皿を整備し、国内と繋ぐことを考える必要があるとの意見が紹介されました。

第二部のファシリテーターを務めた、WVJ東日本緊急復興支援部長 木内
第二部のファシリテーターを務めた、WVJ東日本緊急復興支援部長 木内

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