アウン・サン・スー・チー氏と人身取引について意見交換

2012.06.15

スー・チー氏との会談にワールド・ビジョンのスタッフが参加しました

ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏が、5月29日から6日間、タイを訪問しました。その際、スー・チー氏より国連機関を通じて「人身取引の話を聞きたい」という申し入れがあり、ワールド・ビジョンも他団体とともに会談に参加しました。5月31日に行われた会談に出席した、ワールド・ビジョンのジョン・ワン・ヨーンスタッフから報告が届きました。

「人身取引は、性的搾取の問題だけでなく、出稼ぎ労働者の問題へと視点が移っています。たとえばミャンマーでは、人身売買によって強制的にミャンマーからタイに連れてこられたにもかかわらず、自国に送還されると逮捕されたり、タイで生まれた移民の子どもたちが国籍を取得できず教育を受ける機会がなかったり、という問題があります。
スー・チー氏との会談にあたって、私たちはこのような問題の概要について、彼女に説明する必要があると考えていました」
しかし、スー・チー氏は席に着くなり、自ら問題の核心について語り始めました。

スー・チー氏が語る、人身取引問題の核心

アウン・サン・スーチー氏(中央)と会談の参加者(スー・チー氏の右隣がワールド・ビジョンのヨーンスタッフ)
アウン・サン・スーチー氏(中央)と会談の参加者
(スー・チー氏の右隣がワールド・ビジョンのヨーンスタッフ)

「まずスー・チー氏は、出稼ぎ労働者の無力さに懸念を示しました。いまだに120万人ものミャンマー人出稼ぎ労働者がタイに登録されていないのは、登録が雇用主に委ねられているからであることを指摘しました。また、登録プロセスが複雑なため、法外な手数料を要求するブローカーが存在する点にも問題意識を持っていました。
さらに彼女は、出稼ぎ労働者に対する教育についても言及しました。出稼ぎ労働者は自分たちに権利があることを知らないため現状に甘んじているとし、彼らを教育すること、そして、雇用主が彼らの教育について責任を持つことが重要だと述べました」
ヨーンスタッフは、スー・チー氏がこの問題について深く理解していることに感銘を受け、会談の後、ワールド・ビジョンが作成した人身売買に関する報告書「人身売買につ
いて私たちが知るべき10の真実」
を彼女に手渡しました。

この日の午前中、スー・チー氏はミャンマーの出稼ぎ労働者が暮らす地域を訪問しましたが、スー・チー氏は訪問先で熱狂的な歓迎を受け、多くのミャンマー人労働者が「お母さん、私たち、国に帰りたいんです!」と声を上げていた、と同行したスタッフは報告しています。

池内スタッフからの報告

カンボジアで人身取引対策プログラムに従事する池内スタッフ
カンボジアで人身取引対策プログラムに従事する池内スタッフ

2010年からカンボジアに駐在し、メコン川流域で実施している人身取引対策プロジェクトを担当している池内スタッフは、人身取引の問題について感じることを次のように語っています。

人身取引が出稼ぎ労働者の問題になりつつあることが、問題を一層複雑にしていると実感しています。例えば、タイとカンボジアの国境の町ポイペトでは、タイ側へ通勤して日雇いの仕事をする人が多くいます。しかし、自国とは違う法律、言語、社会システムの国で働くことには、様々なリスクが潜んでいます」
国をまたぐ労働は、労働者の権利が保障されなかったり、国家間に問題が発生した場合に帰国できなくなったりというリスクがあるのです。

ワールド・ビジョンは、人身取引により犠牲になる子どもを一人でも多く減らせるよう、今後も活動を続けていきます。