日本の貧困問題について知り、今、私たちに何ができるのかを考えよう

世界を取り巻く貧困問題について、テレビやネットのニュースなどで耳にする方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし私たちの暮らす国、日本においても、貧困問題は近年非常に深刻な問題となっていることをご存知でしょうか。

この記事では、深刻化が進んでいる日本の貧困問題について解説します。さらに、子どもの貧困問題を取り巻く現状、日本社会の構造的課題と子どもの貧困との関係についても説明します。

日本の7人に1人は「相対的貧困」

南中野地域の高齢者、児童、子育て家庭を主な対象とした
子ども食堂で提供した手作りカレー。延べ約1,400食分の材料費を
ワールド・ビジョン・ジャパンが支援しました

「相対的貧困」「絶対的貧困」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ここでは日本で問題となっている「相対的貧困」を中心に解説します。

社会の格差を測る指標「相対的貧困率」

まずは相対的貧困と絶対的貧困、それぞれの定義を解説します。

相対的貧困
相対的貧困とは、その国や地域の水準の中で比較して、大多数よりも貧しい状態のことを指しています。所得でみると、世帯の所得がその国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分を貧困線とし、それに満たない状態のことを言います(注1)。 

開発途上国だけではなく先進国でも相対的貧困は問題視されています。日本でも調査が行われており、厚生労働省の「2019 年国民生活基礎調査」によると、2018年の貧困線は127万円となり、相対的貧困率は15.4%と報告されています。年次推移を見ると、1985年の12.0%、1994年が13.8%、2000年が15.3%となっており、2000年代に入り上昇傾向にあります(注2)。


絶対的貧困
絶対的貧困とは、国・地域の生活レベルとは無関係に、生きるうえで必要最低限の生活水準が満たされていない状態を示します。私たちが一般に「貧困」と聞いてイメージするのはこちらでしょう。

現在では世界銀行の定めた国際貧困ラインを基準に、衣食住など、最低限必要とされる生活物資を購入できる所得または支出水準に達していない人々のことを絶対的貧困者と呼んでいます(注3)。

相対的貧困率:G7で2番目に高い

経済協力開発機構(OECD)では、2000年代半ばまでのOECD加盟国の相対的貧困率を公表しています。これによると相対的貧困率の高い順に並べた場合、日本はOECD加盟国30カ国中4位、日米欧主要7カ国(G7)内では7カ国中2位となっているのです(注4)。

相対的貧困はあまり表面に表れてこないため、絶対的貧困より可視化されにく状況にあります。しかしながら日本をはじめ先進国と呼ばれる国にも存在している深刻な問題です。特に日本では、子どもがいる現役世帯のうち大人が1人いる世帯(いわゆるひとり親家庭)の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高いとされています(注4)。

相対的貧困率の動向:子どもの貧困率

日本の相対的貧困率が上昇傾向にあるのは先に述べたとおりですが、さらに「子どもの貧困率」に注目して見てみましょう。

日本における子どもの貧困率は1990年代半ばから上昇しており、「2019年国民生活基礎調査」で報告されている2018年の相対的貧困率は、全体で15.4%、子どもで13.5%となっています。つまり、7人にひとりが相対的貧困状態にあるということになります(注5)。

子どもの貧困が発生する原因としては、学校にかかる経費が高コストである状況や、各種支援制度自体を知らない「情報ギャップ」問題、そして教育機会格差などが挙げられます(注6)。

日本の子どもの「今」と「未来」のために

子ども食堂の調理ボランティアの皆さん

貧困の連鎖によって子どもたちの将来が閉ざされてしまうことは避けなければなりません。困難な状況にある子どもたちに「今」必要な支援を届け、「未来」に希望を持てるよう、また次の世代に貧困が連鎖しないよう、社会として取り組まなくてはなりません。この章では日本の子どもたちに焦点を当てて、子どもの貧困が発生する原因や、子どもの貧困対策について解説します。

コロナ禍で浮き彫りにー女性と子どもの貧困ー

日本において、保護者にあたる女性の貧困は、子どもの貧困と深く関係しています。

厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査(2016年度)によると、約142万のひとり親世帯のうち、約86%が母子世帯で、その4割超が非正規労働とされています。世帯別の相対的貧困率は、ひとり親世帯が48.3%で、二人親世帯の11.2%を大幅に上回っています(注7)。

諸外国と比較しても、日本における低所得世帯の子どもの親は非正規雇用者の割合が高いとされています(注9)。さらにコロナ禍において、企業が経済的苦境を乗り越えるために非正規雇用の調整を行ったことで、特に女性の非正規雇用者への影響が大きく出ています(注8)。女性の雇用形態の悪化は、子どもたちの間での経済格差にも繋がりうるのです。

増え続ける子どもの貧困:その原因とは

子どもの貧困には多くの「困難」が複雑に絡み合っています。日本では7人にひとりの子どもが貧困状態にあると述べましたが、貧困の状況は様々です。

子どもの貧困というと経済的困窮の問題と考えがちですが、それだけの子どもはほとんどいません。栄養バランスのよい食事を必要としている子ども、教育の支援を必要としている子どもや、生活の安定に資するための支援を必要としている子ども、保護者の就労支援を必要としている家庭など、一人ひとり大きく異なります。そのため絡み合った困難を解きほぐす個別化された支援が求められています(注10, 注11)。



子どもの貧困対策:「貧困」は一様ではない

では、個別化された支援のためには何が必要なのでしょうか。子どもの貧困対策に関する基本的な方針について、2014年8月29日に閣議決定された「子供の貧困対策に関する大綱」では次のように述べられています(注13)。

全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、子供たちの成育環境を整備するとともに、教育を受ける機会の均等を図り、生活の支援、保護者への就労支援等と併せて子供の貧困対策を総合的に推進することが重要である。

(内閣府:子供の貧困対策に関する大綱 令和元年11 月より)

ここで述べられているとおり、政府が子どもの貧困に関する指標の改善に向けて明示している重点施策は以下の4つです(注12)。

教育の支援
幼児期から高等教育まで教育費の負担を軽減

保護者の就労の支援
ひとり親などの就労、学び直しや職業訓練を支援

生活の支援
親の妊娠期から暮らしの課題・悩みを解決

経済的な支援
生活費や進学などに必要な支出を支援

このように子どもの貧困は、子育てや貧困の問題を家庭のみの責任とするのではなく、社会全体で解決することが重要な視点となります。

日本社会の課題と子どもの貧困

コロナ禍により経済的にひっ迫している家庭に配布した、地域の地域の飲食店で利用できる「食事券」

ここまで「子どもの貧困」について直接的な原因について見てきましたが、さらに日本全体が抱える課題と子どもの貧困との関係性を眺めて、貧困問題にどう取り組んでいけばよいか考えてみましょう。

豊かさの中の貧困問題:日本型平等社会

高度成長期に形作られた「日本型平等社会」に付随した制度や社会通念が、状況の変わった現在に十分対応できていないことも課題のひとつです。

たとえば高度経済成長期に一般的とされた「世帯」に基づいた制定された社会保障制度は、今日、人口構成の大きな変化、貧困・格差などの問題に直面しています。これらの問題に対応するため、年金・医療・子育てなどの社会保障制度の持続可能性の確保と機能強化が求められています(注14)。

貧困は、個人の努力不足が原因ではなく、社会の格差構造や権利保障のぜい弱性などが大きく関わっているという認識が重要なのです。

日本社会の構造的課題と子どもの貧困との関係

さらに長引く経済不況やコロナ禍により、経済的に不安定な低所得層がますます追いつめられるという悪循環にあります。貧困による不安定な雇用状況や住環境が社会的孤立を生み、人間関係が構築できなかったり行政支援に結びつけなかったりした結果、さらなる貧困へと陥ってしまうという構造です(注15)。

厚生労働省からも、⾮正規雇用者・⻑期失業者増加に伴い、家族や地域社会とのつながりが希薄化したり、⽣活保護からの脱却が困難になったりと、貧困・格差が拡⼤しているという因果関係が報告されています(注16)。

子どもの貧困対策は、保護者の雇用の問題と密接に関わっています。子どものいる家庭における非正規雇用者の割合は増加しており、このことが子どもの貧困問題を深刻化させる一要因ともなりうるのです。

今日の日本において、世代を超えた貧困の連鎖を断ち切るためにも、ひとり親世帯をはじめとする低所得世帯に対する支援が重要な課題とされています(注17)。



変容の中で貧困問題にどう取り組むか

子どもの貧困が見えにくい状況にある日本では、子どもの貧困問題を個人や家庭の責任とするのではなく、社会全体で取り組んでいくことが重要といえます。

国や自治体、企業、団体などが支援活動を行うことはもちろん、地域住民にも寄付や支援活動への参加など、できることから始めることが求められるでしょう(注16)。

2014年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立しました。これは、子どもが生まれ育った環境によって左右されずに健やかに成長できるよう、貧困対策を推進することを目的としたものです(注17)。また、同年には同法に基づき「子どもの貧困対策に関する大綱」が制定されました。

この法律が成立して以来、政府は下記を柱に様々な対策を進めています(注18)。

教育の支援
幼児期から高等教育まで、教育費の負担を軽減します

保護者の就労の支援
ひとり親などの就労、学び直しや職業訓練を支援します

生活の支援
親の妊娠期から暮らしの課題・悩みを解決します

経済的な支援
生活費や進学などに必要な支出を支援します

子供の未来応援国民運動:「子供の貧困対策」より(注18)

経済的な支援だけでは、日本の子どもの貧困問題を解決することはできません。保護者の生活や子どもの教育に対して支援を行うなど、次世代に貧困が連鎖しないように、家庭を取り巻く環境を変えていくことが求められているのです。

また、厚生労働省を中心に、現代的な支援ニーズに対応しようと以下のような動きが見られます。

個別化された支援のためのケアプラン策定
これまで見てきたように、「子どもの貧困」は複数の要因が複雑に絡み合って発生しているケースが多く、それらの要因の把握は簡単ではありません。一人ひとりの子ども、家族、地域社会などの具体的な課題を把握したうえで、子どもの貧困に対しての支援が行えるのです。

子どもの貧困をとりまく現状や課題を踏まえたうえで、一人ひとりに応じた最適な支援を行うためには、子どもや家族に対する総合的なアセスメント方法等の開発およびそれを活用したケアプラン(自立支援計画)策定のシステム化を図ることも求められています(注18)。


包括的支援体制の構築
子どもたちの複合・複雑化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を構築するためには、「断らない相談支援」や地域やコミュニティにおけるケア・支え合う関係性の育成支援などが必要視されています(注19)。

地域や子どもたち一人ひとりの人生の多様性を前提とし、人と人、人と社会がつながり支え合う取組が生まれやすいような環境を整える新たなアプローチが求められているのです(注20)。

ワールド・ビジョン・ジャパンの活動

ワールド・ビジョン・ジャパンは、2020年に開始した、新型コロナに対する国内の子どもの支援を拡充することを決定し、2022年3月11日に募金の受付を開始しました。

リンク「国内子ども支援募金」を詳しく知る

例えば、3000円のご支援で、子ども食堂で15食分の食事を提供したり、お米約6kgをひとり親世帯に提供することができます。
ぜひ、支援にご協力ください。
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参考資料

注1 厚生労働省:国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問pdfアイコン
注2 厚生労働省:2019 年 国民生活基礎調査の概況pdfアイコン
注3 JICA:第3章 貧困指標pdfアイコン
注4 厚生労働省:平成24年版厚生労働白書 -社会保障を考える-pdfアイコン pp107-108
注5 内閣府: 平成26年版 子ども・若者白書 第3節 子どもの貧困pdfアイコン
注6 内閣府:「すべての子どものため」の子どもの貧困対策② -2.日本の子どもの貧困と対策の現状-pdfアイコン
注7 厚生労働省:平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告外部リンク
注8 経済産業省:2021.8.23 産業構造審議会総会 コメント 資料4pdfアイコン
注9 内閣府:平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書 第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価外部リンク
注10 厚生労働省:広報誌「厚生労働」2021年5月号 特別連載 Approaching the essence─「社会のリアル」に学ぶ─外部リンク
注11 内閣府:今後の子供の貧困対策の在り方についてpdfアイコン
注12 子供の未来応援国民運動:子供の貧困対策外部リンク
注13 内閣府:子供の貧困対策に関する大綱 令和元年11月pdfアイコン
注14 厚生労働省:平成24年版 厚生労働白書 現在の社会保障改革に向けた取組み(社会保障と税の一体改革)pdfアイコン
注15 厚生労働省:広報誌「厚生労働」2021年2月号 特別連載 Approaching the essence─「社会のリアル」に学ぶ─外部リンク
注16 厚生労働省:貧困・格差、低所得者対策に関する資料pdfアイコン
注17 参議院:立法と調査「求められる次世代育成支援とその課題」外部リンク
注18 厚生労働省:子ども・若者ケアプラン(自立支援計画)ガイドラインpdfアイコン
注19 厚生労働省:包括的支援体制の構築の具体的検討に向けた基本的な考え方pdfアイコン
注20 厚生労働省:「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」(地域共生社会推進検討会)の検討状況についてpdfアイコン

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