【7月30日は人身取引反対世界デー】インドの少女、サミラさんのストーリー

(2021.07.19)

7月30日は人身取引反対世界デー

サミラさん(仮名)は、学校に行くのが大好きでした。しかし彼女が14歳の時、貧困にあえいでいた家族の生活はますます苦しくなり、学校に通わせてもらえなくなりました。家族はサミラさんが仕事を見つけられるようにと、彼女をインドの商業都市ムンバイに暮らす親戚のところに送り出しました。

サミラさんは教育を受け続けることを切望していましたが、家族には金銭的余裕はありませんでした。彼女は重い気持ちのまま、西ベンガル州の農村から「夢の街」として知られるムンバイまで2,000キロの旅をしました。


突然押し込まれた悪夢の世界

ムンバイに着いたサミラさんは、姉の夫に仕事を探してくれるように頼みました。するとある日、義兄は良い仕事のチャンスだと信じ、後に人身取引業者となる人物に彼女を引き渡しました。いとも簡単にサミラさんは、商業的な性的搾取の世界に押し込まれてしまったのです。

囚われの身となった3カ月間は悲惨でした。サミラさんは言います。「働いた時しか食べ物をもらえませんでした。仕事を拒否すると、売春宿の主人やお客さんでさえ私をベルトで殴りました。ビールとお酒を飲むことを強制されました。タバコの吸い殻で私の手に火傷を負わせたりもしました。私はたくさん泣いて、家に帰らせてと懇願しました。私を売ったのは義兄だったと、売春宿の主人が言うのを聞きました」

この悪夢のような状況に追いやったのが自分の親戚だと知った時、サミラさんの胸は張り裂けそうでした。言葉の壁があり話し相手がいなかったため、彼女は1人で泣きました。ムンバイは、「夢の街」ではなく「悪夢の街」となりました。

「1日中働いた後、他の女の子たちと一緒に辺鄙(へんぴ)な場所にある建物に連れていかれ、そこで休みました。人里離れた場所だったので、私たちがどんなに助けを求めて叫んだとしても、その声は誰にも届きませんでした」

人身取引業者は被害者の逃亡を防ぐため、隔離、厳重な監視、暴力、脅迫等の手段を使います。被害者の少女たちの多くはインドの様々な地域から来ており、ムンバイの言葉を話せません。これにより、脱出したり顧客に助けを求めたりすることがさらに困難になっているのです。

救出、そして新たな恐怖

ある日、サミラさんは数人の少女たちと一緒に、仕事のためにホテルに連れて行かれました。すると突然、そこに警察の家宅捜索が入りました。「私は警察官のもとに走りました。私は彼らに、助けてくれと言いました」その後、義兄と売春宿の主人は拘留され、サミラさんと家族は今も彼が刑務所にいると信じています。

救出された後、サミラさんは約9カ月間、シェルターで過ごしました。そこでは、新しいスキルを学ぶ時間や癒しの時間が提供され、忙しく日々を過ごしました。その間、彼女の最年長の姉が後見人になる申請をし、ようやく家に戻ることができました。

「初めて村に戻った時、私はひたすら家の中にいました。村人たちは私を馬鹿にして、嘲笑の対象にされました。恥ずかしくて外に出られませんでした」と、サミラさんは涙ながらに当時の様子を話してくれました。

後見人となった最年長の姉は言います。「私たちはとにかくサミラが帰ってきたのが嬉しかったです。サミラが赤ちゃんの頃から世話をしていたから...。」家族は、彼女の気を紛らわせようと最善を尽くし、サミラさんの過去については話さないことを決めました。家族もまた、サミラさんが身内によって売られたという現実を消化できず、義兄とその妻(サミラさんの姉)との一切のつながりを断ちました。

人身取引の被害者は、多くの場合、暴力によって残された身体的・精神的な傷を抱えたまま生きています。心的外傷ストレス障害(PTSD)、不安神経症、うつ病、パニック障害、薬物乱用との闘い等、被害者は医学的・心理的ケアを必要とする一連の問題に直面しています。残念ながら多くの被害者は、遠隔地に住んでいるだけでなく、困窮した経済状況のために支援サービスを利用することができません。貧困、恥をかくことへの恐れ、自己非難、社会的疎外が、助けを求めることをためらう理由になっています。

ワールド・ビジョンとの出会い

2019年10月、サミラさんはワールド・ビジョン・インドの、子どもの人身取引と性的搾取を根絶するプログラムに従事するケースワーカー、モスミに初めて会いました。モスミは、若い被害者のメンタルヘルスをサポートする上で重要な役割を果たしています。「サミラは誰かと話す必要がありました。彼女は最初、とても静かでしたが、のちに心を開いてくれました」彼女はサミラさんの家族にも支援プログラムの内容を説明し理解を得ると、性的人身取引の被害者49人からなるグループにサミラさんを登録しました。

モスミは、サミラさんに学校に戻りたいかと尋ねました。もし彼女が望むなら、同プログラムを通じて教育費の援助を受けられるようにしたいと考えていました。しかし彼女は、幼い子どもたちと一緒に教室にいることを望みませんでした。彼女は臆病になっており、学校に行くことで恥ずかしい想いをすることが嫌でした。

その後モスミは、代替案としていくつかの収入創出プログラムと職業訓練プログラムを提案しました。シェルターで生活していた時、美容師コースでいくつかの技術を習得していたサミラさんは、もう一度そのコースを学び直したいと考えています。

「一時は勉強したいと願っていましたが、金銭的な理由で叶いませんでした。私には今、夢がありません。でも、仕事をして独立するという願いがあります。私は家に居ることにうんざりしているので、学生が寝食をともにしながら勉強するという寄宿型のプログラムで学んでみたいです」とサミラさんは言います。

「私が経験した困難を、ほかの誰一人として経験してほしくありません。私のメッセージは、人を盲目的に信用しないでということです。よく状況を見て、理解してから、一歩前進してほしいです」


「人身取引」を知ってください

人身取引(人身売買)は、「現代の奴隷制」とも呼ばれる深刻な人権侵害のひとつで、国際社会から重要課題として認識されています。日本でも年間約40~60件が警察によって検挙されており、私たちの身近にも潜む犯罪です。人身取引の被害者は、強制労働、性的搾取、臓器売買等によって権利と尊厳を奪われ、肉体的・精神的に深刻なダメージを受けます。

7月30日は国連が定めた人身取引反対世界デー。まず知ることが問題解決の一歩となります。
人身取引について詳しく知るにはこちら


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