【シリア紛争10年】紛争による損失は1.2兆米ドル、子どもの平均寿命は13年短く

(2021.03.12)


世界の子どもを支援する国際NGOワールド・ビジョンは、3月15日でシリア紛争開始から丸10年を迎えるのに際し、フロンティア・エコノミクス社と共同で、レポート『Too high a price to pay: the cost of conflict for Syria's children(高すぎる代償、紛争の犠牲となるシリアの子どもたち)』を作成・発表しました。

シリア危機10年

レポートの概要

  • 10年続くシリア紛争による経済的損失は、1.2兆米ドルを超えると推定されています (*1)。
  • たとえ紛争が今日紛争終わったとしても、そのコストは2035年までにわたって、現在の金額で1.7兆米ドルの規模までに蓄積され続けるでしょう。
  • 10年間の紛争により、シリアの子どもたちの平均寿命は13年短くなりました。

   ※レポート全文はこちら


今も、未来も、犠牲になるのは子どもたち

本レポートは、シリアの子どもたちに特に焦点を当て、10年間の紛争がシリアの経済成長(GDPベース)と人的資産に与えた影響を調査しています。調査結果によると、この紛争ですべての世代が生きる価値を失ったと述べており、紛争が終結したとしても、子どもたちは教育と健康の喪失というかたちで犠牲になるため、国の復興と経済成長を支えることができないことを示しています。

ワールド・ビジョン総裁/最高責任者、アンドリュー・モーリーは次のように語ります。「世界はこの紛争を10年間も放置してきました。子どもたちから基本的権利を奪い、子どもたちが神様から与えられた可能性を開花させ、豊かないのちを生きていくことを妨げてきました」

ワールド・ビジョンとフロンティア・エコノミクス社が2016年に作成したレポート『Cost of Conflict(子どもが払う戦禍の代償 、シリアの紛争5年)』は、紛争による経済的損失は2,750億米ドルを上回り、最悪の場合、2020年までに1.3兆米ドルに達すると正確に予測していました。最新の調査報告は、ワールド・ビジョンが危惧していた通り、2035年まで1.4兆米ドルの追加コストが負担され続けることを示しています。それに加えて、子どもたちの健康と教育への被害を紛争コストに追加すると、現在の金額で最大1.7兆米ドルになります。

「毎日子どもたちは、私たちのところに寒い中、空腹の状態でやって来ます。子どもたちは、自分が目撃したことや、経験したことでひどく苦しんでいます」と、ワールド・ビジョン、シリア・レスポンス・ディレクターのヨハン・ムージは言います。

5~6歳の子どもは、音を識別してあらゆる種類の爆弾の名前を言うことができる一方、教育の機会を失い自分の名前を書くことすらできないケースが間々あります。私たちは、彼らをこの暴力の連鎖の中に閉じ込めたままにしておくことはできません。手遅れになる前に、紛争と、子どもに対する暴力の蔓延を止めなければなりません」とムージは付け加えました。

本レポートの経済調査結果には、シリア、レバノン、ヨルダンの約400人のシリアの子どもと若年成人を対象にしたワールド・ビジョンの調査結果が反映されており、紛争の莫大な人的コストが明らかになっています。

シリアの紛争は、子どもたちにとって最も致命的なものの一つであり、最も破壊的であり、彼らの平均寿命を13年も縮めています。武装勢力によって徴用された子どものおよそ82パーセントが直接戦闘に動員され、子どもの25パーセントは15歳未満です。紛争が始まって以来、推定5万5,000人の子どもたちが殺害され(*2) 、一部の子どもたちは処刑や拷問によって命を落としました(*3) 。シリア北西部でのワールド・ビジョンの調査によると、調査の対象になったすべての少女がレイプや性的暴行の被害にあうことを恐れながら生きていることがわかりました(*4) 。重大な身体的および心理的危害や虐待を引き起こす可能性のある児童婚は、驚くべきレベルにまで増加しています(*5) 。
インタビューを受けたすべての子どもたちは一つのこと、「平和」を訴えました。

シリア国内で避難生活を送る子どもたち
シリア国内で避難生活をおくる子どもたち

「私は紛争によって命が打ち砕かれた地域の子どもたちに会いました。その子どもたちは、愛する人を殺害され、学校を退学し、路上で物乞いをし、逃れた先でまた新たな暴力の脅威に直面しています」と、アンドリュー・モーリーは言います。

本レポートは、シリア紛争に対する包括的な政治的解決策を伴う平和が、さらなる経済的および人的コストを回避する唯一の方法だと提示しています。それがなければシリアの子どもたちは、大人たちが引き起こした失敗の代償を払い続けなければならないでしょう。

モーリーは訴えます。「永続的な平和こそが今、シリアの子どもたちにとって唯一の実行可能な解決策です。国際社会は、これを実現するために全力を尽くすという道義的責任を負っています。経済的コストは壊滅的であり、子どもたちは代償を払い続けています。政治的意思、経済的支援、平和と安全に対する集団的で情熱的な取り組みが必要です。私たちは、希望をもたらすために、今行動しなければなりません」



*1:GDPへの影響は、購買力平価ベースで示されています。

*2:統計は情報源により異なります。それゆえ、死者、負傷者、倒壊に関する正確な数値はありません。

*3:国際連合安全保障理事会による報告書 『Report of the Secretary-General on Children and Armed Conflict in the Syrian Arab Republic』 (S/2018/969) 29段落

*4:ワールド・ビジョンによる報告書『シリア北西部の人道的対応のための包括的な性別と年齢の分析(Northwest Syria Gender Analysis A Comprehensive Gender and Age Analysis for the Northwest Syria Humanitarian Response)』(2020年3月)

*5:ワールド・ビジョンによる報告書』盗まれた未来:シリア北西部における紛争と児童婚(Stolen Futures: War and Child Marriage in Northwest Syria)』(2020年)




ワールド・ビジョンとは

キリスト教精神に基づいて、貧困や紛争、自然災害等のために困難な状況で生きる子どもたちのために活動する国際NGO。国連経済社会理事会に公認・登録されています。詳しくはこちら

フロンティア・エコノミクス社とは

欧州最大の独立系経済コンサルティング会社で、ドイツ、ベルギー、アイルランド、スペイン、フランス、オーストリア、スイス、英国に在住する250人以上の経済学者がいます。フロンティア・エコノミクス社は、顧客が複雑なポリシーと戦略的課題を解決するのを助けるための経済学の活用を専門としています。詳しくはこちら外部リンク

本件に関する報道関係者からのお問合せ先

特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン 広報担当:市山志保
【電話】 03-5334-5356 【Eメール】 shiho_ichiyama@worldvision.or.jp



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