希望と主体性を育む取り組み ~ウガンダにおける「Empowered Worldview」の事例から~
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どうして「主体性」が大切?
開発・人道支援の現場では、学校や水衛生施設の整備、物資・資金の提供、技術研修など、生活の改善につながる“目に見える”支援が欠かせません。一方で、支援の効果を持続的な変化につなげるためには、当事者の自己効力感や将来への展望、主体的に行動できる感覚といった心理的要因が重要だと指摘されています[1]。しかし、意欲や主体性は、外部から与えられる報酬や働きかけだけで持続的に生まれるものではありません。むしろ、外から促された行動が本人の価値観や目的、他者との関係と結びつき、自分自身のものとして内面化されていくことが重要だと考えられています[2]。それでは、どうすればこのように“目に見えない”主体性を育むことができるでしょうか。

Empowered Worldview =「力づけられた世界観」
現在、ワールド・ビジョンは世界各地の開発支援事業において、「Empowered Worldview(エンパワード・ワールドビュー:以下EWV)」という研修を実施しています。直訳すると「力づけられた世界観」ですが、EWVとは、貧困の中に置かれる人々が支援への依存から抜け出し、自らの力に気づき、主体的に行動できるよう促すことを意図したものです。約3日間の研修を通じて、参加者は「私とはどのような存在か」「自分自身、家族、そして地域のために、どのように成長し貢献できるか」といった問いに向き合い、新たな一歩を踏み出すことを後押しするプログラムです。EWVと、その他の活動(例:生計向上に関する研修や実践)が相まって、支援の成果が継続し、地域の子どもたちを取り巻く環境が長期にわたって改善していくことを目指します。
EWVにおける宗教や信仰の役割
EWVは、人々の世界観の枠組みの中で内省の機会を提供することで、内発的な変容を促します。そして、この変容が具体的な行動を生み、結果として暮らしやコミュニティの改善につながるという考え方を重視します。2025年、ワールド・ビジョン・ジャパン(以下WVJ)はEWVの参加者にどのような変化が起きているのかを確認するため、現地訪問を通じて情報収集を行いました。本情報収集にあたっては、宗教学者である村上辰雄氏(上智大学国際教養学部)と共同で実施し、住民の声の聞き取り、ならびに実際の研修の観察を行いました。

現地訪問概要
2025年3月18日~25日、ウガンダ東部(マユゲ県・カリロ県)の住民や地域のリーダー層を対象に個別インタビュー(計25件)を行い、EWVに参加した経験や、その後の生活や考え方の変化について聞き取りを行いました。参加者の多くは地域で宗教指導者(キリスト教・イスラム教)としての役割も担っていました。

聞き取りからわかった3つのこと
1)内面の変容が、行動や暮らしの改善に先行
研修に参加した全員が、まず「セルフイメージが変わった」「責任感が芽生えた」「自分にもできると感じられるようになった」といった内面的な変化が起点となり、その後に具体的な行動(貯蓄の開始、農業の工夫、家計管理など)へ移り、結果として生活改善や収入向上につながったと述べました。研修支援の成果は(研修そのものだけでなく)当事者の主体性や自己認識の変化によって左右されうることが、当事者の語りから裏付けられた形です
2)宗教的な言語は、行動変容を支える“納得の言葉(意味づけ)”として機能
7割以上の参加者が、研修後の変化を説明する際に、聖書やコーランなどの聖典から具体的箇所を引用しました。これらは、人々がもともと大切にしている価値観の枠組みの中で、「なぜ変わるのか」「なぜ行動するのか」を腑に落とすための言葉、つまり“納得の言葉(意味づけ)”として語られていました。外的な指示や報酬だけでは主体性を引き出しにくい状況において、宗教的資源が、行動を“自分ごと”として捉える助けになり得ることが示唆されます。
3)助け合いや共同体に対する責任の強化
参加者の8割以上は、EWVが大切にする「支え合い」「分かち合い」「周囲に伝える」といった関係性への責任を強調しました。他者との関係や共同体の中での責任感の高まりは、グループでの生計活動(共同貯蓄や農業の実践)という具体的な行動につながっています。EWVにおいて、内面の変化は「個人の努力」に限定されず、関係性の変化(相互扶助・協働)として立ち上がることが促されています。今回の聞き取り対象地では、キリスト教徒とイスラム教徒が混在する中でも協働が成立しており、宗教の違いが対立を生むのではなく、互いを尊重しながら共同で取り組む関係性が確認されました。
以上の結果から、行動変容の鍵は、当事者が慣れ親しんだ伝統の枠組みを通じて、「自分にもできる」「自分たちで変えていける」と感じながら踏み出していく、希望と主体性を強化・回復していくプロセスにある、という示唆が得られました。地域に根付く価値観や生活文化、宗教的伝統は、人々の尊厳や責任、助け合いの意味を再確認する土台になり得ます。こうした「本人の内省と納得」に基づく変化は、行動変容の持続性向上のみならず、当事者の尊厳に配慮した支援アプローチとしても重要であることが、今回の調査から浮かび上がりました。

村上辰雄氏のコメント

「EWVの特筆すべき点は、それがもたらす内面的変容が、持続可能な行動変容の支えとなっているところにあります。今回の調査から、参加者の尊厳や潜在能力、責任に対する認識を高めるために、聖典、儀礼、宗教指導者、信者共同体などの宗教的資源が重要な役割を果たしていることが見えてきました。人間の精神性と社会活動は切り離せないものという視点から、今後も複雑かつ多面的な開発支援と宗教のダイナミズムについて、宗教学的観点から調査、研究を進めていきたいと考えています。」
(村上辰雄 上智大学国際教養学部准教授)
[1] Bandura, 1977; World Bank, 2021
[2] Ryan & Deci, 2000
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