カンボジアの教育支援の現場から|計画書の一行が現実になるまで
こんにちは。ワールド・ビジョン・ジャパンの千葉です。
2026年3月から、外務省のNGO連携無償資金協力を受けた教育支援事業のプロジェクト・マネジャーとして、カンボジアに駐在しています。
首都プノンペンから3時間半、農村の小学校で見たもの
皆さんは、カンボジアというと何を思い浮かべるでしょうか。世界遺産のアンコールワットでしょうか。それとも、1990年代まで続いた内戦の傷跡でしょうか。
私が初めてこの国を訪れたのは、ちょうど1年前、事業形成のための調査でした。車窓から見る首都のプノンペンは、予想以上に整った街でした。道路はきれいに舗装され、区画された緑地や、人々が走る広場が点在しています。ところどころに高いビルも見えます。橋を渡るときには、大きな川がゆったりと流れていました。
ところが、そこから車で3時間半ほど走った農村は、まったく違う表情をしていました。田園風景は美しいものの、ほとんどの学校では教室が足りず、子どもたちは今も午前と午後の二部制で学んでいます。老朽化した木造校舎は、強風で倒れかねない危険性をはらんでいました。また、先生たちは、教え方を学ぶ機会が少ないまま教壇に立っていました。
農村地域での教育支援が必要だ。そんな思いを強く抱きながら、事業形成を始めました。

教育支援の対象校を決める重さ―「選ぶことは、選ばないこと」
現地での事業形成の過程でもっとも悩んだのは、支援対象となる学校を選ぶことでした。支援を必要としている学校は、ひとつではありません。そのなかで、私たちの事業が最も力になれるのはどの学校なのか。どんな形の支援であれば、本当に効果があるのか。その答えを探して、候補になる学校を何校も訪ね、先生たちの話に耳を傾けました。
教育局の職員やカンボジア事務所のスタッフとも、何度も相談を重ねました。「朝礼前の6時半に来てください」と学校から言われ、早朝に町を出発する日もありました。
学校を回るほど、課題は見えてきます。けれども同時に、資金や事業期間などさまざまな制約から、そのすべてに応えられるわけではないことも、はっきりしています。ある学校を選ぶことは、別の学校を選ばないことでもあります。その重さを感じながら、選ぶ基準と事業の形を一つひとつ考え抜く毎日でした。
そんな日々を支えてくれたのが、一緒に動いていたカンボジア事務所のチームの空気です。話し合うときは真剣ですが、オンとオフの切り替えがとても上手で、移動中の車内では仕事の話をひと休みして、にぎやかに過ごします。コーヒーを飲み、揚げバナナや果物のチップスを分け合ううちに、車内はいつの間にか笑い声で溢れています。
困った課題にぶつかったときも、その雰囲気は変わりません。冗談を交えながら「どうしたらいいかな」と前向きに考えます。深刻さや困難に飲み込まれることなく、前を向いて最善の方策を考えて選択を重ねていく、そんなカンボジア人スタッフと一緒に過ごす中で、この仲間と働いてみたいと思うようになりました。

そうして考え抜いた事業が、外務省の助成を受けて実現できると聞いたときは、本当に嬉しかったです。苦労して形にした事業であり、あのとき抱いた「この仲間と働きたい」という思いもありました。その二つが重なって、プロジェクト・マネジャーとして赴任することにしました。
ですが、それはゴールではなく、スタートでした。
支援事業の立ち上げは、車1台の確保から
赴任して最初に思い知ったのは、事業の計画書に書いた活動が動き出すためには、想像以上に地道な下準備が必要だということでした。たとえば、事業チームが使用する車1台をそろえること。これは、紙面では予算書上のほんの一行の記載です。けれど実際には、活動に合った車種を選び、予算と照らし合わせて調達先の業者と調整し、運転手を探して採用するところまで、ひとつずつ決めていく必要があるのです。
活動そのものも同じです。事業地のカウンターパートである教育局の職員や対象校の先生たちのもとを何度も訪れ、予定を考慮し、協議を重ねて活動内容の詳細についてすり合わせ、足並みがそろってはじめて、ひとつの活動が動き出します。計画書では文字に現れない、細かく根気のいる調整と、人との関係づくり。その積み重ねがあってこそ、事業は計画どおりに実施できるのだと身に染みて感じました。
想像が現実になっていく―学校建設と教員研修が動き出した
危険な状態にあった木造校舎に替わる新校舎の建設が始まり、建物はだいぶ形になってきました。学校長が「ここに校舎を建てたいんだ」と見せてくれた空き地の光景は、今も鮮明に思い出されます。あの空き地に、いま校舎が少しずつ立ち上がっています。

教員研修は、冷房のない暑い会場で開かれました。それでも、週末にもかかわらず、積極的な姿勢で参加する先生たちの真剣な姿があります。調査時には、ただ頭の中で繰り広げる想像にすぎなかった光景が、目の前で本当に現実になっている。そう思うと、胸が熱くなりました。
何より嬉しかったのは、先生たちから「こういう教え方は聞いたこともなかった。とても有意義だった」という声が聞けたことです。その後、「研修で学んだ方法を授業で実践しています」と、グループチャットに次々と動画が届くようになりました。画面の中では、子どもたちが生き生きと学んでいました。

子どもたちの学びを支える、すべての方とともに
現地で活動が実施される瞬間を実際に見られるのは、役得かもしれないなと感じています。そこに辿り着くひとつひとつのステップは、ご支援くださる皆さまと日本で事業を支えるスタッフがいて、はじめて実現されるものだからです。私たち事業チームだけの力ではありません。
“We may be the answer for someone’s prayer”
私たちの活動は、誰かの祈りへの応答かもしれない。
カンボジア事務所のスタッフ会合で聞いた言葉です。想いが形になっていく現場に立ち会える喜びを噛みしめながら、事業で目指す成果をしっかり出せるよう、これからも責任をもって活動を進めていきたいと思っています。
2026年9月
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本記事で紹介しているカンボジアの教育支援事業について、具体的な取り組みや事業の背景を詳しく紹介しています。

世界には、学校に通えない子どもたちや、十分な教育環境が整っていない地域があります。子どもたちが学ぶ機会を失う背景や、教育が未来に与える影響、ワールド・ビジョンの教育支援について紹介します。

カンボジアでは、都市部と農村部で生活環境に違いがあり、子どもたちを取り巻く課題もさまざまです。ワールド・ビジョンがカンボジアで取り組む支援活動や、地域の子どもたちの暮らしについて紹介します。
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