ケニアの衛生問題とトイレ事情|子どもたちを守るための“チョー大事な話”

投稿日|2026年5月11日
執筆者:遠藤拓海
  • 駐在員
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ミサワ!(ルオ語でこんにちは)
ケニア駐在員の遠藤です。

途上国における水・衛生課題は、健康や教育だけでなく、地域の経済活動や社会の持続性にも影響を与える重要なテーマです。こうした課題は企業のESGやサステナビリティ戦略とも深く関わっています。

現在、外務省日本NGO連携無償資金協力の助成や皆さまからの寄付を受け、ケニア西部ビクトリア湖沿いのホマベイ郡で水・衛生改善事業を行うためにケニアに住んでいます。

事業地の子どもたちの筆者
事業地の子どもたちと筆者

ケニアで話されている言葉といえばスワヒリ語ということをご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、スワヒリ語は多くのケニア人にとっては第二言語、第三言語です。 ケニア国内の50を超えるといわれる民族グループはそれぞれ固有の言葉を持っています。事業を行っているホマベイ郡にはルオ族が多く住んでいて、ルオ語が使われています。 

個人的なルールとして、事業地を訪問する際にはその土地の言葉を少しでも覚えて、せめて挨拶や自己紹介くらいはコミュニティの人たちの言葉でするようにしています。 ケニアに住み始めて3年経ちますが、事業で訪れる場所によって話されている言葉が異なり、いまだに新しい言葉を習得せねばならず、ケニアという国の奥深さに途方に暮れることもあります(笑)。 

色々な言葉を勉強していると思いがけず似ている言葉や元の言語から輸入された言葉を発見することが少なくありません。 スワヒリ語からケニア国内の他の言葉に輸入された言葉も多く、コミュニティの人たちとの会話のなかでそのような言葉を見つけるのは様々な文化が混ざり合っている歴史を感じる瞬間でもあります。 

事業地で活動するなかで見つけたスワヒリ語とルオ語で共通の言葉で「トイレ」を意味する「チョー(Choo)」があります。 
前置きが長く、しかも唐突で申し訳ないですが、このブログのタイトルの「チョー大事な話」はつまりトイレが大事というお話です。 

ケニアのトイレ・衛生問題の現状

なぜチョーがチョー大事なのか 

現在、WVJが水・衛生改善事業を行っているホマベイ郡では、トイレや手洗い場へのアクセスが大きな課題となっています。

事業開始前に行った調査によると、地域内で安全なトイレを利用している世帯は14.1%、水と石けんのある手洗い場のある世帯は5.3%しかありませんでした。多くの住民は排泄物を適切に処理することができないトイレを使用したり、屋外排泄も根絶できていませんでした。これらの排泄物は雨でビクトリア湖に流れ込み、人々はこのビクトリア湖の水を飲んで生活しています。手洗いの習慣も根付いていないため、水由来の感染症にかかる恐れがあり、地域の5歳未満の下痢症の罹患率は32.3%でした。

下痢症は日本ではあまり深刻な病気ではありませんが、清潔な水や医療へのアクセスが困難な地域の子どもたちは脱水のリスクが大きく、世界保健機関(WHO)でも5歳未満児の主要な死亡要因のひとつとして挙げています。

このような衛生課題は、単なる生活環境の問題にとどまらず、子どもたちの就学機会の損失や労働機会の制限など、地域全体の発展にも影響を与えます。企業が取り組むべき社会課題としても注目されています。

壊れたまま放置された学校のトイレ
壊れたまま放置された学校のトイレ

本事業では学校や公共スペースにトイレを12棟建設し、地域の衛生サービスへのアクセスを向上させました。 また、世帯レベルでのトイレの普及を行い、屋外排泄の根絶を目指すための啓発活動を56の村で行いモニタリングを続けたことで地域全体で屋外排泄をゼロにすることができました。 

事業で建設した学校のトイレ
事業で建設した学校のトイレ

サニテーションマーケティングとは

支援の対象ではなく顧客として

事業の支援により多くの世帯ではトイレや手洗い場が設置され、地域の衛生状態は改善しました。しかし最低限の設備を整備しただけであり、屋外排泄ゼロはあくまでもスタートラインに過ぎません。トイレは「ある」だけでは十分ではなく、実際に使い続けたくなること、安心して使えることが重要です。数を増やすだけでなく、その質の向上が持続可能な発展には必要不可欠であるということです。より使いやすく、より快適な設備を自分の選択として整備していく衛生レベルへと少しずつはしごを上っていく必要があると感じています。

そこで事業の途中から始めた取り組みのひとつが「サニテーションマーケティング」というアプローチです。

このアプローチは、単なる支援にとどまらず、地域の市場機能を活かして持続可能な仕組みを構築するものであり、企業活動における「共創」や「CSV(Creating Shared Value)」の考え方とも共通しています。従来の開発事業では、コミュニティの住民を「支援の対象」として捉え、トイレや衛生用品を「支援物資」として届けるという考え方が主流でした。しかし、サニテーションマーケティングでは住民を「顧客」として捉え、トイレや衛生用品のような「商品」を自分のお金で、より良いトイレや衛生用品を選んで手に入れるという選択を後押しします。

浄水タンクのおためしをするお客さんたち
浄水タンクのおためしをするお客さんたち

そのためには「需要の掘り起こし」と「供給の確保」が必要です。

それまで屋外排泄を行っていたり、簡易的なトイレを使用していた世帯がより質の高いトイレや衛生用品を大切なお金を出して購入するという選択をしてもらうためには、壊れにくい床材、においを防ぐための便器、手洗い場の併設など少しの改善が日常の快適さや家族の健康にどれだけ繋がるかを理解してもらう必要があります。

コミュニティの住民がより質の高い商品を買いたいと思っても、農村部まで供給が届いていないこともあります。そのため事業では地域の大工を対象にしたトイレの建設研修を実施し、コミュニティが求める品質のトイレを地域で建てられる体制を整えました。

また、手洗い習慣の定着に欠かせない石けんについても、地域の女性グループを中心に石けん作製研修を行い、地域内で生産・販売できる仕組みを構築しました。このことは雇用を生み出し、住民の生計向上にもつながります。地域の大工や女性グループを巻き込んだ取り組みは、雇用創出や所得向上にもつながり、社会課題解決と経済活動の両立を実現しています。これは企業にとっても、サプライチェーンや地域共生の観点で重要な示唆となります。

そしてこれらの需要と供給をつなぐ場として衛生展示会を開催しました。会場には様々なタイプのトイレの模型やパーツ、手洗い設備に浄水器など様々な商品が並び、住民が実際に見て触れて、自分の家庭にあった設備を選べるようにしました。

トイレの模型
トイレの模型

展示会の冒頭には地域の保健ボランティアによる、トイレを使うことや手洗いの重要性を伝える寸劇が行われたり、招待された地元の小学生による手洗いを呼びかけるオリジナルの詩の朗読があり、いつの間にか集まった会場付近に住んでいる子どもたちは笑いながら適切な衛生行動に関する学びに取り組むことができました。

小学生によるオリジナルの詩の披露
小学生によるオリジナルの詩の披露
集まった地元の子どもたち
集まった地元の子どもたち

水・衛生改善事業が目指す持続可能な支援

事業が終わったあとの現場に思いを寄せながら

外部支援に依存しない仕組みづくりは、長期的なインパクトを生み出すための重要な視点です。こうした取り組みは、企業の社会貢献活動においても、持続性と効果を高める上で参考となるアプローチです。
NGOの支援には期間が定められており、外から来た我々はどこかのタイミングで事業地を去る必要があります。しかし、コミュニティの住民はその後もその場所に住み続け生活を営んでいきます。
事業によって起きた変化が外部からの支援に依存する形である場合、事業が終了してしまったら以前の状態に戻ってしまうかもしれません。

「お買い物」という日々の生活で行われる営みにWVJの水・衛生改善事業が組み込まれる形で地域の衛生状態が改善されていき、子どもたちがより良い人生を歩めるようにと祈りながら残りの事業期間を駆け抜けていきたいと思います!

ビクトリア湖を背にして走る自動車

ワールド・ビジョンの水・衛生支援について

このような水・衛生改善の取り組みは、子どもたちの命と未来を守ることにつながっています。 こうした取り組みは、企業とのパートナーシップによってさらに広げていくことが可能です。社会課題の解決に向けた協働に関心のある企業の皆さまは、ぜひ取り組みをご覧ください。

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この記事を書いた人
ケニア駐在 プログラム・コーディネーター 遠藤拓海
ケニア駐在 プログラム・コーディネーター 遠藤拓海
青山学院大学国際政治経済学部卒。キングス・カレッジ・ロンドン大学院にて国際平和と安全保障について学ぶ。大学院卒業後、在ノルウェー日本国大使館にて専門調査員として勤務し、ノルウェーの国内・外交政策や情勢に関する調査・研究を担当。2021年12月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団。ケニアにおける母子保健事業、緊急食糧支援等を担当した後、2023年3月よりケニア西部における水・衛生改善事業のため、ケニアに駐在中。