ネパール駐在という働き方―現場と暮らしのあいだで過ごした3年間

投稿日|2026年3月9日
執筆者:加藤 奈保美
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ネパール極西での防災事業に携わりながら過ごした3年間。僻地への移動、同僚との日常、家族との暮らし――。現場と生活のあいだで経験した、ネパール駐在という働き方のリアルを綴ります。

*本事業の地域レジリエンス強化の取り組みについては、こちらの記事をご覧ください。

現場へ向かう道のり

外務省の「日本NGO連携無償資金協力」による助成ならびに皆さまのご支援を受け、 ネパールで3カ年にわたり取り組んできた防災事業が、まもなく一つの区切りを迎える。

縁もゆかりもなかったこの国での生活が、気づけばずいぶん長くなった。
せっかくの節目なので、このプロジェクトとともに過ごした日々を、少しだけ書き留めてみたい。

2年前、約4年のブランクを経て、再び現場のある仕事に戻ることが決まった。胸が高鳴ったのは事実だ。
同時に、「またあの現場通いが始まるのか」と、少し身構えた自分もいた。

現場は、机の上では見えないことを教えてくれる。
首都カトマンズから、空路、陸路で1、2日かけて向かう事業地。車道を離れてからは、コミュニティまで1~3時間のトレッキング。
距離があるからこそ見えてくる地域の豊かさや、課題の複雑さがある。

車道を離れたら、そこから先は徒歩
車道を離れたら、そこから先は徒歩

ただ、僻地。とにかく遠い。
遠い昔のブログにも、ネパールの事業地への道のりの大変さを書いた記憶があるが、今回も変わらない。
現場へ向かう道のりは、今でも毎回、少し覚悟がいる。

事業地は、チベット高原からネパール西部を南下し、インドでガンジス川へと合流するカルナリ川流域にある。
コミュニティに入るには、必ず吊り橋を渡らなければならない。

高所恐怖症の私にとっては、これはちょっとした試練だ。
けれど、バイクも山羊も水牛も、何事もない顔で渡っていく。
「そのうち慣れますよ」と言われ続けてきたが、残念ながら今も慣れてはいない。

それでも渡る。
怖さが消えるからではなく、その先に人がいるからだ。

移動は楽ではないし、環境も快適とは言いがたい。
それでも、やめたいと思ったことはほとんどない。
大変さよりも、数字では測れない手応えや、確かなやり甲斐のほうが、私を強く引き寄せていたのだと思う。

カルナリ川
カルナリ川
カルナリ川に架かる吊り橋
カルナリ川に架かる吊り橋

「持ち寄り」がつなぐ時間

そんな日々の中で、私が好きな時間の一つが、職場でのお昼だ。

ネパール人の同僚たちには、「持ち寄る」文化がある。
皆、気負わず、カレーの色移りが気にならないガラスやステンレスの容器に、家にあるものを入れて持ってくる。
私も息子の弁当の残りを詰めて、テーブルの真ん中に置く。それだけで立派なポットラックランチになる。
料理上手な同僚がいて豪華な日もあるし、バナナ一本を人数で分ける日もある。
でも、どちらも同じくらい楽しい。

仕事の話もするし、家族の話も、世界のニュースも飛び交う。
文化の違いを越えて関係が少しずつ深まっていく、この時間が私はとても好きだ。

事務所の持ち寄りランチ
事務所の持ち寄りランチ

駐在生活のなかで育まれた日常

そして、この長い駐在生活をいちばん自然に受け入れていたのは、息子かもしれない。

4歳でネパール生活を始め、今では13歳。
自転車で学校まで5分の道のりを走りながら、チヤ屋のおばちゃんやパン屋のおじさんと挨拶を交わす。
寒い朝には道端の焚火で暖をとらせてもらい、「遅刻するぞ」と近所の人に声をかけられることもある。
彼の日常の中には、特別なことではなく、ごく自然に小さなコミュニティがある。

家では、学校の出来事や友だちの話が話題になる。
その流れで、ネパールや日本のニュース、遠い国の出来事についても自然と話す。
身近な暮らしと世界の動きが、同じ時間の中に並んでいる。
それは、私が子どもだった頃とは、少し違う風景のように感じている。

現場では「地域のレジリエンス」を考え続けてきた。
振り返ってみると、こうした私自身の暮らしの中にも、同じような力が育っていたのかもしれない。
ネパールの地と人々に育ててもらっているのは、息子だけではない。
この生活そのものが、私を少しずつ変えてきた。

育ててくれたネパールの大地
育ててくれたネパールの大地

事業は一区切りを迎える。

けれど、現場で積み重ねてきた関係や経験が消えるわけではない。

現場と暮らしのあいだで過ごした時間。
それは劇的な出来事の連続というより、静かな日々の積み重ねだった。
もしこの文章が、「現場で働く」ということを、ほんの少しでも具体的に想像する手がかりになれば、うれしい。

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この記事を書いた人
ネパール駐在 シニア・プログラム・コーディネーター 加藤 奈保美
ネパール駐在 シニア・プログラム・コーディネーター 加藤 奈保美
神奈川県生まれ。早稲田大学および同大学院理工学研究科にてアジア建築史を専攻。在学中に阪神・淡路大震災のボランティア活動に参加したことを契機に、防災・復興支援をライフワークとする。卒業後は建設コンサルタント会社に勤務、自然災害分野を中心とした国内外のインフラ事業に従事。2008年6月にワールド・ビジョン・ジャパンに入団後、サイクロン後のミャンマーや大地震後のハイチで復興支援に携わる。東日本大震災後は岩手県一関事務所の責任者として被災地支援を統括した。2017年から2019年までネパールに駐在し、防災・レジリエンス事業を推進。2020年に一度退団後、2024年4月に再入団し、2026年2月までネパールに駐在、コミュニティの防災・レジリエンス強化に取り組んだ。