シリアの教育の現状と復興の課題|教育復興に向けた新たな出発

投稿日|2026年2月19日
執筆者:渡邉 裕子

ワールド・ビジョン・ジャパンのヨルダン駐在員の渡邉裕子と申します。シリア国内の事業をヨルダンから遠隔で監理しています。
このブログでは、シリア暫定政権樹立後の現状と、復興の中で深刻化する教育課題、学校に通えない子どもたちの実情と、学びの場を取り戻す支援の取り組みを紹介します。

長い紛争を経て初めて「海」を見るシリアの子どもたち – 同僚マリクの喜びの声 –

現場リーダーのマリク_blog 202602
現場リーダーのマリク(右から2番目)

シリアは2025年12月に暫定政権が樹立して1年と数か月経ちました。シリア国内の多くの地域で戦闘が止み、人々は地域間の移動が自由にできるようになりました。
私はシリア国内にいるワールド・ビジョンの同僚と一緒に仕事をしていますが、昨年の夏の終わりに同僚のマリクとオンラインで会議を始める前、雑談でこんな質問をしてみました。「今年の夏はどうだった?」

彼は、「今年の夏、初めて自分の子どもたちを海に連れて行って広大な海を見せることができたよ!」と嬉しそうに話してくれました。
長年の夢がかなったという話を聞いて、私もとてもうれしく思いました。

国際社会の支援不足とシリア復興に必要な莫大な資金

マリクのようにシリアの多くの人々は新しい一歩を踏み出してはいますが、長い間経済制裁を受けていたシリアには財源は乏しく、復興には国際社会の助けが必要です。しかし国際社会の情勢の変化もあり、支援は停滞しています。

小学校の教室の様子_blog 202602
小学校の教室の様子 車いすの子どもも通っているが学校にはスロープがなく、毎日先生が抱えて校舎に入れている


国連が2025年に人道支援のために必要と見積もっていた資金ですら各国から拠出されたのはわずか30%にとどまりました(※1)。ましてや復興となると、道のりは遠いというのが現状です。

2025年8月、世界銀行は13年以上に及んだシリアの紛争による破壊から住宅や公共インフラが復興するにはおよそ2,160億ドルが必要と予測する報告書を発表しました。そのうち、最も多額のコストを必要とするのがシリア北西部のアレッポ県の約643億ドルで、全体の3割を占めています(※2)。

帰還する難民・国内避難民の増加と、安全な教室の不足

教育に目を向けてみると、シリアではおよそ780万人の人々が安全な校舎等、教育分野の支援を必要としています(※3)。250万人の子どもたちは学校に通っておらず、現在学校に通っている子どもたちの間でも、160万人の子どもたちが様々な理由で学校中退の危機にあると言われています(※4)。

特に校舎の損傷は激しく、シリア全土にある学校の40%が、シリア北部や中部を中心に7,849校が閉校しています(※5)。授業を行っている学校でも、壁や天井に穴が空いて危険な状態だったり、窓やドアがない寒い教室で勉強している子どもたちがたくさんいます。全体的に教室の数が不足しているため、多くの学校で午前と午後の二部制で授業を行っていますが、すべての子どもを受け入れることができません。

壊れた手洗い場と教室_blog 202602
現在の手洗い場の様子(左)と教室の状況(右)

暫定政権樹立後、シリア国内のほかの場所や国外に逃れていた人たちが徐々に帰還してきており、2025年から2026年にかけて、難民となっていた150万人の子どもたちが帰還すると予想されています(※6)。また国内避難民の約54%がシリア北西部に帰還したと見込まれており(※7)、急激な人口増加に対応するためにもこの地域の安全な教室の確保が急務となっています。

また教室のみにとどまらず、トイレが破壊されて機能していない学校も多数あり、特に女の子にとって就学の障壁となっています。また障がいを持つ子どもたちにとっても、教育へのアクセスの妨げとなっています。

「学校が始まるかもしれない」――子どもたちが抱いた小さな希望

前出の同僚のマリクが先日こんなことを話してくれました。
彼は教育分野の支援担当で、昨年の9月、シリア北西部の学校をまわって学校の状況を調査していましたが、9月28日のシリアの新学期の朝にとある学校に行くと、大勢の子どもたちが集まっていたそうです。

その村は何年もの間戦闘の前線となっていたため多くの村人は避難しており、集まっていた子どもたちの大半は国内のほかの地域から最近帰還した子どもたちでした。村の学校は損壊がひどく、地域にある教育局からも住民に対し学校が再開するというアナウンスはなかったそうですが、『ひょっとしたら学校が始まるかもしれない』そう望みを抱いて子どもたちは自主的に集まって先生が来るのを待っていたそうです。

その学校ではその後も3日ほど続けて子どもたちが学校に登校してきましたが先生は現れず、そのうちに今年は学校は開校されないんだと悟り、あきらめて学校に来なくなったそうです。

教育を失うことで奪われていく、シリアの子ども時代

マリクが行った学校だけでなく、シリアの至るところにある学校でこのような光景が繰り広げられていたのかもしれません。
そう思うと、胸が痛みます。

シリアの子どもたち、特に貧困家庭では、男の子は10歳を過ぎるとやむなく働いて家計を支えたり、10代の女の子は早期に結婚させられることがあります。シリアの子どもたちが子どもでいられる時間は短く、子ども時代の一年というのは日本の私たちが考えている以上に貴重な時間です。

学びの場を取り戻すために――ワールド・ビジョンの取り組み

こういった状況を解消したいと思い、ワールド・ビジョン・ジャパンは今年はシリア北西部でマイルストーン・プロジェクトを計画しています。
学校の修復や机や椅子といった学校家具の提供を行い、少しでも多くの子どもたちが安全で暖かい教室で学ぶことができるよう、支援することができたらと考えています。
シリアで損壊しているおよそ8,000校のうち、たった数校の支援かもしれませんが、それでも数千人の子どもたちに安全な学びの場を提供できるようになります。
日本の皆さまとともに、ぜひこの支援進めてまいりたいと思います。シリアの子どもたちの、新たな地での出発に力を貸していただけたら幸いです。

マイルストーン・プロジェクト 過去の事例

渡邉さんブログ 
破壊された校舎

渡邉さんブログ
支援により修復された校舎

現在募集中のマイルストーン・プロジェクト

シリア北西部 学校修復支援事業

マイルストーン シリア

長い紛争を乗り越え、ようやく復興への一歩を踏み出したシリアの子どもたち。
その歩みを支え、「教育」という希望を届けるために、マイルストーン・プロジェクトを実施します。

一口当たり100万円のご寄付を複数の方々から頂き、共同で一つの事業を実施します。
共同で支援することで、より規模の大きい事業を実施し、子どもたちの必要に応えることができます。
ぜひお力を貸してください。

募集期間:2026年2月1日(日)~3月31日(火)

参考資料

マイルストーン シリア

【3/5(木)開催】マイルストーン・プロジェクト オンライン説明会~新たな未来に向かって シリアの子どもたちは今~

マイルストーン・プロジェクトは、一口あたり100万円のご寄付を複数の方々からお預かりし、共同で一つの事業を実施するものです。2019年より毎年実施し、これまでにのべ255名(法人含む)が参加くださいました。共同で支援いただくことで、規模の大きな事業を実施し、現地の子どもたちの必要に応えることができます。

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国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンは、
開発援助(チャイルド・スポンサーシップ等)、緊急人道支援、アドボカシーを活動の3本柱として世界で活動しています。

世界の問題と子どもたち

貧困、紛争、災害。世界の問題が複雑に絡み合って、
子どもたちの健やかな成長を妨げています。
子どもたちが暮らしの中で抱えている国際問題をご紹介します。

この記事を書いた人
ヨルダン駐在 プログラム・コーディネーター 渡邉 裕子
ヨルダン駐在 プログラム・コーディネーター 渡邉 裕子
大学卒業後、一般企業に勤務。その後大学院に進学し、修了後はNGOからアフガニスタンの国連児童基金(ユニセフ)への出向、在アフガニスタン日本大使館、国際協力機構(JICA)パキスタン事務所等で勤務。2014年11月にワールド・ビジョン・ジャパン入団。2015年3月からヨルダン駐在。

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