ストリートチルドレンとは?人数の多い国やフィリピンでの現状と支援
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この記事でわかること
ストリートチルドレンとは、路上や公共の空間で生活する子どもたちを指し、貧困や家庭内暴力などが主な背景です。特にフィリピンやモンゴルでは深刻で、マンホールで暮らす子どももいます。ワールド・ビジョンはこうした子どもたちの保護と支援、教育機会の提供に取り組んでいます。
世界の子どもたちを取り巻く問題について考えるとき、「ストリートチルドレン」という言葉が頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。多くの開発途上国に存在するストリートチルドレンは、貧困をはじめとするさまざまな社会の課題と密接につながっているのです。
この記事では、はじめにストリートチルドレンという言葉の定義を確認し、「マンホールチルドレン」との違いについてもご紹介します。その上で、ストリートチルドレンが生まれる原因やストリートチルドレンの多い国など、この問題の現状を紹介し、フィリピンのストリートチルドレンの生活実態を詳しくお伝えします。最後に、ストリートチルドレンや貧困地域の子どもたちに対してどのような支援が行われているのか、具体的な活動事例を交えてご紹介します。
ストリートチルドレンとは?定義とマンホールチルドレンとの違い

まずは、ストリートチルドレンという言葉が具体的にどのような子どもたちのことを指すのか、その定義を確認しておきましょう。ここでは、ストリートチルドレンと似た意味で使われる「マンホールチルドレン」という言葉との違いも解説します。
ストリートチルドレンの定義
ストリートチルドレンという言葉には統一的な定義はありませんが、2017年に国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)がストリートチルドレンについて公表した一般的意見では、次のような定義づけがなされています(注1 p.9)。
1.生存ないし仕事のために街路に依存する子どもたちで、ひとりでいるか、仲間や家族といるかは問わない。
2.より広い意味で、公共の空間との強い結びつきを形成し、日々の生活とアイデンティティに対して街路が不可欠な役割を果たしている子どもたち。
ここで言う公共の空間とは、路上のほかに街路に立つ市場や公園、公共の広場、バスや電車の駅などを指し、学校や病院など公共の建物は含みません。
路上だけではなく、公園や駅などを含む公共の空間で生活している子どもたちが広く「ストリートチルドレン」と呼ばれているのです。
下水道で暮らす「マンホールチルドレン」
マンホールの中で暮らす「マンホールチルドレン」についても、聞いたことがある人もいるかもしれません。日本では1998年にNHKが制作したモンゴルのマンホールチルドレンのドキュメンタリー番組「マンホールチルドレン–混迷するモンゴルからの報告–」が放送されて認知度が高まり、それから20年を経た2019年にもその続編が放送されました。
マンホールチルドレンとは、1992年のモンゴルの社会主義体制崩壊以降に、行き場を失って冬場に寒さを避けてマンホールで暮らすようになった子どもたちのことを指します。モンゴル政府や国際機関はこうした子どもたちをストリートチルドレンと呼んでいるため、実態はストリートチルドレンと同じと言っても差し支えないでしょう(注2 p.175-176)。
ただし、モンゴルは、冬には気温がマイナス30度にまで下がるため、路上にいると凍死や凍傷の危険があります。路上など公共の空間で暮らす子どもたちが冬場に暖を取ることができる場所は、マンホールしかありません。このように冬場にマンホールに身を寄せるという地域的な特徴を強調した呼び名が「マンホールチルドレン」であり、寒冷地のストリートチルドレンを指して使われる特別な表現なのです。
ストリートチルドレンの現状:人数の多い国とフィリピンの事例

続いて、ストリートチルドレンの現状を詳しく見ていきましょう。まずはストリートチルドレンが生まれる原因、ストリートチルドレンを取り巻く問題を解説し、どのような国々にストリートチルドレンが多いのかを示すデータもご紹介します。その上で、具体例としてフィリピンのストリートチルドレンの生活実態を詳しくお伝えします。
ストリートチルドレンの現状
子どもたちがストリートチルドレンとなる背景はさまざまですが、家庭内暴力や児童婚、貧困など、家庭の問題が主な原因であるとされています。
ただし、すべてのストリートチルドレンが24時間ずっと路上で過ごしているわけではありません。日中には路上で働き、夜には家に帰る子どもも多く、ひとりまたは子どもたちだけで生活していても定期的に家族と交流している場合があります(注3)。
子どもたちが自力で生計を立てるための手段は限られているため、薬物の運び屋になるなど、違法行為に走ってしまう場合があります。薬物の取引に関与してしまうと、ストリートチルドレン自身が薬物依存に陥る危険もあるのです。
また、当然ながら路上で生活していると入浴をする機会もありません(注4)。そのため衛生的な問題は避けられず、感染症や栄養失調などのリスクとも隣り合わせです。このように、ストリートチルドレンは本来享受できるはずの権利を行使できない状況に置かれ、さまざまな危険にさらされながら生活しています(注4)。
ストリートチルドレンの多い国
2006年時点で、目に見えてストリートチルドレンが多いとされた国は以下になります(注5 p.72-81)。
| 地域 | 国 |
|---|---|
| アフリカ | アンゴラ、ブルンジ、カメルーン、チャド、エジプト、エチオピア、ケニア、ルワンダ、シエラレオネ、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ジンバブエ |
| 中南米 | ブラジル、コロンビア、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、ジャマイカ、メキシコ、ニカラグア、ベネズエラ |
| アジア | カンボジア、インド、インドネシア、フィリピン、ベトナム |
| その他 | ロシア、トルコ、ウクライナ |
BRICSと呼ばれる経済成長が著しい国の中には南アフリカやブラジル、インドなど、経済発展が進んでいる国々も多数含まれています。
また、ロシアやトルコ、ヨーロッパ地域の国々にも多数のストリートチルドレンが存在することが指摘されており、ストリートチルドレンが開発途上国だけの問題ではないことがわかるでしょう。
このように世界中に多数存在するストリートチルドレンですが、実際のところ、どのような生活を送っているのでしょうか。上記の表にもあがっているフィリピンのストリートチルドレンの生活実態を、詳しくご紹介します。
フィリピンのストリートチルドレンの生活実態
ストリートチルドレンが20万人以上いるとされるフィリピンでは、国連児童基金(UNICEF)が長年、ストリートチルドレンへの支援に取り組んでいます(注6)。以下は、UNICEFが紹介している、首都マニラで暮らすあるストリートチルドレンの少年の生活の実態です(注3)。
マニラ首都圏の路上で弟と一緒に暮らしている14歳の少年は、午前1時から市場で野菜の皮むきをして、30ペソ(約74円、日本円で2.46円/ペソ:2022年11月25日の為替レート)を稼ぎます。昼寝を挟んで、今度は屋台の周りでリサイクル可能な容器などを集め、50ペソ(約123円、日本円で2.46円/ペソ:2022年11月25日の為替レート)を手にします。雨の日には、大通りで車のフロントガラスを磨くそうです。夏の暑い日にはマニラの港まで行って水浴びをし、ムール貝やカキを拾って浜辺で調理して食べることもあるそうです。
この少年のようなフィリピンの首都マニラで暮らすストリートチルドレンの多くは、親の怠慢や虐待を理由に家を離れたといいます。ストリートチルドレンたちは、上で紹介したような仕事のほかにも、路上で花輪を売ったり、商店や工場で手伝いをしたりして生計を立てているのが現状です。ときには物乞いをすることもあれば、生きるために盗みを働くこともあるのです。
ストリートチルドレンや貧困地域の子どもたちへの支援

過酷な環境で暮らしているストリートチルドレンに対して、国際社会はさまざまな形で支援を行っています。ここでは、まずUNICEFによるストリートチルドレンへの支援活動をご紹介し、ストリートチルドレンを生む大きな要因となっている貧困に焦点を当てて、貧困地域の子どもたちへの支援活動についても詳しくお伝えしていきます。
国際社会によるストリートチルドレンへの支援
子どもへの支援を中心的に担っている国連機関のUNICEFは、現地の政府やNGOと協力して、さまざまな形でストリートチルドレンを支援してきました。
例えばフィリピンでは、地元のNGOを支援し、ストリートチルドレンが働きながら学校に通い続けられるようにしたり、職業訓練の機会を提供しています。職業訓練のプログラムでは、NGOだけではなくホテル業界とも協力しており、ホテルでの研修を経て、子どもたちがホテルに就職するという実績を残しています(注7)。
これ以外にも、NGOを通じてストリートチルドレンへの奨学金の提供や制服、カバン、勉強道具などの支援を展開しているほか、正規の学校に通えない子どもたちに対しては、非公式の教育の機会を提供。子どもたちが基礎的な知識を身につけ、高校卒業資格を取得できるよう支援しているのです(注7)。
こうしたUNICEFのストリートチルドレン支援の背景にあるのは、ストリートチルドレンが生まれる根本的な原因は深刻な貧困や格差であるという認識です。UNICEFは、子どもたちが貧しさのサイクルから抜け出せるよう、家族に対し、子どもを育てる力が身につくように条件付き現金給付プログラムも実施しています。このプログラムは、子育てに関する研修の機会を提供するとともに、定期健診などの医療保険サービスや教育に必要な費用の一部やすべてを肩代わりするというものです(注3)。
貧困地域を支援するチャイルド・スポンサーシップ
上記で紹介したUNICEFの活動にも表れているとおり、貧困はストリートチルドレンを生み出す大きな原因となっています。ストリートチルドレン問題を解決に導くためには、すでにストリートチルドレンとなっている子どもたちへの支援だけではなく、貧困地域の子どもたちやその家族への支援も欠かせません。
ワールド・ビジョンのチャイルド・スポンサーシップは、世界中の貧困地域において、それぞれの地域に根差した開発援助を行い、子どもたちの健やかな成長を目指すプログラムです。
皆さまからいただいた支援金は、子どもの人生に変化をもたらすことを目指し、長期でさまざまな支援活動に使われます。地域が抱える課題を解決し、子どもたちが希望ある未来を歩めるよう、地域の人々とともに考えて計画・実行していくという支援のあり方、それがチャイルド・スポンサーシップの特徴といえます。
チャイルド・スポンサーシップでは、支援する地域の人々が、ほかからの支援がなくとも自分たちで子どもたちを健康に育てること、学校に通わせること、問題を解決できるようになることを目指しているのです。このように、教育、保健衛生、水資源開発、収入向上などのさまざまな支援活動を、世界中の貧困地域で長期にわたって展開しています。
フィリピンの貧困地域でのワールド・ビジョンの支援
ワールド・ビジョンは、フィリピンでもチャイルド・スポンサーシップをとおした支援を続けてきました。
現在、フィリピンで支援対象となっているサマール地域とレイテ地域は、いずれも日々の食料にも事欠く貧困世帯が多い地域です。ワールド・ビジョンはこの2地域で、住民たちが貧困から抜け出せるよう、農業や家畜飼育に関する技術研修を行ったり、貯蓄・融資組合の活動支援を行っています。
虐待や育児放棄、人身取引など、ストリートチルドレンを生み出す主要因である深刻な家庭問題も見られることから、子どもの保護についての教員向けの研修、子どもの権利や責任について子どもたち向けの啓発活動なども実施しています。
サマール地域で暮らすイウォちゃんという女の子は、以前は隙間だらけで雨漏りのする家に住んでおり、お腹が空いて勉強に集中できないこともあったそうです。チャイルド・スポンサーシップの支援が始まってからは、子どもの権利についての集会や衛生改善活動などに参加。リーダーも経験したことから自分に自信が持てるようになり、学校の成績も上がりました。台風で家が壊れても、「必ず再び立ち上がれる」と希望を持って、前向きな気持ちで生活することができています。
チャイルド・スポンサーシップで貧困地域の子どもを支援しよう

チャイルド・スポンサーシップは、月々4,500円、1日あたり150円の継続支援をいただくプログラムです。チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、フィリピンのイウォちゃんのように支援地域に住んでいる子ども、”チャイルド”をご紹介します。
チャイルドは、皆さまに支えられている存在です。毎年、支援地域がどのように発展しているのか、チャイルドがどのように成長しているのかなどを皆さまにご報告します。チャイルドからも1年に1度、直接手紙が届きますので、成果を実感していただけます。
子どもたちが貧困によって教育の機会を奪われたり、危険にさらされたりせず、健やかに安全な環境で育ち、未来に夢を描けるよう、チャイルド・スポンサーシップへのご協力をお願いいたします。
参考資料
- 注1 OHCHR: Rights of Children in Street Situations
- 注2 照屋朋子: モンゴルの「マンホールチルドレン」の保護活動に関する考察 ―保護活動の現状とその課題を中心に―
- 注3 UNICEF: 映画『ブランカとギター弾き』をご覧になったみなさまへ
- 注4 在タイ日本国大使館: 日本政府、「バンコクにおけるストリートチルドレンのための車両整備計画」への支援を決定
- 注5 Consortium for Street Children: State of the World’s Street Children: Violence
- 注6 UNICEF: 210万人 危険な労働に<フィリピン>
- 注7 UNICEF: フィリピン:ストリートチルドレンに教育の機会を
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