【イラク】子どもたちに未来を生き抜く力を~モスル西部での教育支援~7年間にわたり教育分野での支援を実施

投稿日|2025年4月18日
更新日|2025年4月28日
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2017年末に武装勢力による占拠からイラクのモスル市が解放され、7年半が経ちました。

ワールド・ビジョン・ジャパンは、モスル解放直後の2018年以降、皆さまからの募金とジャパン・プラットフォーム(JPF)の助成金で、モスル西部の子どもたちを支援してきました。なかでも教育の分野では、戦闘で激しく損傷した学校の校舎と施設の修復、学校備品と学用品の提供や補習授業の実施、教員の能力強化などに取り組んできました。この記事では、その歩みと成果をご紹介します。

モスルの解放から復興へ~奪われた教育の機会~

モスル市では、2016年10月からイラク軍による奪還作戦が勃発し、空爆などの激しい戦闘により街は壊滅的な打撃を受け、多くの学校は損傷したり破壊されてしまいました。やがてモスルが解放されると、難民や避難民として他の地域に避難していた人々は帰還し始めました。

戦闘で破壊されたモスルの街
戦闘で破壊されたモスルの街

しかし、復興への懸命な努力が続くなか、今度は新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。

全ての学校は休校となり、後に遠隔授業が始まりましたが、多くの家庭ではパソコンやスマートフォンなどの機器を買うことができませんでした。完全な対面授業が再開されるまでに2年以上がかかり、子どもたちの教育に深刻な影響を及ぼしました。

学力が著しく不足しているため小学校高学年になっても文章が書けず、進級できずに退学する子どもや、そのようなリスクにさらされている子どもが増加しました。一度退学した子どもたちが、再度学校に戻ることは容易ではありません。基礎的な読み書きができないまま退学すると、将来的に必要な経済社会生活上のスキルが身に着かず、就労の機会を広げたり貧困から脱却したりすることが困難になります。また、地域や国の復興への障壁となることも懸念されます。

子どもたちの学力を取り戻すために~ワールド・ビジョンの支援~

子どもたちが学校で学び続けることができるよう、紛争直後には学校施設の修復・修繕や学用品の配布などを中心とした支援を行いました。

新型コロナウイルス感染拡大が収束し始めた2022年からは、教育機会の損失により公用語であるアラビア語の基礎的な読み書きの力が不足している子どもたちを対象に、補習授業「CUP(Catch Up Program) を提供しています。CUP32のセッションからなるプログラムで、これまでにモスル西部の6つの小学校の児童875人が受講しました。続けて、簡単な計算能力を身に着けるセッションも、間もなく開始する予定です。

補習授業(CUP)でアラビア語を学ぶ子どもたち
補習授業(CUP)でアラビア語を学ぶ子どもたち

また、モスルでは生徒数に対して教員数が少ないうえに、教員は政府からの研修機会をなかなか得られずにいます。教員の指導力不足による授業の質の低下も、小学校の高い退学率の一因です。

そこで本事業ではCUPの提供に加え、教員の能力強化も継続的に支援してきました。紛争直後には、子どもたちの心理面に配慮した「緊急下における教育」に関する研修を主に実施し、緊急期を過ぎた近年は、授業計画の立て方や効果的な教え方、主要教科別の教授法、教職員の基本倫理、子どもの保護の基礎知識などの研修を実施しています。

教員を対象とした能力強化研修の様子
教員を対象とした能力強化研修の様子

6校の小学校を対象とした支援の結果、研修を受けた教員の97%が、「以前より授業運営が上達し、自信が持てるようになったと感じている」とアンケート調査で答えました。また、対象校の86%の児童が、「教員の教え方が向上したと感じる」と回答しています。教員研修とCUPを通した支援により、対象校では学力不足や学習の遅れを理由とした退学率が、前年度より18ポイント減少しました(2023年度実績)。

支援を受けたサリムくん(12歳)

サリムくんは小学6年生で、学校の用務員をしている両親と5人の兄弟とともに、学校の敷地内にある質素な家に住んでいます。以前は勉強に苦労し、読み書きが思うようにできませんでした。サリムくんは、次のように話します。

「前はうまく読むことができなかったけれど、今はできるようになりました。前は、読めなくて悲しかったけれど、今は何でも読んだり書いたりできるようになって、とても嬉しい

サリムくんのお母さんは、サリムくんが以前は勉強がよくできていたのに、学年が上がるにつれて英語、算数、社会が苦手になったことに気づきました。そこで、ワールド・ビジョンが学校での支援を開始すると、サリムくんは補習授業(CUP)に登録しました。CUPのセッションは1回45分で、週2~3回放課後に実施されていました。CUPは、アラビア語の読み書きを身に着ける内容で、他の科目を理解することにも役立ちます。基本である国語を習得することで、児童は他の科目をよりよく理解できるようになるのです。

お母さんは、こう話します。

「以前の息子は読むのも書くのも少し遅かったけれど、この補習プログラムを受けてからは、綴りと読み書きが上達しました。今は意欲的で、学業を修了して将来は教師になりたいと考えているようです」

補習授業を受けることで、サリムくんのアラビア語の能力は向上し、基礎学力も上がりました。教師になる夢を抱きながら、サリムくんは以前にも増して熱心に勉強に励んでいます。

(2025 年 3 月執筆)

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