本を読むということ
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9月末、8年半勤めた事務局長としての役割を次の世代に引き渡しました。スタッフに、事務局長時代に影響を受けた本について聞かれた時、「問答無用(笑)」で2冊の本が思い浮かびました。
ビジネス書と小説の読み方
私の読書スタイルは少し極端かもしれません。ビジネス書は仕事柄、それなりの量に目を通しますが、まず、「はじめに」「最後に(あとがき)」、そして「目次」を眺め、学びたい部分をつまみ読みします(著者の皆さま、失礼をお許しください!)。限られた時間で、今必要な実用の知恵を得るための読み方です。
一方で、小説は最初から最後まで没頭して読み切ります。とくに、人の感情や人生の奥深さに触れられるのは、小説が一番と思っています。

藤沢周平との出会い
なかでも大きな影響を受けてきたのは、山形県鶴岡市出身の時代小説作家・藤沢周平です。ほぼ全作品を読破する大ファンですが、初めて手にしたのは27歳の頃。「三屋清左衛門残日録」という藤沢周平の代表作のひとつです。当時の上司から勧められて読み始めました。その頃の私はまだ駆け出し。組織の中でどう役立ち、どう生きていくかを模索していた時期です。作品は、主人(藩主)に仕え、側近として政府を司る側用人であった主人公が、家督を譲り隠居した後の日々を綴ったもの。」その作品世界に描かれている「出世の陰に潜む葛藤と悲哀」とはまだまだ程遠かった時期でしたが、作者の藤沢周平さん自身が大変な苦労人だったからこその人への温かい視点、人に対する大きな温かい包容力が心に響きました。
60歳を迎え、清左衛門世代となった今、あらためて読み返すと若い頃には気づかなかったことに心が留まります。「家族の大切さ」や「人の弱さに寄り添う温かいまなざし」がより見えてきたように思えました。
カズオ・イシグロ『日の名残り』と重なる思い
もう一冊、時々読み返すのはカズオ・イシグロの『日の名残り』です。映画化もされています。映画ではアンソニー・ホプキンス演じる主人公の執事の姿は、藤沢周平の作品の三屋清左衛門や、他の藩士たちとどこか似ているように私には映ります。主人に仕えることを自らの使命とし、ときに自分を犠牲にしながらも、信じるものに力尽くしていく。そんな登場人物たちに、職業人として悩む時、落ち込んだ時、幾度となく励ましてもらいました。
読書とは
以前何かの番組で、カズオ・イシグロさんが、小説は人の感情を綴るときでも直接「嬉しい」、「悲しい」とは書かない。読み手が行間から感じ取るのが大切、と話しているのを聞いたことがあります。だからこそ、個人の経験や、その時々の置かれている立場や状況によって同じ本でも受け取るものが変わり、それぞれの支えや励ましとなるのだと思います。
今の心境
かくいう私は、これまでいわゆる「振り返り」が苦手でした。日記を書くのも、後で読み返すのが何となく気恥ずかしくて嫌いでした。でも最近は、恥ずかしかった出来事や自分も含めて少しずつ受け止められるようになってきました。
今、あらためて8年半の事務局長としての自分を振返っています。振り返って(ビジネス書のように)何かを学ぶというより、事実を振返り、その「行間」から起こる感情を、(小説のように)静かに見届ける、といった感じでしょうか。そんな自分が少し意外だったりもします。若いときに上司に薦められたこの本が、何度も読み返すうちに、引退するこの年齢になって愛読書として紹介できるようになるとはー 27歳の私には想像もつきませんでした。薦められたものを受け取って一歩進んでみることが、人生にひとさじの豊かさを加えてくれるのだな、と感謝しつつ振り返っています。
編集後記
聞き手 マーケティング部 堀切かおり
「接着剤のような存在だ!」と前事務局長の木内は言われていました。
それは、人が話そうとしていることを敏感にキャッチし、聞き手が理解しやすいように“翻訳”して伝える——そんなトランスレーションの達人だからです。
その秘密を少しでも見つけて、これから仕事人生を歩んでいく人たちと分かち合えたらと思い、話をうかがいました。
すると、現役時代には語られなかった本音にも触れることができ、私自身にとっても、仕事人生の「ひとさじの豊かさ」となるような時間となりました。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。
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