かっこいい93歳

投稿日|2025年9月25日
執筆者:WVJ事務局
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敬老の日に際して、『かっこいい大人』と題して、ワールド・ビジョン・ジャパンの理事である湊晶子先生にインタビューを実施しました。湊晶子先生は、私たちの質問に一つひとつ丁寧に答えてくださいました。インタビューの間も笑顔が絶えず、いきいきとした様子でお話してくださった姿はとても印象的です。このブログでは、その模様をインタビュー形式で抜粋してお届けいたします。 

イキイキとした笑顔の湊先生
イキイキとした笑顔の湊先生

笑顔の秘訣、『切り替えの名人』になること 

—自己紹介をお願いします。 

現在93歳です。戦前、戦中、戦後を駆け抜けてきた世代です。私が東京女子大学に神戸から上京して入学したのは1951年、今から74年前です。卒業してアメリカに留学した1956年は今から69年前。日本にはまだ男女雇用機会均等法もなく、女性が自由に働けない時代でした。そういう時代に、アメリカではもう女性がバリバリ働いていたので、留学時代は圧倒された毎日でしたね。帰国してからは、28歳で大学の教師となり、88歳まで60年間、4つの大学で仕事をしました。その間に3人の子育てをしました。外から見ると苦労のない、非常に幸せな人生を送ってきたように見えるようで、よく「お幸せな一生を送られたのでしょうね」と言われます。しかし、悩みのない人生?とんでもございません!長男が高校1年、次男が中学2年、長女が小学4年の時に、夫が脳出血で突然倒れて、一言の会話もなく、亡くなりました。この時私は本当にどうしようかと思いました。苦労を重ねました。一言自己紹介としてお話させていただきました。

—今も疲れた様子など全く見えず笑顔ですが、なにか心がけていることはありますか? 

ありますよ。『切り替えの名人』になることは生活を楽にします。仕事での緊張など外でのストレスを家に持ち込まないように心掛けました。家に入ったら徹底してマザー(母)、ワイフ(妻)です。夫が疲れて帰ってきて、言い合ったらストレスが溜まります。「お帰り!」の一言が彼をホットさせることを若い時に学びました。当然子ども達にも大きな影響を与えます。ですから私は仕事から帰ると、家では(スーツを脱いで)着物を着ていました。

インタビューの後には、心温まるおもてなしまで。優しさあふれるお母さんの一面に触れました。
インタビューの後には、心温まるおもてなしまで。優しさあふれるお母さんの一面に触れました。

93歳、これからやりたいこと、やり続けること 

—今のご自身についてお聞きしたいです。 

ワールド・ビジョンと国際開発救援財団の理事として、途上国の発展のために協力させていただいています。今も2人の子どものチャイルド・スポンサーをしています。これはワールド・ビジョンの初期の頃からです。88歳まで現役でしたので、忙しくて今までチャイルドに手紙を書く時間がありませんでした。だからこれからやりたいこと、それはチャイルドに手紙を書くこと。さっそく手紙を書きますね。

—健康や心を前向きにするために日頃工夫していることはありますか

体操をする。体操もただ体操するのではなく、壁にかかと、背骨、肩、頭をつけて、手と腕を上に挙げた姿勢でテレビを見るんです。5分くらいね。これは若い時から実行しています。それから必ず1日に2000歩は歩く。歩きながら考えていると、いろんなアイデアが浮かんできます。あとは、掃除、洗濯、食事の準備(一人分ですが)、買い物、すべて若い時と同じように一人でこなしています。

年を重ねることは、恵み。少女のような感動をいつまでも 

—今も一人で全てをこなすのはすごいですね。年齢を重ねることに対してどう感じていますか 

私にとって、年を重ねるということは『恵み』なんです。しんどいとかそのような感覚ではありません。年を取るというのは、年を重ねるのではなくて、捨てる方の『トル』なのよ。一歳ずつ若くなる。私はそういうアイデアで生きています。いいでしょう?もちろん一つずつできなくなることがある。忘れやすくなるし、人の名前はなかなか覚えられないし、出来なくなることは増えてきますが、それ以上に心の豊かさが増していきます。 

あと、『少女のような感動をいつまでも』って学生によく言いました。今はいいけど、年を取っても少女のような感動をいつまでも持ちなさいと。若くても老け込んでいる人もいます。年を取っても生き生きしている人もいるしね。何が違うか、これは『好奇心』を持っているか持ってないかの違いです。問題意識を持ち続ける。これが大事。若さを保つことが必ずできます。90歳過ぎても、日常の些細なことに好奇心を持ち続ける生活は若さを保つ。次は何をやるか、目をキラキラさせて。 

多くの質問に真剣に答えてくださる湊先生
多くの質問に真剣に答えてくださる湊先生

失敗ではなく、経験。『も』の世界で生きる

—新しいことに挑戦するとき、どうやって一歩を踏み出しますか 

トンネルにしゃがみ込んでいたら、何も発見できない。トンネルから出られないですよ。一歩進んで半歩ずれ落ちたっていいじゃないか。半歩進んでいます。これは私がいつも問題にぶつかった時に思うことです。失敗したって構わないのですよ。そもそも私の頭の中には失敗という言葉はありません。失敗ではなく経験なのです。だから半歩進んでいる。それでいい。前に行く。必ず行く。こんなふうにすごく積極的な人生を生きてきました。

—将来に不安を抱いている若い世代にどんな言葉を届けたいですか 

不安っていうのは、自分が不安になる材料を抱えているから不安になるのです。だから1日の最初にやることのリストがあったとして、やりたくないことは後回しにするものなのです。私はそれをやめて最初にするのです。後回しにしない。たとえ問題解決に至らないとしても、一番やりたくないことからスタート。それで1日ゆっくり過ごせます。それで100%できたと思わなくてもいい。できなくてもいいのですよ。70%でも60%でも一歩踏み出しておけば必ず解決する。 

そして、もう一つ若い方が元気よく、心地よく、自信持って生きるために大事なこと。それは『しか』か『も』をはっきりさせることです。例えばコップ半分の水を見て、「あ、半分しかない」と思うか「お、半分もある」と思うか。これによって子育ても、これからの生活も全部変わる。私は『も』の世界で生きてきました。これ『しか』ないと思わない。積極的人生の秘訣です。 

『ぶどうは砕かれて美味しいぶどう酒になる』 

—最後に、読者のみなさまへの一言をお願いします 

これまでの講演を必ずこの言葉で終えました。「ぶどうは砕かれて美味しいぶどう酒になる」 ぶどうのままではだめ。ぶどう酒にならないのです。砕かれて、ぶどう酒になる。これが私の座右の銘です。私がハーバード大学の客員研究員で呼ばれていた時に、ヘンリ・ナウエン先生もキャンパスにおられました。私がとぼとぼハ-バード・ヤードを歩いていたら、向こうからヘンリ・ナウエン先生が歩いて来られて、「おお、アキコ!」と言って、次の言葉を語りかけて通り過ぎて行かれました。

 Crushed grapes produce delicious wine! 
 『ぶどうは砕かれて美味しいぶどう酒になる』 

いただいたご著書には、聞ききれなかったメッセージがぎっしり。でも今回は何より、ご本人の力強い言葉を直接伺えたことに感謝しています。
いただいたご著書には、聞ききれなかったメッセージがぎっしり。でも今回は何より、ご本人の力強い言葉を直接伺えたことに感謝しています。

編集後記 

聞き手 マーケティング第1部 且田真理 

「お会いできて、心の底から良かったです。」この言葉が、自分の口からついて出たとき、私はインタビュアーという立場を超えて、一人の人間として、何か大切なものに触れたのだと気づきました。語られる一つひとつの言葉に、気づけば何度もうなずき、何度も心が動かされていました。記事には書ききれなかった質問をいくつか投げかけた時にも、返ってきたのは変わらぬ優しさでした。「大丈夫よ」その一言が、なぜこんなにも心に残るのか。きっとそこに本当の信頼と、経験、願いが込められていたからだと思います。この出会いをきっかけに、私も『も』という世界の中で、もっとしなやかに生きていけそうです。 

聞き手 マーケティング第1部 吉開雄基 

仕事術から健康法、また英語学習のコツまで、多岐にわたる話題を湊先生は語ってくださいました。1時間にも及んだインタビューでしたが、湊先生は終始笑顔で背筋を伸ばして話しておられ、今も「積極的な人生」を歩んでいらっしゃるのだなと思わされました。「少女のような感動」を常に抱く湊先生の歩みを読者の皆さまに伝えることができたならば幸いです。 

この記事を書いた人
WVJ事務局
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世界の子どもたちの健やかな成長を支えるために、東京の事務所では、皆さまからのお問合せに対応するコンタクトセンター、総務、経理、マーケティング、広報など、様々な仕事を担当するスタッフが働いています。
NGOの仕事の裏側って?やりがいはどんなところにあるの?嬉しいことは?大変なことは?スタッフのつぶやきを通してお伝えしていきます。

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