ヨルダンの難民受け入れ|出身国や数の変化と歴史、日本の支援状況

投稿日|2025年3月30日
更新日|2025年6月16日
  • 難民
  • #ヨルダン
  • #中東
  • #日本
  • #難民

この記事でわかること

ヨルダンはシリアやイラクと国境を接し、多くの難民を受け入れています。パレスチナ難民が最も多く、シリア難民が続きます。日本も支援を行い、現地で困難な状況にある子どもたちに支援を届けています。

中東のヨルダンは、有名な遺跡などがあることから、観光地として人気がある国です。その一方、シリアやイスラエルと国境を接するという地理的条件も相まって、ヨルダンは多くの難民を受け入れている大国でもあります。

この記事では、まずヨルダンが受け入れている難民の数や出身国を紹介したのち、受け入れ人数の変化とその歴史的背景を解説し、ヨルダンで避難生活を送っている難民への支援について、日本政府の方針や実際に支援を受けた子どもたちの声を交えて詳しくご紹介します。

ヨルダンが受け入れている難民の出身国

ヨルダンは世界屈指の難民受け入れ大国と言えます。続いてはその難民がどこから逃れてきたのかを見ていきましょう。

ヨルダンに避難している難民のうち最も人数が多いのは、パレスチナ難民です。

国連において難民支援を行うのは基本的にUNHCRですが、パレスチナ難民については、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)という別の組織が支援を担当しています。

UNHCRが公開しているUNRWA管轄下のパレスチナ難民数のデータによると、2021年半ば時点で、ヨルダンでは約232万人のパレスチナ難民が暮らしている状況です(注2)。これはヨルダンで暮らす難民の大半にあたりますが、ヨルダンにはほかにも多くの国からの難民が避難してきています。

ヨルダンで暮らす難民の出身国のうち、パレスチナ以外の国について、受け入れ数の多い順に5カ国抜粋すると次のようになります(注3)。

出身国 ヨルダンでの受け入れ人数 割合
シリア 668,332人 94.36%
イラク 34,350人 4.85%
スーダン 3,712人 0.52%
イエメン 935人 0.13%
ソマリア 638人 0.09%

パレスチナ難民を除く総数に占める割合を見ると、シリア難民が94%超と圧倒的多数です。続くイラクが全体の5%弱を占めているため、ヨルダンに避難している難民のほとんどはパレスチナ、シリア、イラクの3カ国から来ていることになります。なお、シリアとイラクの2カ国はいずれも、ヨルダンと直接国境を接しています。

ヨルダンにいる難民の数の変化とその歴史的背景

現在、ヨルダンでは約232万人のパレスチナ難民が暮らしている
現在、ヨルダンでは約232万人のパレスチナ難民が暮らしている

ヨルダンが現在受け入れている難民の数や内訳は先に紹介したとおりですが、難民の数や出身国の構成は世界情勢によって絶えず変化します。

ヨルダンに上記3カ国から多数の難民が流入するに至った背景を、難民数の変化とひもづけながら詳しく見ていきましょう。

ヨルダンが受け入れている難民の数の変化

まずは、ヨルダンが受け入れている難民全体の数がこれまでどのように推移してきたのかを、グラフで見てみましょう。

UNHCRのデータを使ってパレスチナ難民以外の難民数の推移をグラフにすると、次のようになります(注4)。

2005年までは1,000人程度まででほぼ横ばいでしたが、2006年に爆発的な増加があり、突如50万人をこえる規模にまで膨らんでいます。その後は徐々に減少を見せていたものの、約30万人にまで減った2012年を底に再び急増し、65万人に迫る人数に達しました。これ以降、多少の増減はあるものの増加傾向が続いており、最新の2021年の受け入れ難民数は70万人をこえています。

次に、ヨルダンにいるパレスチナ難民の数の推移をグラフにすると、下記のようになります(注2)。

UNHCRが公開しているデータの最も古い年度である1952年以来、いくらか減少した時期はあるものの、ほぼ右肩上がりで増加してきたことがわかります。

パレスチナ難民における最大の受け入れ国

お伝えしたとおり、現在、ヨルダンでは約232万人のパレスチナ難民が暮らしています。同時に、ヨルダンはUNRWAが活動している国の中で、最大のパレスチナ難民受け入れ国となっています(注5)。

先ほどのグラフのとおり、ヨルダンは歴史的に多くのパレスチナ難民を受け入れてきました。ヨルダンで最も古いパレスチナ難民キャンプは、1949年に開設されたザルカ難民キャンプです(注6)。その一方で、近年はシリアで暮らしていたパレスチナ難民がヨルダンに逃れてきた事例も多く、その数は万単位とされています(注5)。

イラク戦争とヨルダンへのイラク難民の流入

先ほど紹介した1つ目のグラフでは、2006年にヨルダンの受け入れ難民数が爆発的に増加していましたが、この背景にあるのがイラク戦争です。

UNHCRのデータで、ヨルダンが受け入れてきた難民の2006年以降の内訳を見てみると、ヨルダンに避難していたイラク難民の数は2006年から2008年までが50万人、2009年から2011年までが45万人という数字になっています(注7)。急激に難民が流入して正確な難民数が記録されなかったために、大まかな数字になっているものと推察されます。

イラク戦争は2003年に始まりました。開戦前にすでに国外に避難していた人や、イラク政権崩壊後に帰国するイラク人が多かったなど、さまざまな要因により、2005年まではヨルダンに大量のイラク難民が流入することはありませんでした(注8 p.70-75)。

しかし、2006年にイラクで爆破テロが起きて宗派対立が激化すると、イラクから他国に避難する人が急増しました。このようにして、2006年になってヨルダンに大量のイラク難民が流入したのです(注8 p.76)。その後、ヨルダンで暮らすイラク難民の数は2012年に6万人程度へと急速に減少し、2014年以降は3万人程度に落ち着いています(注7)。

シリア内戦とヨルダンへのシリア難民の流入

イラク難民の数の減少と入れ替わるように、2012年からはシリア難民がヨルダンに押し寄せました。2011年に始まったシリア内戦の影響を受けてのことです。

UNHCRのデータによると、ヨルダンで暮らすシリア難民の数は、2011年までは200人足らずでしたが、2012年に一挙に24万人弱にまで増加。翌2013年にはその約2.5倍となる60万人弱に膨れ上がりました。その後もほぼ一貫して増加を続け、2021年半ば時点で約69万人となっています(注7)。

シリア内戦勃発からすでに10年が経過していますが、今なおシリア難民の数は全世界で合計670万人をこえており、難民の出身国としては世界最大のままです(注1 p.3)。

ヨルダンで暮らす難民への日本の支援

このような近隣国の情勢の変化を受け、ヨルダンが受け入れてきた多くの難民に対して、国際社会からはどのような支援が行われているのでしょうか。

ここでは、日本政府による支援の方針を説明したうえで、ワールド・ビジョン・ジャパンのヨルダンでの難民支援の取り組みと、支援を受けた難民の子どもたちの声をご紹介します。

ヨルダンにいる難民への日本政府による支援

ヨルダンに対する日本政府の支援計画には、難民への配慮が色濃く表れています。

2020年4月のヨルダン向け支援計画では、ヨルダンの経済成長を後押しするという目標です。現状として「成熟産業が少ないことによる内的要因と膨大な数のシリア難民の国内への流入などの外的要因が相まって、近年ヨルダン政府は毎年多額の財政赤字を抱えており、公的債務が増加している」という説明がなされています(注9)。

さらに、具体的な支援プログラムには「パレスチナ難民キャンプ内の難民の就業や経済活動、生活改善への支援」や「シリア難民およびシリア難民を受け入れているホストコミュニティへの支援」が含まれており(注9)、日本政府が難民をヨルダンにおける主要な支援対象と位置付けていることが見て取れます。

ヨルダンでのワールド・ビジョン・ジャパンの難民支援

ワールド・ビジョン・ジャパンは、ヨルダンに避難したシリア難民の子どもたちを対象に、2014年から教育支援事業を実施しています。

ヨルダンでは、シリア難民の子どもたちがヨルダンの公立学校で学び続けることができるよう、北部の学校を中心に2部制が導入されました。しかし、その結果、子どもたちの学習時間の短縮や一教室当たりの人数の増加など、教育の質の低下が課題となったのです。

ワールド・ビジョンは、学習の遅れや理解の難しさを抱えるシリア難民の子どもたち、そして同じ地域で暮らすヨルダン人の子どもたちを対象に、基礎学力を定着させ、学校に通い続けられるようにするための補習授業を提供してきました。さらに、紛争や避難生活によるストレスを軽減するためのレクリエーション活動も行いました。

このほかに、ヨルダンで2番目に大きいアズラック難民キャンプにおいて、新型コロナウイルス感染症に対応する衛生環境向上のための支援活動も行っています。

ヨルダンに逃れたシリア難民の子どもたちの声

最後に、ワールド・ビジョンの支援を受けたシリア難民の子どもたちの声をご紹介します。

2013年に家族とともにヨルダンに逃れてきた10歳のラーマちゃんは、恐ろしい銃撃戦を経験したことで心に傷を負いました。厳しい暮らしの中、ワールド・ビジョンの補習授業に参加したラーマちゃんは、絵に情熱を注ぎ、絵の腕を上げました。そんなラーマちゃんが語った言葉は、このようなものでした。

「強い女性を描くのは、彼女たちのようになりたいからです。1日だけ世界の大統領になれるとしたら、争いを終わらせて、世界を良いものにしようとするでしょう。私は自分を変えてもっと強くなります」

わずか5歳の時に故郷で戦闘が始まり、ヨルダンのアズラック難民キャンプに避難したフィラスくんも、ワールド・ビジョンの支援を通して情熱を注ぐ対象を見つけました。キャンプには当初、電気もなく、学校もありませんでしたが、ワールド・ビジョンが開催した詩のコンテストをきっかけに、詩と芸術への熱意に目覚めたのです。フィラスくんは、11歳になった2021年にこう語ってくれました。

「将来は建築家になりたいです。世界のみんなに、シリアがシリア人の子どもたちによって再建されることを知ってもらいたいです」

ワールド・ビジョンの難民支援にご協力をお願いします

ワールド・ビジョンは、ヨルダンを含め世界中で避難生活を送っている難民や国内避難民の子どもたちのために、さまざまな支援活動を行っています。現在は、「命を守る」「取り戻す」「未来を築く」の3つを活動の軸とし、次のような活動を展開しています。

  • 「命を守る」:新型コロナウイルス感染症等を予防するための、石けん配布や手洗い指導等
  • 「取り戻す」:紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや、個別に必要な物資提供等
  • 「未来を築く」:補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作り等


難民となって先の見えない生活を強いられている子どもたちが、ラーマちゃんやフィラスくんのように情熱を持って日々を送り、将来の夢を描けるように、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2021年4月の情報をもとに作成しています。

紛争により家を追われ、生活が一変した子どもたちに難民支援募金にご協力ください。

関連記事Related Articles