フィリピンの教育制度と現状の問題点|貧困との関係や支援状況も解説

投稿日|2025年3月27日
更新日|2025年7月30日
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この記事でわかること

フィリピンでは2012年に教育制度が改革されたが、貧困による中退や教育資源不足など問題が残る。修了率は高校で約78%だが、10歳児の90%以上が単純な文章理解ができない。教育問題にも関係するワールド・ビジョン・ジャパンの活動内容をご紹介します。

セブ島などのリゾート地がある東南アジアの島国フィリピンは、英語留学の目的地としても人気があるため、日本の皆さまにとってある程度身近な存在かもしれません。

そんなフィリピンでは、2012年に教育制度の改革が行われました。この記事では、改革後の教育制度や従来の制度の問題点を解説し、問題の背景にある貧困についても詳しくお伝えします。そのうえで、日本がフィリピンに対して行っている教育分野での支援や、教育問題にも関係するワールド・ビジョン・ジャパンの活動内容をご紹介します。

フィリピンの教育制度と教育の現状

フィリピンで暮らす子ども
フィリピンで暮らす子ども

まずは、2012年に導入されたフィリピンの新しい教育制度を確認し、改革に至った背景となる従来の制度や問題点を見てみましょう。そして、フィリピンの教育の現状に目を向けることで、改革によって改善が見られたのかを明らかにします。

フィリピンの現在の教育制度

2012年の改革により、フィリピンの基礎教育は、6年間の初等教育と6年間の中等教育からなる12年間の課程となりました。このうち後半の中等教育は、中学校での4年間と高校での2年間です。さらに、小学校に入る前の5歳児に対しては、日本の幼稚園年長組にあたるキンダーガーテン(K)での教育が義務付けられていますので、正確にはK-6-4-2のK+12制です(注1)。

基礎教育を修了した後は、大学や専門学校に進学するか、あるいは就職するかを、それぞれが決めることとなります。

フィリピンの従来の教育制度とその問題

この改革が行われるまで、フィリピンでは6年間の初等教育の後に4年間の中等教育に進む6-4制の教育制度が採用されていました。改革後と比べると、中等教育の期間が2年も短かったということです。このように中等教育が4年間しかない国は、アジアではフィリピンが最後の国でした(注1)。

6-3-3制の日本や同等の制度を持つ諸外国に比べて基礎教育が2年短いことは、さまざまな弊害を生んでいました。

まずは、12年間分の教育内容を10年間で詰め込むことによる教育の質の低下と、それによる基礎学力の低下です。学力の低下は国家試験の合格率の低下にも表れていたほか、高校卒業後に若者たちを受け入れる大学や企業にとっての懸念材料でもありました。フィリピンでは18歳から成人ですが、高校卒業時点では16歳であるため就職先も限られていました。このことは、最終学歴が高卒の人材の、とりわけ若年層における高い失業率に直結したとされています(注1)。

また、海外の大学では12年間の基礎教育が入学条件となっていることがあるため、フィリピンで高校を卒業した後にそうした大学に直接進学することはできませんでした。同様に海外で就労する場合にも、基礎教育が不足していることを理由に、職位を下げられてしまうケースがあったとされています(注1)。

フィリピンの教育の現状

このように新制度に移行して10年が経ったいま、フィリピンの教育はどのような状況にあるのでしょうか。

世界銀行のデータベースによると、最新のデータがある2018年時点でのフィリピンの各学校の修了率は、次のようになっています(注2)。教育段階が上がるにつれて修了率が低下しており、とくに女子よりも男子の修了率が低い傾向が顕著です。

学校種別修了率(全体)男子の修了率女子の修了率
小学校91.9%89.0%95.2%
中学校81.0%74.9%87.7%
高校78.3%73.9%83.4%

数字を見ただけでは、フィリピンの教育に大きな課題があるようには感じないかもしれませんが、「学習の貧困」という指標を見るとフィリピンの教育が危機的な水準にあることがわかります。学習の貧困とは、10歳の時点で単純な文章を読んで理解することができない子どもの割合をパーセンテージで表したものです(注3 p.19)。

世界銀行や国連児童基金(UNICEF)などが2022年に発表した報告書によると、2019年時点で、フィリピンの学習の貧困率は
90.9%に達していました(注3 p.69)。すべての国のデータがそろっているわけではありませんが、フィリピンよりも学習の貧困の数値が高かった国は、コンゴ民主共和国やザンビアなどを含むアフリカ7カ国にイエメン、アフガニスタン、ラオスを加えた10カ国だけでした。参考までに、日本の学習の貧困率は3.6%とされています(注3 p.68)。

フィリピンの教育の問題点と貧困との関係

ワールド・ビジョンの支援でできた、安心して使える教室で学ぶ子どもたち(フィリピン)
ワールド・ビジョンの支援でできた、安心して使える教室で学ぶ子どもたち(フィリピン)

上述のとおり、学習の貧困は教育の質にまで踏み込んだ指標ですが、フィリピンではなぜこれほどまでに教育の質が低迷しているのでしょうか。ここでは、フィリピンの教育に見られる問題点とその背景にある貧困について解説します。

フィリピンの教育の問題:教育資源の不足や中途退学

フィリピンの教育の第一の問題点として、教室の席や教科書、学校の備品など教育資源が不足していることが長年指摘されています。過去には、生徒数が多すぎて教室に入りきらないため、4部制で授業を行っている学校もあったことがUNICEFの報告で明らかになりました。4回に分けて授業を行うことで学校教育を受けられる子どもの数は増えますが、とくに同じ教員が1日に何度も授業を担当する場合は、教育の質の低下につながりかねません。(注4 p.236)。

また、上で紹介した表にあるとおり、学校の修了率は男子の方が女子より低い状況です。とくに男子でドロップアウトが多い背景には、家計を支えるために働くことを期待される事情があります(注4 p.250)。

フィリピンの貧困家庭の子どもたちは学校に通えない

フィリピンは近年高い経済成長を続けているため、貧困率は低下してきているものの、世界銀行によると2021年時点でいまだに18.1%であるとされています(注5)。フィリピンでは公立校の授業料は無償に近いものの、授業料以外にも文房具や制服、PTA会費など学校に通うためにはさまざまな費用がかかるうえ、お弁当も必要です。フィリピンでは児童労働も問題となっていますが、貧困家庭の子どもは働いて家計を助けなければいけないため、学校に通わずに児童労働に従事せざるを得ない状況に置かれているといえます。

また、以前なら子どもたちは16歳で高校を卒業すると同時に働き始め、経済的に家族を助けることができましたが、改革によって中等教育の期間が2年延びたことで、家族が子どもを支える期間が2年間増えました。これによってさらに家計に負担がかかることが懸念されたため、子どもを持つ親たちは当初、教育制度改革に抵抗を示したといいます(注4 p.218)。

世界銀行のデータを見ると、中学校に通っていない子どもの割合は2015年時点で6.7%でしたが、翌2016年には8.0%に上昇し、さらに2018年には10.7%に達しています(注6)。改革による家計への影響が、就学率の低下を引き起こしているのかもしれません。

フィリピンの教育や貧困に対する支援

学校で学ぶ子どもたち(フィリピン)
学校で学ぶ子どもたち(フィリピン)

フィリピンの教育の問題には、貧困が深く関わっていることをご理解いただけたかと思います。続いては、こうしたフィリピンの課題に対してどのような支援が行われているのか、日本政府の支援とワールド・ビジョン・ジャパンの取り組みを事例として見ていきましょう。

フィリピンに対する教育分野での日本の支援

すでに触れたとおり、フィリピンでは教育の質の低さが長らく問題視されてきました。実際に、フィリピンに進出している日本企業からも、産業界が求める水準の労働力が供給されていないことが指摘されていました(注7)。

日本政府はこれを受けて、教育制度改革がまだモデル校における試行段階にあった2014年から、新11年次および12年次の学生を対象とする職業技術教育プログラムを改善するための技術協力プロジェクトを実施しました。このプロジェクトでは、現地で活動している日本企業との連携のもとで実践教育を実現するための支援も行われました(注7)。

日本政府は現在、フィリピンに対する開発援助の方針として、第一に「持続的経済成長のための基盤の強化」を掲げています(注8)。人材育成や雇用創出をとおした産業振興も含むこの方針のもとで、人材育成奨学計画を継続しているほか、産業人材育成などのプロジェクトも展開しています(注9)。

貧困地域を支援するチャイルド・スポンサーシップ

ここまでで見てきたように、貧困は子どもたちから教育の機会を奪う大きな原因となっています。家庭が貧しいために学校に通えない子どもたちが教育を受けられるようにするためには、貧困に苦しんでいる家族への継続的な支援が欠かせません。

ワールド・ビジョンのチャイルド・スポンサーシップは、世界中の貧困地域において、それぞれの地域に根差した開発援助を行い、子どもたちの健やかな成長を目指すプログラムです。

チャイルド・スポンサーシップを通じて皆さまからお預かりする支援金は、子どもの人生に変革をもたらすことを目指し、長期でさまざまな支援活動に使われます。地域が抱える課題を解決し、子どもたちが希望ある未来を歩めるよう、地域の人々とともに考えて計画・実行していくという支援のあり方が、チャイルド・スポンサーシップの特徴です。

フィリピンの貧困地域でのワールド・ビジョンの支援

フィリピンでは現在、サマール地域とレイテ地域の2カ所でチャイルド・スポンサーシップを通した支援が行われています。いずれも日々の食料にも事欠く世帯が多い貧しい地域で、レイテ地域では貧困が原因で小学生の約33%、中学生の約51%が、学校に通うことができていません。

フィリピンで看護師として活躍するレニーさんも、子どもの頃にチャイルド・スポンサーシップを通じた支援を受けていました。3人兄弟の末っ子として生まれたレニーさんの両親は農業を営んでいましたが、安定した収入を得るには至らず、子どもたちに十分な教育を受けさせることも難しい経済状況でした。

そんな中、レニーさんはチャイルド・スポンサーシップの支援を通してカナダのバーバラさんと出会い、教育のための支援を受けることができるようになりました。大学まで進学したレニーさんは、助産師と看護師の資格を取得し、ヘルスワーカーとして医療の手が届きにくい村で活躍中です。新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからは、村の大通りでの検温や、感染が疑われる患者の受付など、感染症対策の中でも最も感染リスクが高い業務を進んで行っています。

レニーさんがチャイルド・スポンサーから受け継いだ勇気や思いやりが、いまではフィリピンの人々の命を守る最前線を支えています。

チャイルド・スポンサーシップでフィリピンの子どもを支援しよう

教室で学ぶフィリピンの男の子
教室で学ぶフィリピンの男の子

チャイルド・スポンサーシップは、月々4,500円、1日あたり150円の継続支援をいただくプログラムです。チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、かつてのレニーさんのように支援地域に住んでいる子ども、「チャイルド」をご紹介します。

チャイルドは皆さまに支えられている存在です。毎年、支援地域がどのように発展しているのか、チャイルドがどのように成長しているのかなどを皆さまにご報告し、チャイルドからも1年に1度、手紙が届きますので、成果を実感していただけます。

子どもたちが貧困によって教育の機会を奪われることなく、安全な環境で健やかに育ち、未来に夢を描けるよう、チャイルド・スポンサーシップへのご協力をお願いいたします。

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