アジアの教育問題とは?制度や格差の現状を知り子どもたちを支援しよう

投稿日|2025年3月27日
更新日|2025年6月16日
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この記事でわかること

アジアの教育問題では、南アジアを中心に識字率の男女格差や教員不足が深刻です。貧困、紛争、宗教的背景から学校に通えない子どもが多く、コロナで状況は悪化。ワールド・ビジョンは「チャイルド・スポンサーシップ」で支援活動を展開しています。

2018年の国連児童基金(UNICEF)の発表によれば、世界には学校に通えない子どもたち(5〜17歳)が2億5,800万人にものぼるとされています(注1 p.1)。2億5,800万人は、5〜17歳子どもの6人に1人あたる人数です。また6〜11歳の初等教育を受けられない子どもは、約6,200万人にものぼります(注2)。

こうした子どもがもっとも多いのはサハラ以南のアフリカですが、アジアも教育問題が深刻な地域の1つです。小学校に通えない子ども約5,900万人のうち、約5%は南アジアの子どもたちが占めています(注3)。

こうした背景には、アジア諸国特有の格差や貧困といった問題が多数あるからです。そこで本記事では、アジア諸国の教育問題について詳しく解説します。アジアの現状を知り、今の私たちに何ができるかを考えてみましょう。

アジアの教育問題の現状

アジア諸国には特有の格差や貧困といった問題がある
アジア諸国には特有の格差や貧困といった問題がある

まずはアジア全体の教育問題について見ていきましょう。

アジア圏内の教育格差

同じアジア圏内の国々でも、教育の状況には格差があります。特に南アジアでは教育を十分に受けられない子どもが多くいる現状です。総務省の統計によると、アジア諸国における識字率は以下のとおりになります(注4 p.260)。

国名識字率((%)
男女全体男子女子
アフガニスタン43.055.529.8
アラブ首長国連邦93.292.695.1
イラク85.691.279.9
イラン85.590.480.8
インド74.482.465.8
インドネシア95.797.394.0
オマーン95.797.092.7
カタール93.593.194.7
カンボジア80.586.575.0
サウジアラビア95.397.192.7
シリア80.887.873.6
スリランカ91.792.890.8
タイ93.895.292.4
ネパール67.978.659.7
パキスタン59.171.146.5
バングラデシュ73.976.771.2
東ティモール68.171.964.2
ブータン66.675.057.1
ベトナム95.096.593.6
マレーシア94.996.193.5
ミャンマー75.680.071.8
ラオス84.790.079.4
レバノン95.196.993.3

日本は義務教育が整っており、識字率はほぼ100%です。一方、アフガニスタンのように男女全体の識字率が40%台の国もあります。また上記の表を見ると、男女で大きく識字率の開きがある国は少なくありません。たとえばブータンでは女子の識字率が男子より17.9%も低い結果となっています。

続いて、教員1人あたりの生徒数を見てみましょう(注4 p.255)。

国名教員1人あたりの生徒数(人)
初等教育前期中等教育後期中等教育
日本15.712.310.2
イラン28.521.316.8
インド32.725.929.3
インドネシア16.115.215.5
韓国16.313.613.0
サウジアラビア12.211.111.2
タイ16.925.327.5
中国16.612.314.7
パキスタン44.815.429.0
バングラデシュ30.136.731.2
フィリピン29.124.222.4
ベトナム19.616.8
マレーシア11.7
ミャンマー23.028.421.9
※2017年度統計

数字が大きければ大きいほど、教員に対して生徒数が多いということです。つまり教員が足りておらず、十分に教育を受けられていない子どもが多いと考えられます。

上記の表を見てみると、インドやパキスタン、バングラデシュといった南アジアの国々は特に高い数値となっているのが特徴的です。

貧困や性別による教育格差が問題視されている

アジア諸国で教育を受けられない子どもが多くいる背景には、国の情勢不安や貧困、宗教などが影響しています。たとえばアジアの中でも識字率が43%と低かったアフガニスタンは、長引く紛争の惨禍が現在も残っており、教育体制が整っていません(注4 p.260)。

また国際労働機関(ILO)の統計によれば、中央アジアと南アジアには約2,630万人もの児童労働者がいるとされています(注5 p.22)。児童労働者の数でいえば、1位のサブサハラアフリカに次ぐ多さです。サブサハラアフリカとは、北アフリカを除いたサハラ砂漠以南の地域を指します。

このように労働せざるを得ない状況が、子どもたちから教育の機会を奪っているといった背景もあるのです。

さらに国によっては宗教や文化的な観点から、性別によって教育機会に差が生まれるケースも少なくありません。

新型コロナウイルスにより教育問題が深刻化

2022年現在において、特に新型コロナウイルスの影響で教育を受けられない子どもたちが多くいます。世界銀行の調査によれば、2020年時点で南アジアの経済活動は過去40年間で最低の水準にまで落ち込みました(注6 p.38)。

新型コロナウイルスを受けた休校により、学校へ通えない子どもが増加。経済的な要因から働かざるを得ない子どもが増えています。UNICEFのデータによれば、南アジアには学校休校などの影響を受けている子どもが4億3,000万人もいるとのこと。さらにその多くが、教育を受けられないままになってしまうリスクを抱えているのです(注7)。

インターネット環境が整っていない国は、日本のようにオンライン授業が受けられるわけではありません。学校へ行けなくなり、家業を手伝いや兄弟の世話をせざるを得ない子どもたちが多くいるのが現状です。

南アジア諸国の教育制度

インドで暮らす子どもたち。インドは女性の識字率だけでなく 政界への進出や経済への参加率も、男性に比べて著しく低い
インドで暮らす子どもたち。インドは女性の識字率だけでなく 政界への進出や経済への参加率も、男性に比べて著しく低い

続いて、国ごとの教育制度や教育問題について見ていきましょう。ここでは特に教育問題が深刻とされる、南アジアの国に焦点を絞って解説します。

インドの教育制度

インドでは6〜14歳までの初等教育を義務教育としています。初等教育機関には公立や私立などさまざまな形態があるものの、2020年時点では就学率が約99.9%となりました。中等教育を受ける子どもの割合も75.48%となり(注8)、初等・中等教育を受けている子どもは約2億5,000万人にものぼります(注9)。

しかし、インドには貧しさから教育を受けられない子どもも一定数います。さらに一度就学しても中退する子どもが後を絶ちません。その理由は家庭の貧しさや、教育環境の悪さなど、さまざまな背景があります。

特にインドは古くからのカースト制度が色濃く残っており、高所得者層と低所得者層の格差が激しい国です。そのため、貧しい農村部の子どもが学校に行けないケースも少なくありません。

また、女の子は早く結婚して家庭に入るという考え方が現在も残っているため、教育の機会を与えられないまま結婚を強いられるケースもあります。

世界経済フォーラムのレポートによれば、インドは女性の識字率だけでなく政界への進出や経済への参加率も、男性に比べて著しく低いことが発表されています(注10 p.8)。教育の機会が少ないだけでなく、女性の社会進出率も低いのです。

さらにインドは2019年時点で13億6,641万人もの人口を誇り、子どもの数も多い国として知られています。そのため、先ほど紹介した教師1人あたりの生徒数を見てもわかるとおり、教師の数は圧倒的に不足しています(注4 p.20)。こうした教育問題は政府主導で徐々に改善されていますが、インドの大きな課題の1つです。

バングラデシュの教育制度

バングラデシュでは、6〜11歳までの5年間が義務教育です。このほか3~5歳までの就学前教育、12~24歳までの中等教育、日本の大学にあたる高等教育があります。バングラデシュの教育省が2018年に公表したデータによれば、初等教育への純就学率は97.85%です(注11 p.12)。一方、全学年における退学率は18.6%となっています(注11 p.12)。

つまり、就学はするものの、途中で退学してしまう子どもが一定数いるということです。この背景には、インドと同じく家庭の貧困や教育の質が挙げられます。同データによると、公立小学校における訓練を受けた教員の割合は69.99%です(注11 p.120)。すなわち、公立小学校の教員の約3割は、適切な訓練を受けないまま教員になっていることがわかります。

教師1人あたりの生徒数は小学校で30.1人(注4 p.255)と、教育体制が追いついていません。UNICEFによれば、学校の設備が整っていなかったり、不衛生な給食が出されたりすることもしばしばあるそうです。さらに、女子生徒へのハラスメントや性的な被害も多数(注12)でているとのこと。こうした現状に貧困問題が重なり、現在もなお学校へ行けない子どもたちが多い状況です。

スリランカの教育制度

スリランカでは、6〜11歳までの5年間が義務教育とされています。その後6年間の中等教育、2年間の高等教育、3〜4年の大学といったステップです。義務教育の5年間において、公立小学校の教育費はすべて無償。そのため初等教育の就学率は97.5%と高い水準を誇っています(注13 p.4)。またこうした政府の積極的な姿勢もあり、スリランカの識字率は男女ともに90%をこえているのが特徴です(注4 p.260)。

しかし、学校へ通うための靴やカバンは自費でそろえる必要があり、こうした費用の捻出に困る家庭も少なくありません。さらに農村部と都市部では学校の数や質に差があります。農村部には水道や衛生設備がなく、生徒が床に直接座るような学校も少なくありません(注14)。

そのうえ、農村部では母親が仕事に出ている家庭が多くあります。そのため、母親の代わりに女の子が家事をしなければならないため、教育を受けられないケースも多数見受けられるのが現状です(注14)。

アジアの子どもたちへの支援にご協力をお願いします

ワールド・ビジョンはアジアの子どもたちを支援するために、 「チャイルド・スポンサーシップ」という支援プログラムを展開しています
ワールド・ビジョンはアジアの子どもたちを支援するために、 「チャイルド・スポンサーシップ」という支援プログラムを展開しています

ワールド・ビジョンは、アジアの子どもたちが等しく教育を受けられるよう、支援活動を行っています。

南アジアで求められている支援

南アジアでは、教育体制が追いついていない事例が多く見受けられます。具体的には教員育成や学校の設備などが整っていないケースが多いです。そのため、子どもたちが安心して学べる学校の設備や体制を整えるための支援が必要です。

また教育格差が生まれる背景には貧困問題が大きく影響しています。そのため、地域のニーズに合わせて、貧困問題も同時に解決していく必要があるのです。

アジアの教育問題に対するワールド・ビジョンの取り組み

ワールドビジョンでは、インド、スリランカ、ネパール、バングラデシュといった南アジア諸国に対して地域のニーズに沿ったプログラムを実施しています。たとえば外務省の「日本NGO連携無償資金協力」と連携して、バングラデシュで「コミュニティと取り組む水・衛生環境改善事業」を実施しました。

またネパールでは「学校・コミュニティ防災事業」を実施しました。さらに、JICAの「草の根技術協力事業」と連携して「スリランカ国キリノッチ県における小規模畜産農家の家畜生産性向上プロジェクト」も実施。

それぞれの国に合わせてプロジェクトを立ち上げ、子どもたちが安心して学校に通える環境づくりを進めてきました。

ワールド・ビジョンへの寄付でアジアの子どもたちを支援する

ワールド・ビジョンはアジアの子どもたちを支援するために、「チャイルド・スポンサーシップ」という支援プログラムを展開しています。1日当たり150円、月々4,500円から支援が可能です。

継続的にご支援いただくことで、現地の子どもから手紙や写真が届きます。自分の支援で子どもたちが健やかに育っていく様子を実感いただけるプログラムです。お申し込みは公式サイトから簡単にお手続きいただけます。

アジアの子どもたちが等しく教育を受けて未来を切り開けるよう、チャイルド・スポンサーシップへのご協力をお願いいたします。

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