ヨルダンの貧困問題や支援について解説 | どんな国なの?
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この記事でわかること
ヨルダンではシリア難民の流入により経済的負担が増し、貧困率や失業率が上昇しています。特に難民の子どもたちは児童労働や早婚など深刻な問題に直面。ワールド・ビジョンは教育支援や生活環境の改善を通じて、子どもたちの未来を守る活動を展開しています。
ヨルダンは、正式名称を「ヨルダン・ハシェミット王国」といいます。立憲君主制で国王のいる国の1つです。周囲をシリアやイラク、サウジアラビアなどの国に囲まれているといった地理的特徴があります。
またヨルダンは、シリアやイラクといった隣国の情勢不安の影響を受けることもしばしば。ヨルダンはこれまで比較的安定した政治経済を保っていました。しかし近年では様々な要因から経済活動が低迷しています。隣国からの難民受け入れの経済的負担も、その要因の一つに数えられます。
そこで本記事では、ヨルダンが抱える経済的な問題や貧困について詳しく解説します。ヨルダンの現状を知り、今現地で必要とされる支援について考えてみましょう。
ヨルダンはどんな国?

まずはヨルダンがどんな国なのか見ていきましょう。ヨルダンの概要は、以下のとおりです(注1)。
| 首都 | アンマン |
| 言語 | アラビア語(英語も通用) |
| 宗教 | イスラム教:93% キリスト教等:7% |
| 面積 | 8.9万㎢ |
| 人口 | 1,010.1万人 |
| 政体 | 立憲(世襲)君主制(元首は国王) |
| 元首 | アブドッラー2世・イブン・アル・フセイン国王陛下(His Majesty King Abdullah II Ibn Al Hussein) |
| GDP | 445.03億米ドル |
| 通貨 | ヨルダン・ディナール(JOD) |
ヨルダンの地理や気候
ヨルダンは地中海の東側に位置する国です。国土面積は8.9k㎡と、日本のおよそ4分の1程度で、北海道と同じくらいの面積です。ヨルダンは島国の日本と異なり、四方を他国に囲まれている点も特徴の一つです。北はシリア、北東はイラク、南東から南はサウジアラビア、西はイスラエルが隣接しています。
またヨルダンは国内の8割以上が砂漠地帯のため、人口は首都アンマン周辺に集中しています。砂漠が多いことから農業に適した土地が国土の4%程度しかなく、天然資源に乏しいことが特徴にあげられます(注2)。そのため国内のエネルギーは、95%以上が輸入に頼って賄われています。
しかしヨルダンには、歴史的価値のある古墳や神殿などの建造物が多く残っており、こうした文化財を活かした観光業が国の主な収入源となっています(注3)。気候は砂漠地帯ならではで、日照に恵まれ昼と夜の寒暖差が大きいことが特徴にあげられます。一年を通して乾燥しているものの、夏と冬で気温が大きく変化します。
ヨルダンの経済的歴史
ヨルダンは1990年以降、国際通貨基金(IMF)と協力して経済改革を進めてきました。一時は平均7%という高い経済成長率を誇っていました(注1)。就学率や識字率も高く、国としては比較的安定していました。
しかし2008年の世界的金融危機(リーマン・ショック)や、2011年に隣国のシリアで起きたシリア危機によって状況は一変します。ヨルダンはシリアから難民を受け入れることを表明し、国内の経済は圧迫されることとなりました(注1)。
そしてそこへ追い打ちをかけるように、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大。ヨルダンは2022年現在でも、貧困や高い失業率と経済不安の最中にあります(注1)。
ヨルダンを取り巻く環境
ヨルダン自体はこれまで安定した経済活動を実現してきたため、周辺各国の情勢を安定させる役割を担っています。2004年にはイラク戦争で逃れてきた人々がヨルダンに多数流入しました。その後、2011年のシリア危機では、ヨルダンがシリアから約65万人もの難民を受け入れることを表明しています。
2000年の人口は約480万人であったにもかかわらず、2020年時点の統計では人口が1,000万人を超えました(注3)。この人口推移を見ると、それだけヨルダンが難民を多く受け入れていることが分かります。
難民を受け入れる国というと、自国の経済や資源が豊かな国を想像するかもしれません。しかし実際はそうでなく、難民の85%が近隣の開発途上国に受け入れられているのです(注4)。つまり貧しい国が難民を受け入れ、さらに厳しい状態に拍車がかかることは珍しくありません。
ヨルダンでは経済発展がめざましい時期もありました。しかしリーマン・ショックや新型コロナウイルスの影響で経済活動が低迷している状況でも、隣国からの難民を受け入れざるを得ない状況にあります。ヨルダンの難民について詳しく知りたい方は、「ヨルダンの難民受け入れ|出身国や数の変化と歴史、日本の支援状況」の記事もあわせてご覧ください。
ヨルダンの貧困問題

続いて、ヨルダンの貧困問題について見ていきましょう。
2020年時点のヨルダンの貧困率は26%
ヨルダンはこれまでの難民受け入れや新型コロナウイルス感染症の影響で、貧困が深刻化しています。ヨルダンの貧困率は年々上昇しており、2020年には貧困率が15.7%となりました(注5)。つまり6人に1人は貧困世帯であるということです。
またこうした貧困で必要最低限の生活を送れないだけでなく、新型コロナウイルス感染症を受けて学校が閉鎖したため教育を受けられない子どもたちも増加しています。
2020年時点のヨルダンの失業率は24%
ヨルダンでは失業率の高さも問題となっています。元々経済活動の低迷による失業率の高さや学歴や性別による失業率の格差が以前より問題視されていたヨルダンですが、そこに新型コロナウイルス感染症の拡大が拍車をかける形となりました(注3)。
ヨルダン政府は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2019年からは企業を強制的に営業停止させることもしばしば。この結果、2020年には約8万人が失業する結果となりました。
ヨルダンでは、2020年の第3四半期に失業率が約23.2%に達しました。この数値は、2019年の同時期と比較すると4.1%増加しています。(注6)。さらに2020年3月からはヨルダン国内で50万人以上の労働者が減給されており、普段通りの給与をもらえていません(注7)。
シリア難民の子どものうち85%が貧困ラインを下回る
ユニセフの発表によれば、シリア難民の子どものうち85%が貧困ラインを下回る生活を余儀なくされています(注8)。自国から避難してきたからといって、避難キャンプでの暮らしが豊かとは限りません。こうした貧困にあえぐ避難民は、ヨルダンだけでなく世界各国で多く見られます。
避難場所とはいえ無償で住めるわけではありません。シリア難民の多くは、日々、家賃や医療費、子どもの教育費の捻出に苦しんでいます。学校に行けない子どもたちや、必要な治療や予防接種を受けられない子どもたちがヨルダンには数多くいるのです。
また外務省によれば、ヨルダンに逃れたシリア難民世帯の4割は女性が世帯主となっています。しかしヨルダンには根強いジェンダー間の格差が存在するため、女性が生計を立てることが難しいといった状況も大きな課題です(注9)。
増加する児童労働や早婚
貧困が原因となり、ヨルダン国内では児童労働や早婚が問題となっています。2016年時点のヨルダンにおいて5〜17歳までの働く子どもたちの数は約7万6,000人とされています。しかし2021年6月時点では、2021年の終わりまでに児童労働者の数は10万人を超える見込みとの報告もありました。
実際にヨルダン国内で働かざるを得ない子どもの数は増えています。ヨルダンの労働省ではこうした問題を解決するため、企業に対する現地視察を強化しています。2019~2020年には合計2万件以上の企業に視察を実施し、1,000件近くの児童労働件数が見つかりました(注7)。
またヨルダンの法律では、結婚は18歳以上と定められています。しかし、実際は14歳以下の子どもの結婚式が執り行われることもしばしばあります。近年ではヨルダン国内の貧困が深刻化していることから、シリア難民を中心に子どもの早婚が増加している傾向にあります(注10)。
特に女の子の場合、親が経済的負担を緩和するために、結婚を強いられるケースが多数あります。強制的な望まない結婚を減らすためにも、ヨルダンをより良い状況へと導く支援が必要です。
ヨルダンにおけるワールド・ビジョンの取り組み
ワールド・ビジョンは、ヨルダンにおいてさまざまな支援活動を行っています。
緊急人道支援
ワールド・ビジョンでは紛争や自然災害の被害を受けた人々のため、「緊急人道支援」を行っています。たとえばヨルダンへ逃れたシリア難民に対する支援物資の供給や、生活基盤を整えるための復興支援などを行っています。衛生面や食料の確保だけでなく教育や保健、住居の整備といったさまざまな観点から支援を実施しています。
またワールド・ビジョンは2014年より7年間、ヨルダンへ逃れたシリア難民の子どもたちに対して教育支援事業を実施しました。具体的には、これまで4,038人の子どもたちに、補習授業と紛争や避難生活によるストレスを軽減するためのレクリエーション活動を実施。教員向けのハンドブックを作成するなど、子どもたちの基礎学力向上に貢献しました。
ほかにも新型コロナウイルス感染症拡大に伴い学校へ行けない子どもたちや、オンラインでの補習といった学習支援を実施しました。子どもたちが学校を中退するリスクの軽減を目的とし、学習のフォロー体制を整えました。
TAKE BACK FUTUREキャンペーン
ワールド・ビジョンでは、2018年から4年計画でTAKE BACK FUTUREキャンペーンを実施しています。TAKE BACK FUTUREキャンペーンとは、「教育を通じて、紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する暴力を撤廃し、暴力が繰り返されない未来を築く」ことを目的としたキャンペーンです。
2021年にはTAKE BACK FUTUREキャンペーンの企画として、未来ドラフト2021が開催されました。この大会は日本の若い世代が難民問題に関心を持つことを願い、「アイデアの寄付」を募るアイデア・コンペティションです。
本大会の課題テーマは、「みんなが安心して学校に通い続けられるように、異なる境遇で育った子ども同士が互いに分かり合えるアイデア」。グランプリに輝いた「知識を分け合えトレジャーハント」というアイデアは2022年3月、ワールド・ビジョン・ジャパンが教育支援を行っている学校で実際に子どもたちに届けられました。
トレジャーハントのイベントではシリア人とヨルダン人の子どもたちがグループをつくり、学校内5つのチェックポイントを回り、お互いを理解することの大切さ、協力することの大切さを学びました。
互いの国について知るチェックポイントでは、シリア人の子どもがヨルダン人の子どもが知らない、ヨルダンの伝統料理を紹介。「家に食べにおいでよ」と招待することもありました。アイデア発案者の心のこもったお手紙や、日本の中高生が作成した日本について知るビデオを通じて、日本の若い世代の難民支援に込める想いをヨルダンの子どもたちに届けることができました。
難民支援募金
ワールド・ビジョンでは、難民支援のための募金を募っています。公式HPでは1,000円から任意の金額をお寄せいただくことが可能です。たとえば3,000円募金した場合、ヨルダンの非公式難民居住地に暮らす20世帯へ新型コロナウィルス感染予防のリーフレットを配布することができます。
上記は一例ですが、難民支援のための募金でお預かりしたご寄付は難民の子どもたちに必要な支援に使われます。たとえば避難民居住地では石けん・消毒液の不足率は73%。衛生環境を保つことの大切さを訴える啓発活動のほか、こうした物資の供給に募金が使われることもあります。
募金の成果は、毎年3月頃にお届けする年次報告書の中で報告いたします。ワールド・ビジョン・ジャパンでは、支援の成果をご報告することで、ご支援くださった皆さまに、子どもたちに届けることのできた変革や希望を確認いただき、ともに喜んでいただけることを願っています。
ヨルダンの貧困解決に向けて支援をお願いいたします
ワールド・ビジョンでは、ヨルダンの貧困解決に向けてさまざまな支援を実施しています。貧困は特に子どもたちにとって、教育機会の損失や格差、望まない結婚といった状況といった負の影響をもたらします。こうした状況下で育った子どもたちは将来の選択肢も狭まってしまうケースが少なくありません。
そこで、少しでも多くの子どもたちを救うため、難民支援募金へのご協力をお願いいたします。あなたの募金が、ヨルダンだけでなく世界中で苦しむ子どもたちの未来を築く支えになります。募金にはクレジットカードがご利用いただくことができ、お名前や住所などの入力で簡単にお申込が可能です。
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