少数民族とは?ベトナムの少数民族を支援しよう
- 貧困
- #アジア
- #ベトナム
- #貧困
この記事でわかること
ベトナムには54の少数民族が存在し、多くが山間部で独自の文化を守りながら暮らしています。モン族は厳しい環境の中でも工夫を重ねて農業を行い、無形文化遺産登録の動きもあります。少数民族は社会サービスへのアクセスが限られており、支援が必要とされています。
「少数民族」とはどのような人々のことを指し、どのような問題を抱えているのでしょうか。ベトナムの少数民族を例に、少数民族が直面している問題と、ワールド・ビジョンが実施している支援プログラムについて説明します。

少数民族とは
どのような集団が少数民族と呼ばれていて、世界に何人いるのでしょうか。調べてみました。
少数民族の定義
1966年に制定された「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」の27条に、少数民族についての記載があります。
種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。(注1)
少数民族とは、居住している国において、種族的・宗教的・言語的に少数の人々であるということがわかりました。国際連合広報センターによると、少数民族は世界に約10億人いるということです(注2)。
アジアの少数民族の現状
アジアにも少数民族は数多く存在しています。今回は中国・タイ・インドネシア・インドをピックアップして、少数民族の現状を見てみましょう。

中国には55の少数民族がいるとされています。人口約14億人のうち、漢民族が91.5%を占め、残りの8.5%が少数民族です(注3)。タイには約75万人の山岳少数民族がおり、タイ語の読み書きができないことで基本的な社会サービスを受けることができないという現状があります(注4)。
多民族国家としても知られているインドネシアでは、約300種族が生活しています(注5)。インドネシアは1万4000以上の島々から構成されており、それぞれの島ごとに固有の民族と文化があります(注6)。
インドの少数民族の人口比率は、2001年の調査によると8.2%でした。その多くは独自の生活様式と社会構造を持ち、未開発地や僻地で生活しています。インドは少数民族を「指定部族保護措置」により保護しているのですが、そのサービスから漏れている少数民族も存在しており、対処が求められています(注7P22)。
どの国でも少数民族が生活しています。その多くは発言権が無く、社会サービスへアクセスできないという現状があるのです。
ベトナムの少数民族
ベトナムでは54の少数民族が生活しています。人口の約86%はキン族(越人)で、残りの約14%が少数民族です(注8)。このうち、モン族・ターイ族・ザオ族について調べてみました。

モン族
モン族は中国からラオスまで国境をまたいで拡がっている民族で、ベトナムでは西北山間部に居住しています(注9 P68)。2009年の国勢調査によると、ベトナムのモン族人口は106万人でした。モン族の人々は100年前までに中国からベトナムに移住し、800~1500mの山岳地域に分散して暮らしています(注9 P69)。
モン族には、「白モン」「黒モン」「青モン」「花モン」と、4つの種類があります(注10)。衣装の色や種類、居住している地域などで分けられています。衣装はどれも細かい刺繍などで彩られていて、とても丁寧な手作りです。
ベトナム最北端の高原では、モン族が石と石の間に小さな畑を作り、野菜などを栽培しています。その特殊な栽培技術をベトナムの無形文化遺産に登録しようという動きがあるのです。モン族はベトナムに移り住んだ最後の民族のひとつなので、良い土地は他の民族に取られてしまい、気候が厳しく土壌の質の悪い場所しか残っていませんでした。石の砂漠とも呼ばれていた土地ですが、モン族たちは工夫を重ね、石の上でも作物が栽培できる方法を編み出したのです(注11)。
ターイ族
タイ系諸言語民族として分類されている「タイ族」は、ベトナムでは「ターイ族」とも呼ばれています。中国・タイ・ラオス・ミャンマー・ベトナム・インドなど6カ国にまたがって住んでいます(注12 P43)。他に「タイー族」もいますが、違う民族として分けられているので注意しましょう。
タイ族には「黒タイ」と「白タイ」の二つのグループがあります。黒タイ人は黒いスカートと黒いブラウス、白タイ人は黒いスカートに白いブラウスを着用しています。黒タイは移住しながら焼き畑農業を行っており、白タイは水稲を栽培するなど、文化や習慣も違っています(注13)。
ベトナムのターイ族による「キンパンテン儀式」は、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。超自然的な考えを持つタイ族の考えや美意識に基づいた儀式は、ターイ族独特の民俗芸能とされています(注14)。
ザオ族
ザオ族は人口約100万人で、ベトナムの少数民族の中で9番目に多い民族です。ザオ族の各グループは居住地ごとに分類され、呼び方は風習や伝統、衣装が基礎となり「赤ザオ」「ザオクアンチャット」「ザオロガ」「ザオティエン」「ザオクアンチャン」など5つに分けられます。赤ザオは全身赤い衣装を着ているのですぐに見分けることが可能です。ザオティエンはザオ族の中で唯一、スカートを着ているグループです。ザオクアンチャンは白いズボンを着ています(注15)。
言語や風習を守っているザオ族は、他の民族とは結婚しません。ベトナム語もできますが、家族の中ではザオ語を使っています。どの家庭にもザオ語の古書があり、年長者が子どもにザオ語の読み書きを教えて継承しているのです(注15)。
ザオ族はもともとは「ヤオ族」と呼ばれていた中国の民族で、12世紀ごろから徐々にベトナムに移住してきました。現在では、ミャンマー・タイ・ラオスなどにも居住し、独特の文化を守りながら生活しています。(注16)。
ベトナムの少数民族の問題と支援
ベトナムで暮らしている少数民族は、どのような問題を抱えているのでしょうか。それらの問題を解決するために、ワールド・ビジョンがベトナムで実施している支援プログラムの内容についても紹介します。

ベトナムの少数民族が抱える問題
国際連合広報センターは、少数民族について次のように述べています。
その多くは差別や追放の対象となり、しばしば武力紛争の犠牲者となっている。民族的、種族的、宗教的かつ言語的グループの正当な願望を満たすことは、基本的人権の保護を強化することであり、文化的多様性を保護してそれを受け入れことである。また、それは社会全体の安定を強化することにもつながる(注2)。
ベトナムの少数民族も、様々な困難に直面しています。ベトナムは経済発展が目覚ましいものの、地域格差が拡がっているという問題があります。1998年に37.4%だったベトナムの貧困率は2008年には13.4%に減少しました。しかし2006年の調査では、都市貧困率が6.7%であったのに対し、農村部貧困率は16.1%で、格差が浮き彫りになりました(注17 P2)。少数民族の多くは都市部ではなく農村部で生活しているので、その多くが貧困な層に属しているということになります。
ベトナム政府が独自に制定した貧困ラインをあてはめると、2005年の貧困率は、ホーチミンがある南東部では9%、少数民族が多く住んでいる北部山岳西では42%という結果となりました。ベトナム政府による貧困ラインの2005年度基準は、1人当たりの収入が都市部では260,000ドン以下、農村部では200,000ドン以下と決められています(注19)。
これらのデータから、ベトナムの少数民族の多くは貧困問題を抱えていることがわかります。同時に教育問題や栄養問題も抱えており、深刻な状態に直面しているのです。

2009年の小学校就学率データを見ると、人口の大多数を占めるキン族は97%、少数民族であるタイー族は97.5%、モン族は72.6%となっています。キン族とタイー族の識字率は90%を超えているのに対し、モン族の識字率は37.7%です(注9 P67)。
統計局の2009年データでは、人口の大多数を占めるキン族の大学進学率は11.1%で、少数民族であるモン族の大学進学率は0.2%でした。少数民族の中で最も進学率が高いのはタイー族で、3.2%でした(注9 P66)。
栄養問題に関して、ユニセフの調査を見てみましょう。ベトナムのモン族は低栄養の割合が多く、75%の子どもが「発育阻害」の状態にある地域もありました。発育阻害とは、身長が年齢相応に成長していないことです。9歳だというモン族の子どもが、4歳程度にしか見えなかったという深刻な状態も報告されています。モン族に発育阻害が起きている原因の一つに、食料の確保が難しいという問題があります。モン族が耕す土地は狭く、雨水に依存しているので収穫も不安定なのです(注18)。発育に必要な栄養を得るのが難しい状態なのです。
ワールド・ビジョンによる支援
ワールド・ビジョンは、ベトナムで最も貧しい北部山岳地帯で地域開発プログラムを実施しています。北部山岳地帯に住む少数民族を対象に、教育や生計向上、衛生環境整備、栄養状態改善などを目指しています。

2004年から2018年まで実施したバンエン地域開発プログラムは、多くの効果を挙げることができました。まず、子どもの教育環境が改善し、小学校と中学校の就学率が向上しました。大学に通う子どもも出ています。地域住民を対象に様々な研修を行った結果、作物の生産高や現金収入が増えました。ワールド・ビジョンが支援する前は、ベトナム政府が設定した貧困ラインを下回る家庭が33%だったのに対し、2016年には9%にまで減少させることができたのです。子どもの栄養状態も改善することができました。村落開発委員会メンバーの能力強化も行ったので、ワールド・ビジョンのプログラムが終了しても地域の問題を自分たちで解決していくことができるようになりました。
チャンエン地域開発プログラム(2007年~2022年)を実施している地域は、道路の状態が悪いため、教育や保健施設の整備やアクセスが遅れています。栄養状態に問題のある子どもが多く、河川の流れる場所では鉄砲水や土砂崩れなどの被害も多発している地域です。ワールド・ビジョンはこの地で、健康や栄養状態の改善・生計向上・子どもの保護に関するプログラムを進行しています。
ムオンチャ地域開発プログラム(2010年~2025年)は、モン族やターイ族が多く住む地域で実施しています。公用語であるベトナム語の授業についていけない子どもが多く存在しているという問題があります。また、ベトナム語の読み書きができない大人も多いため、住民サービスを十分に受けることができません。モン族の女の子は学校に行かないのが一般的で、教育を受けないまま早婚するという問題もあります。ワールド・ビジョンは、健康・栄養状態の改善と、子どもの保護を目指したプログラムを実施しています。
トアンザオ地域開発プログラム(2010年~2026年)も、モン族やターイ族など少数民族が多く住む地域で実施しています。他の少数民族居住地と同様、ベトナム語の授業についていけずに落第や退学をする子どもがいます。学校をやめて早婚する女の子も多いという問題もあります。ワールド・ビジョンは子どもたちが健康で安心して成長できるよう、健康・栄養状態の改善と、子どもの保護に関するプログラムを実施しています。
これら地域開発プログラムはどれも、チャイルド・スポンサーシップを通した開発援助活動です。
チャイルド・スポンサーシップは、子どもたちが健やかに成長できる持続可能な環境を整えることを目指しています。子どもが教育を受ける権利や、安全に暮らす権利が守られるように、支援地域の人々とともに水衛生、保健、栄養、教育、生計向上等に取り組んでいます。活動の成果を地域の人々自身が将来にわたって維持し、発展させるために人材や住民組織の育成にも力を入れています。
今あなたにできること、一日あたり150円で子どもたちに希望を。
SHARE
この記事が気に入ったらシェアをお願いします