教育問題3つの原因と解決策。開発途上国の子どもたちのためにできることは?

投稿日|2025年3月26日
更新日|2025年11月28日
  • 教育
  • #中東
  • #教育

この記事でわかること

​ワールド・ビジョン・ジャパンは、開発途上国における教育問題の現状と原因を分析し、質の高い教育環境の整備や男女間の教育格差解消に向けた取り組みを紹介しています。​住宅の建設などを通じて、子どもたちが継続的に学べる環境を支援しています。

世界的に、学校に通える子どもの数は増えたとされています。しかし、開発途上国と言われる国々では、いまなお、5人に1人の子どもが学校に通えないままで*¹、2021年時点で6〜17歳の学校に通っていない子どもたちは2億4,400万人いるとされています。

教育を受けることができないまま大人になると、読み書きができず、安定した仕事につくことができません。また、知識や情報不足で社会から取り残されてしまうなど、生活に大きな影響がおよびます。

今回は、データをもとに教育問題のより詳細な現状やその原因、私たちにできる解決策をご紹介します。

————–
*¹後発開発途上国の初等教育における非就学児(2013-2022)は男児15%、女児19%。(ユニセフ 『世界子供白書2023』、表11 教育指標より)

開発途上国の教育問題の現状

世界には、教育を受けられない子どもたちが2億4,400万人いると言われており、このうち初等教育を受けられていないおよそ6歳から11歳の子どもは6,700万人いるとされています。また、その多くはアフリカのサハラ砂漠より南の地域で暮らしています*¹。具体的にどのような課題があるのか、データをもとにより詳細な現状をお伝えします。

開発途上国の就学率:5人に1人の子どもが学校に通うことができない

南スーダン、ウガンダ、バングラデシュを含む後発開発途上国では、いまなお、約5人に1人の子どもが学校に通えないままです*¹。

およそ6歳から11歳の子どもの純就学率*² をみると、最も割合の低い国である南スーダンでは初等教育の純就学率が全体で35%、女の子は30%とされています。

*² 本来就学すべき年齢の生徒だけを、その年齢の人口で割った割合

国名/純就学率(%)全体女の子男の子
南スーダン353040
赤道ギニア444544
リベリア454544
エリトリア524954
マリ595662
スーダン626162
中央アフリカ共和国645672
ナイジェリア666072
ニジェール665871
(参照:UNESCO Institute for Statistics、2020年)

また、子どもたちが継続して最終学年まで学校に通い続けることができているとは限りません。例えば、初等教育の修了率は58%で、小学校に相当する学校に通い始めたとしても、およそ5人に2人が学校を修了するまで通い続けることができていないという状況です。ウガンダでは、男女ともに初等教育への登録率は8割を超えていますが、初等教育後期を修了する子どもの割合は約4割にまで減っています。

開発途上国における識字率:5人に1人が文字を読み書きできないまま大人に

学校に通う大きな目的の1つとして、「読み書きができるようになること」があります。読み書きは、社会的な生活を送る上で、欠かせないものだからです。

世界平均では、若者(15〜24歳)の識字率は93%と、10年前の90%に比べて少しずつ増加傾向にあります。一方、後発開発途上国のデータをみると、男女それぞれ識字率が81%、77%と、約5人に1人が文字を読み書きすることができない状態です。

識字率(%)/性別
世界9193
後発開発途上国7781
(参照:「世界子ども白書2023」UNICEF)

男性の識字率が最も低い国はチャドで41%、チャドの女性の識字率はさらに低い31%と、女性教育の格差も見られるデータとなっています。

開発途上国の教育問題が与える影響

日本では、義務教育があるため初等教育純就学率は男女ともに100%です。教育が受けられない国では、人々の生活に様々な影響があります。

読み書き、計算ができない

読み書きができないと、文章や本を読むことができず、生活に必要な情報や知識を得ることができません。注意書や警告文があっても、読むことができないので、危険にさらされることがあります。また、計算ができないことで、金銭的な管理ができなかったり、騙されてしまうこともあります。

安定した仕事が得られない

教育を受けられていないことで、安定した仕事につくために必要な技術の習得や、人とのコミュニケーション能力を身につけることができません。また、「説明書や資料が読めない」「報告書を提出できない」となれば、企業も単純労働以外の仕事は任せられず、不安定な仕事での雇用ばかりが増えてしまい、希望する仕事を選ぶことができません。

社会から取り残される

読み書きができなければ、選挙投票もできませんし、公的なサービスを受けるための書類をそろえることもできません。国がサービスを提供しても、それを享受することができなければ、人々の生活は豊かになりません。

開発途上国の教育問題が起こる原因

ここまで見てきたように、教育は人々の生活に大きな影響を与えます。

では、なぜ今なお大勢の子どもたちが教育を受けられない、能力を正しく身に着けられないのでしょうか。その原因は大きく3つあります。

1.学ぶための環境が整っていない

まず、そもそも子どもたちが教育を受ける環境が整っていない、という原因があります。具体的には、次のようなことが挙げられます。

  • 学校が近くにない
  • 先生の数が少ない
  • 先生の質が低い

そもそも学校の数が少なく、家から遠すぎるため通うことが難しい場合や、また通学路や街灯などが整備されておらず、子どもが1人で通学するには危険といったケースがあります。特に、先生の質は重要ですが、僻地では先生の数が足りていないため、十分な教育指導訓練を受けていない大人が、先生になっていることがあります。

2.家庭の都合で通えない

学校に通い始めても、遠くにある井戸への水汲みなど家計を助けるために働かなくてはいけない、弟妹の世話をしなければならないという理由で、最終学年まで通えていない子どもも大勢います。また、親自身が教育を受けていない場合、教育への理解・関心が低く、学校に行かせてくれないという場合もあります。

3.戦争や紛争で学校に行けない

戦争や紛争で、学校に通えなくなってしまうケースが、問題視されています。例えば、南スーダンでは内戦で学校が壊されてしまったり、難民となってしまったことで、十分な教育を受けられていない子どもたちが大勢います。また子どもを兵士として駆り出し戦闘に参加させる「子ども兵士」問題も大きく影響しています。2022年2月以降、急速に状況が悪化したウクライナでは、多くの子どもたちが家を失い、より安全な場所に避難しなければなりませんでした。「子どもの保護」や「教育」などの緊急支援を必要とする子どもたちが少なくとも330万人いると推計されています。

ワールド・ビジョンの教育問題への取り組み

ワールド・ビジョンでは、教育問題に対し、短期的な支援ではなく、質を重視した取り組みを行っています。開発途上国の子どもたち、難民の子どもたちが国を再建するときに、自分の人生を歩んでいくために、未来を託せるのは教育であると考えているからです。

教育の質を高める環境づくり

教育の質を高めるためには、先生の質が大切です。ワールド・ビジョンは、質の高い先生を集める仕組みづくりを支援しています。その一例として、タンザニアのンゲレンゲレ地域で、教員住宅の建設支援をした事例をご紹介します。

ンゲレンゲレは都市部から離れた場所にあり、赴任を避ける教師が多いという課題がありました。そこで、教員住宅を充実させたところ、赴任希望者が増え始めました。
教員住宅を充実させる支援により、「いつまでも住み続けたい」という先生が出てきたほどでした。こうした先生が増えた影響力は大きく、1995年には5%だった小学生の就学率が、2013年には98%まで改善し、大学進学をする生徒も出始めています。

男女の教育格差をなくす

男女の教育格差は、開発途上国で特に見られます。女性への教育は、出産時の妊産婦死亡率や乳児死亡率、HIV/エイズ感染率に影響があるため、国の発展には重要なカギとなります。

ワールド・ビジョンでは、女性の早婚のリスクや、教育の重要性について啓発活動を続けています。また、中学校が遠くにあるために通うのをあきらめざるを得ない女の子も多いので、中学校のそばに女子寮を建設して中学進学をあきらめずに済むよう対策しています。

子どもたちへの教育支援

ワールド・ビジョンでは、長期支援の一環として、チャイルド・スポンサーシップによる支援活動を実施しています。チャイルド・スポンサーシップは、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整えていけるよう活動するプログラムです。支援を受けた子どもたちが、いずれ地域の担い手となり、支援の成果を維持・発展させていくことを目指しています。

具体的には、以下のようなことを支援します。

学校に井戸や給水タンクを設置する

子どもたちが水を遠くまで汲みにいく必要をなくすことで、学校に通いやすくなります。

学校にトイレを作る

男女別棟にし、女の子でも安心して利用できるようになり、学校に通いやすくなります。チャイルド・スポンサーシップにお申し込みいただくと、一日あたり150円がこうした支援活動に生かされます。

関連記事Related Articles