【徹底解説】エチオピアの教育制度の現状の問題とこれからの課題
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この記事でわかること
エチオピアの教育制度は、就学前教育から高等教育までの段階があり、初等教育は8年間です。政府の取り組みで経済成長が続いていますが、教育の質向上にはさらなる支援が求められています。
アフリカの北東部に位置するエチオピアは、イタリア領となった1936年からの5年間を除いて植民地化されることなく、独立を保ってきた国です。政府の国家開発計画により経済成長が続いていますが、いまだ後発開発途上国のカテゴリにあります。
そうしたなか、教育においても多くの課題を抱えており、その質の向上が急務となっています。この記事では、東アフリカに位置するエチオピアの教育の現状をデータをもとに解説しながら、今後の課題や私たちにできる支援を考えていきます。
エチオピアの教育の現状と問題

エチオピアの教育制度にはどのような特徴や課題があるのでしょうか。制度を解説するとともに、データをもとに現状の問題点を見ていきましょう。
エチオピアの教育制度
エチオピアの教育制度は、就学前教育(3年)、初等教育(8年)、中等教育(4年)、高等教育(4年)の4つの段階に分けられます(注1)。
就学前教育は、Early Childhood Care and Education(ECCE)と呼ばれ、幼稚園の施設で行われるKindergarten、地域の中で年長の子どもが年少の子どもをサポートするChild to Child、小学校に1年早く入学するO-Classの3つの形態で行われています。
Kindergartenは4~6歳の児童を対象に、主に非政府組織(NGO)や村、民間、宗教団体等によって運営される幼稚園で行われる教育で、日本の幼稚園と類似しています。
Child to ChildやO-Classは日本にはない制度で、特にChild to Childは、小学5、6年生の児童が年少の子どもたちと、遊びを通じて数や文字を教えるといったユニークな制度です。
初等教育は、Primary Educationと呼ばれ、8学年で構成されています。前半の4年間(1~4年生)を第1サイクル、後半の4年間(5~8年生)を第2サイクルと呼び、7~14歳の子どもを対象としています。8年生では、初等教育修了認定試験が行われ、合格者には修了証が付与されます。
中等教育は、Secondary educationと呼ばれ、4学年で構成されています。前半の2年間(9~10年生)を第1サイクル、後半の2年間(11~12年生)を第2サイクルと呼び、15~18歳の子どもを対象としています。10年生では中等教育修了試験が行われ、この結果によって、大学教育準備課程や職業準備課程など、第2サイクルで進級できる課程が決定されます。
高等教育は、Higher Educationと呼ばれ、総合大学やカレッジ、教員養成校などがあります。それぞれの入学資格は、中等教育第2サイクル修了時に受ける試験の結果によって決定されます。
なお、エチオピアの義務教育は、初等教育の8年間となっています。
データから見る教育の現状
次にエチオピアの教育の現状を見ていきましょう。ここでは義務教育とされている初等教育(小学校)についての2019年~2020年のデータをもとに解説します(注1)。
| 第1学年の純就学率 | 男子:99.8%、女子:92.1% |
| 2018~19年の児童の留年率(全学年) | 5% |
| 2018~19年の児童の退学率(全学年) | 13.9% |
| 2018~19年の児童の退学率(1年生) | 22% |
| 留年なしに第1サイクル(4年生)を修了する児童の割合 | 52.0% |
| 小学校(8年間)の修了率 | 71.0% |
| 教室1つあたりの児童数(全学年の平均) | 52.5人 |
| 教師1人あたりの児童数(全学年の平均) | 37人 |
| 教室で使用される教科書1冊あたりの児童数 | 3.9人 |
第1学年の純就学率とは、小学校の1年生として入学する7歳の児童が実際に小学校に入学した割合を表しています。男子は100%に近い数の児童が入学しているのに対し、女子は92.1%とやや低くなっています。
また、退学率は全ての学年の中で第1学年時の退学が最も多く、22%すなわち約4人に1人が1年で退学してしまう現状があります。
教室で使用される教科書1冊あたりの児童数とは、授業する際に教科書がどのくらい使われているかを表しています。つまり、1冊の教科書を3.9人で一緒に使っていると言い換えることができます。
エチオピアの教育の問題点
上述のデータから、エチオピアの教育の問題点は、以下のようにまとめられます。
- 男子に比べ、女子児童の初等教育に入学する割合が低い
- 留年率や退学率が高く、特に第1学年での退学率が高い
- 小学校を卒業できない児童が多い
- 教室や教師、教科書など、児童の学習環境が整っていない
これらは、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の目標4「質の高い教育をみんなに」にも関連する問題と言えます。
例えば、SDGsを達成するための指標として定められているターゲットの1つ、ターゲット4.1「2030年までに、全ての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする」の達成には、就学率の男女差や修了率の低さの改善が必須となります。
また、学習環境が整っていないことは教育の質に大きく影響するため、エチオピアの教育にとって解決すべき問題の一つであると言えるでしょう。
エチオピアの教育問題の背景

ここまで、エチオピアの教育制度や現状について見てきました。続いて、エチオピアの教育問題に影響を与えている社会背景や原因について解説します。
貧困による問題
国連によると、エチオピアは後発開発途上国(LDC)のカテゴリに分類されています(2021年8月現在)。後発開発途上国とは、国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国々のことを指します。
なかでも貧困の問題は深刻で、世界銀行が国際貧困ラインとして基準を定めた1日1.9米ドル以下で生活している貧困層の人々は、国民の30.8%の割合を占めています(注2、2015年)。
貧困は子どもの教育へのアクセスに大きな影響を与えます。エチオピアでは大学まで原則学費は無償とされていますが、それでも制服代や文房具など、子どもを学校に通わせることでかかるお金はあり、貧困家庭にとって家計を圧迫する大きな支出となってしまうからです。次第に子どもを学校に通わせられなくなり、それによって欠席が増えた子どもは学校の授業についていけなくなり留年や退学につながる、というケースが少なくありません。
また貧困家庭にとって、子どもは重要な労働力と考えられています。そのため、子どもを学校に行かせるよりも、仕事や家の手伝いをさせたほうがよいと考える親も多いのです。事実、エチオピアの15歳未満の子どもの43%が児童労働を強いられているというデータもあります(注3)。
教育を十分に受けられなかった子どもたちは待遇の良い仕事に就くことが難しく、大人になっても貧困から抜け出すことができない、といった負のループに陥ってしまいます。
教育の質による問題
留年率や退学率が高い原因には、教育の質が十分ではないことも影響していると考えられます。教育の質をどのような基準で捉えるかについては議論が分かれるところではありますが、質を左右する要素の一つに「教員」の存在は含まれるでしょう。
エチオピアでは、前述の通り教員の数が十分ではありません。教員一人当たりの児童数が37人という数値は、日本の16.2、アメリカの15.2などと比べると、かなり大きいことが分かります(注4)(日本の場合は、クラス担任のほかにも音楽専科の教員や養護教諭なども含まれます)。教員の数は間違いなく子どもが受ける教育の質に大きく関わってくるでしょう。
また、有資格の教員の数も十分ではありません。エチオピアで小学校の教員になるにはディプロマ(10 年生卒業+3 年間プログラム)の取得が求められます。ディプロマは全国に32 校ある州立教員養成カレッジで取得できます(注5)。しかし、小学校の第1サイクルの教員は資格を取得している教員は90.1%にとどまっています。つまり、10人に1人は無資格の教員が勤務していることになります。
このように、教員の量と質が十分ではないことが、教育の質の低下に大きく影響していると考えられます。
地域格差による問題
最後に、地域格差と言語が教育に与える影響についても解説します。
エチオピアは、日本の3倍にあたる1,104,300㎢の国土がありますが、人口は約1億1,207万人(2019年:世銀)と密度が低く、地方には遊牧民として暮らす人々も多いという特徴があります。民族も多様で、実に約89の異なる言語が存在していると言われています(注6)。
一方でこうした特徴は、質の高い教育を提供するための障壁となっています。
自宅から学校までの距離が遠いことは子どもたちの教育に影響を及ぼします。また、遠隔地において質の高い教員を確保することは難しく、都市部と地方の教育格差は大きな問題の1つとなっているのです。
この状況を表すデータとして初等教育の純就学率(全学年)を比較すると、首都アディスアベバは108.2%なのに対し、遊牧民が多い遠隔地のアファーは44.9%と、大きな格差があることが分かります(注1)。
ワールド・ビジョンの取り組み

私たちワールド・ビジョンでは世界の子どもたちが教育を受けられるよう、開発途上国の教育や学校の支援活動を行っています。
エチオピアでの取り組み
ワールド・ビジョン・ジャパンは、エチオピアでの支援活動を長年続けています。特に教育環境の整備や安全な水や食料確保を目的とした支援を複数の地域で行っています。
デラ地域開発プログラム
首都のアディスアベバから北西に約360kmの場所に位置するデラ郡は、標高1,800~2,600mの高地で、住民の多くは農業や牧畜で生計を立てています。灌がいが普及しておらず6~8月の雨期以外の時期は収穫が少なくなり、食料不足が深刻な問題となっています。このような課題を解決するために、次のような支援活動を行っています。
- 近代的農法についての技術研修や小規模な灌がい設備の導入支援
- 農業以外の収入源を得るために小規模ビジネスや貯蓄・借入方法に関する研修の実施
ゴンダール・ズリア地域開発プログラム
首都のアディスアベバから北西に約500kmの場所に位置するゴンダール・ズリア郡は、安全な水源が少なく、トイレの普及も遅れているため、下痢などの感染症が頻発しています。このような課題を解決するために、次のような支援活動を行っています。
- 井戸の建設支援
- 野外排泄のリスクとトイレ設置・使用の重要性に関する啓発活動
- 公共トイレや学校のトイレの建設
チャイルド・スポンサーシップ
チャイルド・スポンサーシップとは、ワールド・ビジョンを代表する取り組みの1つで、開発途上国の子どもと支援者の絆を大切にした地域開発支援です。支援者の皆さまからの月々4,500円の継続支援により、上述したエチオピアにおける支援活動も成り立っています。
チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、支援地域に住む子ども「チャイルド」をご紹介します。ご支援金はチャイルドやその家族に直接手渡すものではなく、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動に使わせていただきます(エチオピアのチャイルドの声)。
チャイルド・スポンサーシップは、エチオピアだけでなく、アジア・アフリカ・中南米など世界21カ国に支援を届けており(2019年現在)、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整え、支援を受けた子どもたちが、いずれ地域の担い手となり、支援の成果を維持・発展させていくことを目指しています。
今すぐチャイルド・スポンサーシップに参加するには

公式ホームページにてチャイルド・スポンサーシップ参加のお手続きを承っています。支援内容についての詳細や個人情報等を入力するだけで、簡単に申し込みいただけます。
また、ワールド・ビジョンでは、世界のさまざまな問題やそれらに対する取り組みをまとめた資料を用意しています。皆さま一人ひとりが世界の問題や現状を「知るため」のきっかけとして、ご活用いただけます。詳しくは、「伝える・広める」をご覧ください。
ワールド・ビジョンでは皆さまのご支援・ご協力をお待ちしています。
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