【シリア】紛争により深刻な被害を受けた南西部で、教育支援事業を開始しました

(2019.08.28)


紛争により避難したテントで勉強するシリアの子ども
紛争により避難したテントで勉強するシリアの子ども

ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、皆さまからの募金とジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成金で、シリア南西部において紛争の影響を受けた子どもたちが健やかに成長できるよう、教育と子どもの保護の支援事業を開始しました。

紛争により甚大な被害を受けたシリア南西部で、子どもたちを取り巻く状況とは

2018年6~7月、それまで反政府勢力が支配していたシリア南西部は、シリア政府の支配下に移りました。この過程で発生した紛争により、南西部のダルアー県やクネイトゥラ県から20万人以上が避難を余儀なくされました。2018年8月初めには紛争が収束し、大部分の避難民は帰還したものの、紛争の影響で多くの住民が生計手段を失いました。また、紛争以前にはヨルダン側から国境を越えて届けられていた人道支援が、シリア政府支配地域となった後には届かなくなり、南西部の人々は厳しい生活を強いられています。

紛争の結果、多くの学校が損傷し、損傷を免れた学校も避難場所として使われている場合もあることから、使用可能な教室が限られています。このため、教室は多くの子どもたちで混み合っており、南西部を含むシリアの一部の地域では、教員1人あたりの児童数が150人におよんでいます。授業を実施できている学校が少ないため、物理的に通える範囲に学校がない場合や、不発弾や性暴力など通学によって生じるリスクを心配し、保護者が子どもの通学を控えさせるケースもあります。

加えて、紛争の影響によりシリア全体で14万人以上の教員と教育関係者が避難や死亡などの理由で職場を去ったため、資格を持った教員が不足し、教員への給与の未払いも相まって、質の伴った教育の提供が困難になっています。これらの背景から、シリア国内では210万人の子どもたちが学校に通えておらず、130万人の子どもたちが中退のリスクにさらされていると言われています。


紛争により破壊されたシリアの市街地
紛争により破壊されたシリアの市街地

8年以上続いている紛争は、教育以外の面でもシリアの子どもたちに深刻な影響を与えています。度重なる避難、紛争によるケガ、不発弾などの爆発物、性暴力や性的ハラスメント、深刻化する家庭の貧困とそれに伴う児童労働や早婚などの様々な保護リスクが、シリアの子どもたちを取り巻いています。また、紛争中に見聞きし経験した暴力、保護者や親しい人の死や別離、避難などの辛い記憶は、子どもたちの心に重くのしかかっています。

このような状況を踏まえ、本事業ではシリアの子どもたちが尊厳を保ちつつ安心して生活できる日常を取り戻せるよう、教育・保護環境を改善するための緊急人道支援を行います。

爆撃を逃れるために多くの子どもたちも避難を余儀なくされました
爆撃を逃れるために多くの子どもたちも避難を余儀なくされました

シリアの子どもたちの健やかな成長のために

本事業では、次の2つの活動を通して、さまざまな危険から子どもたちを守り、子どもたちが質の伴った教育を受けて健やかに成長できるよう支援します。

①安全な学習環境の整備と質の伴った教育へのアクセス向上

子どもたちが安全な環境で学べるよう、紛争で損傷した教育施設の修復を行います。また、公立学校に通う子どもたちに対して、補習クラスや各種の啓発セッションを行うほか、現在学校に通えていない子どもたちが公教育に戻れるよう、キャッチアップクラスを実施します。加えて、紛争の影響によるストレスを抱える子どもたちが、安心して遊び、ストレスを軽減し、生きていく上で必要な知識を身につけられるよう、レクリエーション活動を提供するとともに、ライフスキルと平和構築に関するセッションを実施します。

②紛争の影響を受けた子どもたちの安心・安全を確保する活動

紛争により特に深刻なストレスを受けた子どもたちが、困難に対処し自ら回復する力を身につけられるよう、ゲームやグループワークなどを用いた心理社会的支援セッションを行います。また、障がいや家庭の事情などにより、個別の支援が必要な子どもたちに対しては、ソーシャルワーカーが個別支援を行います。さらに、本来は家庭で子どもたちを保護する役割を担うべき保護者も、紛争による深刻なストレスや経済的困難を抱えているケースが多いため、保護者に対する教育や子どもの保護に関する啓発セッションを実施します。

紛争による大規模な避難民の流出と、その後の避難民の帰還が発生し、紛争による破壊の爪痕もまだ色濃く残るシリア南西部において、子どもたちは紛争後の未来を担っていく大切な存在です。本事業では、子どもたちが紛争による学業の遅れを取り戻し、ストレスを軽減して、将来への希望を持ち生きる力を身につけることができるよう支援します。

事業担当の渡邉裕子スタッフより

爆撃が行われた地に人々が戻りはじめ、一日も早く日常を取り戻そうと懸命に生きています。またこれから難民や国内避難民となってシリア南西部を離れていた人々の帰還が本格化することが予想されますが、復興が追いついておらず、人々は必要としているサービスを受けることができない状況にあります。この事業により、教育や心理社会的支援を必要としている子どもたちが一日も早く平穏な日常生活を取り戻し、希望をもって健やかに成長していくことができるよう、支援を進めていきたいと思います。

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