帰還を夢見て‐シリア人同僚サーミルの手記
- 中東
- 駐在員
- #シリア
こんにちは。ワールド・ビジョン・ジャパンからヨルダンに駐在し、シリア国内の事業を管理している渡邉裕子です。
最近、シリア出身の同僚サーミルがワールド・ビジョンのスタッフ向けに、現在彼が暮らしているトルコからシリアに12年ぶりに帰還したときの様子を、シリアの情景や彼の想いを交えて語ってくれました。スタッフ向けに書かれた文章ですが、ワールド・ビジョンの活動を支えてくださっている日本の皆さまにも知っていただきたいと思い、シェアさせていただきます。

シリア人同僚サーミルの手記 – 帰還を夢見て:シリアの人々はこれまで以上に私たちを必要としています
12年。これは私がシリアの故郷に帰る日を待ち望んだ歳月です。
私がシリアを離れたとき、私は14歳でした。それから10年以上もの間、自分が育った家や、世界のことを学んだ学校、一緒に歩きながら伯母に「僕はいつか世界中を旅する仕事に就くんだ!」と伝えた道など、一つ一つの思い出を心の奥にしまったまま生きてきました。
私はトルコに落ち着くまでに3つの国を経由しましたが、それは偶然の成り行きで、私の選択によるものではありませんでした。私は生まれて初めてシリア国外に出るのが「難民」として、身の安全を求めて出ることになるなんて、想像もしていませんでした。
2025年3月、母と私はついにシリアに戻りました。私たちの親せきに会い、私たちの家を見て、そして過去に存在していたものが今どれだけ残っているのか、確かめたいと思っていました。
国境で入国管理官が私のパスポートにスタンプを押し、「ようこそ」と言いました。私は、胸の高鳴りを感じながらうなずきました。私の故郷「アル・タル」という道路案内が見えてきたときは、泣き崩れてしまいました。ついに故郷に帰ってきた!

私たちは、イスラム教徒にとって神聖な断食月のイフタール(日中の断食後初めての食事)を行う日没の時間に到着しました。
私が第二の母と慕う伯母は、再会の瞬間、まるで私を再び失うことを恐れているかのように、私を強く抱きしめました。
「死ぬ前にもう一度会いたかった」そう彼女は言いました。
「おばさん、もう心配しないで。帰ってきたよ!」と、私は答えました。
紛争は伯母を年齢以上に老けさせてしまいましたが、彼女の笑顔は変わっていませんでした。
再会を喜んだ後、私は内戦が私の故郷にもたらした影響を理解しました。多くの建物はもう残っておらず、爆撃を免れた場所もボロボロで、道路は損傷し、人々は疲れ果てていました。
安全な飲み水はなく、電気は1日に1、2時間しか供給されないほど贅沢なものとなりました。医療システムも崩壊寸前です。子どもたちは学校から去り、路上でパンを売りながら生き延びています。家族の間でわずかな食料を分け合い、お年寄りは医療を受けられないままでいます。人々は生きてはいますが、厳しい生活を強いられています。
紛争の爆音はなくなりましたが、苦しみがなくなったわけではありません。シリアがニュースの見出しから消えたからといって、危機が去ったわけではないのです。状況はむしろ悪化しています。

ワールド・ビジョンで広報を担当するスタッフとして、私の家族のように避難を余儀なくされ、心を砕かれ、それでも復活しようとする人々の話を同僚の皆さんに共有させていただきたいと思います。シリアの人々の強さが私を謙虚にさせます。彼らの希望が私を仕事へと駆り立てています。
私たちはこの重荷を1人で負うことはできません。シリアは哀れみ以上のものを必要としています。それは皆が連帯し、長期的視点に立った復興です。道のりは長く、多くの課題を乗り越える必要がありますが、それでもシリアの子どもたちには、よりよい生活、尊厳、そして未来は明るいという希望が与えられるべきです。
私が伯父に未来は明るいと信じるかと聞いたとき、「これまでにないほど今、そう強く信じている」と言いました。
「僕もそう信じている」と返しました。
これ以上、先延ばしにはしないでください。シリアの人々は今、私たちを必要としています
シリア事業担当 渡邉スタッフより
サーミルは3月にシリアに8日間だけ滞在し、現在はトルコに戻ってきています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査によると、2024年12月の前政権崩壊後、周辺国にいるシリア難民の80%が帰還を希望しているものの、帰還先の安全や住居の問題、水や電気等基本的サービスへのアクセスが大きな懸念となっています。サーミルもそのような難民の1人です。
昨年12月、シリアの紛争は大きな節目を迎えましたが、シリアの人々は今なお多くの困難に直面しています。シリア全体でみると、1,650万人の人々が何らかの支援を必要としています1。
教育分野だけを見ても、支援を必要としている子どもたちの数は昨年の 720 万人から、今 年は 780 万人に増加しました2。245 万人のこどもたちが今なお学校に通うことができない でいます3。シリア全土で 5,200 校以上の学校が緊急に修復を必要としており4、軽微な修復 も含めるとその数は 8,000 校以上に上る5と言われています。

今後難民や国内避難民が紛争の激しかった地域に帰還することが予想されていますが、それによりインフラがますます逼迫するため、教育に限らず保護や保健分野等、様々な方面から支援を続けることが必要です。
難民や国内避難民の方々が紛争後の状況を生き延び、故郷へと帰還することができるよう、これからもシリアの人々への支援を続けていきたいと思います。活動継続のため、ぜひ「難民支援募金」にご協力ください。

1 国連人道問題調整事務所 (OCHA) “Humanitarian Response Priorities: Syria Arab Republic January – June 2025”, 4 ページ
2 同上、34 ページ
3 同上
4 同上
5 シリア教育省

このスタッフの最新の記事Related Articles
SHARE
この記事が気に入ったらシェアをお願いします