難民とSDGs|目標16「平和と公平をすべての人に」に関わる難民問題の現状と取り組み事例
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この記事でわかること
SDGs目標16「平和と公平をすべての人に」は、暴力や不平等を減少させ、法の支配を強化し、透明性の高い制度を確立することを目指しています。難民問題もその一環で、特に紛争や戦争で故郷を追われた人々の支援が求められています。国際協力が重要で、平和と公正を実現するための努力が続けられています。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連総会で採択された国際開発目標で、2030年までに達成を目指す17の目標とそれぞれの目標別のターゲットを定めたものです。
SDGsの16番目は、「平和と公平をすべての人に」という目標です。1番目から15番目の目標が「貧困」や「教育」、「エネルギー」など比較的明確な分野にまつわるものであるのに対し、この16番目の目標は少し漠然としているように聞こえるかもしれません。実際にこの目標はさまざまな分野の問題に関連しており、難民問題にも深く関わっています。
本記事では、SDGsの目標16の「平和と公平をすべての人に」について、難民との関連に焦点を当てながら解説します。この目標に対し、難民に関する世界の諸問題が現在どのような状況にあり、目標達成に向けて具体的にどういった取り組みが行われているのかを知り、自分にできる支援について考えてみましょう。
SDGs目標16の「平和と公正をすべての人に」とは

「平和と公平をすべての人に」は、SDGsの17の目標のうち16番目に掲げられている目標です。17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」は、目標そのものというよりもSDGs達成のためのアプローチを示しているものであることを考えると、目標16「平和と公平をすべての人に」は実質的にSDGsの中で最後に示される目標の領域であると言えそうです。
「平和と公平をすべての人に」という目標には、以下の12の具体的なターゲットが設けられています(注1)。
16.1 | あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。 |
16.2 | 子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。 |
16.3 | 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する。 |
16.4 | 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。 |
16.5 | あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。 |
16.6 | あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。 |
16.7 | あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。 |
16.8 | グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。 |
16.9 | 2030年までに、全ての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。 |
16.10 | 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。 |
16.a | 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。 |
16.b | 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。 |
この目標は「人権の尊重、法の支配、あらゆるレベルでのグッド・ガバナンス(良い統治)、および、透明かつ効果的で責任ある制度に基づく平和で包括的な社会」を目指すものであるため、暴力や虐待、法の支配、組織犯罪、汚職、テロリズムなど、ターゲットの対象も多種多様です。
16.aで特に開発途上国における暴力やテロリズム、犯罪の撲滅のための国際協力への明確な言及があるとおり、平和と公正を実現するために国境を越えた取り組みが求められていることがわかります。
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の現状や問題点

それでは、この「平和と公正をすべての人に」という目標に対して、現在世界はどのような状況にあるのでしょうか。ここでは、特に戦争や紛争で故郷を追われ難民となる人に焦点を当てて解説していきます。
世界の現状
国連によると、2020年末時点で世界の人口の4人に1人にあたる人びとが、紛争の影響を受けている国で暮らしています。というのも、現在、世界では1946年以降で最多の武力紛争が起きているのです(注2)。
また、世界では子どもが生まれたときに出生届が提出されない例も多く、公的な存在証明を持たない5歳未満の子どもの数は世界全体で1億6,600万人にも上ります。これは、この年齢の子どもの4人に1人が、法的に存在していない状況にあるということです。
出生登録がなされていないと、予防接種を受けたり学校に入学したりといった誰もが享受できるはずの社会サービスを受けることができないほか、犯罪に巻き込まれたときに裁判を起こすこともできません。また、人身売買などで国外に連れ出されてしまった場合には、母国に戻れなくなってしまいます(注3)。
特にサハラ砂漠以南のアフリカでは、子どもが生まれたときに出生登録がなされるのは全体の半分にとどまるといい、出生登録のない子どもたちの半数は、ナイジェリア、エチオピア、コンゴ民主共和国、そしてインド、パキスタンの5カ国で暮らしています(注3)。これらは、紛争や難民といった文脈でもよく名前を聞く国々です。
そのほかにも、SDGsの目標16「平和と公平をすべての人に」に関わる問題の数は多いです。例えば、世界では今も人身売買が行われていますが、新型コロナウイルス感染症の影響で失業者が増えたことやウクライナ危機で難民が生じていることは、さらに人身売買が増える危険性を示唆しています(注2)。
戦争や紛争で故郷を追われる人びと
武力紛争が増えていることなどが原因で、故郷を追われる人の数も年々増えています。国連によると、世界では2022年時点で1億人以上の人びとが避難を余儀なくされていました(注4)。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、紛争や迫害が原因で故郷を追われた人の数は、2021年末時点で8,930万人でした(注5)。その後、2022年に入ってウクライナで武力紛争が始まったことで、ウクライナ国内で800万人が避難を強いられ、さらに600万人以上が難民となり、国境を越えて避難することを余儀なくされました。これにより、強制的に故郷を追われた人の数が、2022年5月時点で史上初めて1億人を超えました(注6)。
強制的に故郷を追われた人の数は2012年には4千万人にすぎなかったものの、難民や国内避難民の数が一貫して増加を続けていることを受けて、わずか10年間で倍以上に増えたことになります(注7 p.7)。
その後も、2023年に入るとトルコおよびシリアで大規模地震が発生したほか、4月にはスーダンも紛争状態に陥り、安全を求めて避難する人びとの数は増すばかりです。難民という文脈で見れば、SDGsの目標16が目指す「平和と公正をすべての人に」の実現には、まだまだ長い道のりが残されている状況と言えるでしょう。
難民の偏在や難民認定の困難さ
難民に関する問題は、強制的に故郷を追われる人びとの数が増えていることだけではありません。
UNHCRによると、世界の難民などのうち83%は、低所得国ないし中所得国が受け入れているといいます。この偏りは、全体の72%の難民などが近隣国に避難していることとも、無関係ではなさそうです(注7 p.19)。
また、開発途上国の中でも特に開発が遅れている「後発開発途上国」と呼ばれる国が世界に46カ国ありますが、これらの国々だけで、世界全体の難民などの27%を受け入れています。こうした国々は国内総生産(GDP)で見れば世界の1.3%に満たない経済規模です(注7 p.19)。その反面、難民の受け入れにおいては、経済力に見合わない大きな負担を強いられている状態と言えます。
日本を含む先進諸国も、第三国定住などの制度をとおして難民の受け入れを行っていますが、実際に難民として認定される数や認定率のばらつきは大きいです。このような状況を是正すべく、UNHCRは国際的な団結と責任の分担を呼びかけています(注7 p.9)。難民受け入れ数の多い国や先進諸国の難民認定状況について、詳しくは「難民認定者数と認定率の世界比較、受け入れ数ランキングや日本の現状」で紹介しています。
SDGs目標16「平和と公平をすべての人に」と関係する難民問題への取り組み事例

このように、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」に関しては、難民関係の課題が多数存在します。ここからは、こうした課題に対してどのような取り組みが行われているのかを具体的に見ていきましょう。
難民問題への国際社会の取り組み
難民支援に特化した国際機関であるUNHCRは、目標16「平和と公平をすべての人に」を含む12個のSDGs目標に深く関係する活動を行っています(注8)。目標2の「飢餓をゼロに」、目標3の「すべての人に健康と福祉を」、目標4の「質の高い教育をみんなに」など、多くのSDGs目標は、避難先での難民や国内避難民の暮らしと密接に関わるからです。
もちろん、UNHCRの活動の中には、目標16の「平和と公正をすべての人に」と直接的に関係するものもあります。
先ほど出生登録のない子どもの問題に触れたとおり、世界には国籍がない人びとが多くいます。UNHCRによれば、国籍がないか国籍が定まっていない人びとは、2021年末時点で世界に430万人以上いるといいます(注7 p.42)。
こうした人びとはどの国からも保護を受けられず、市民としての権利を享受することができません。例えば、保健医療サービスを受けることや学校に通うことができない場合もあり、パスポートの所有も認められないのです(注8)。そこでUNHCRは、無国籍者の特定、無国籍者の発生防止と削減、そして無国籍者の保護の促進を後押しするために、各国の政府に働きかけを行っています(注8)。
難民問題への日本政府の取り組み
SDGsの採択が行われた2015年に、日本では政府開発援助(ODA)の方針を示す「開発協力大綱」が定められました。この重点政策の1つである「普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現」は、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」と通じるものです。
この大綱のもと、日本政府の政府開発援助を担う国際協力機構(JICA)は、SDGsの目標16「平和と公平をすべての人に」に関係する重点的な取り組みとして、「公正で包摂的な社会の実現」と「平和と安定、安全の確保」の2つに大別される、具体的な支援方針を明確にしています。このうち後者の「平和と安定、安全の確保」の一環として、「難民受入国の受入能力強化支援と難民の自立化支援」が挙げられています(注9)。
例えば、2021年からウガンダで実施されている「西ナイル・難民受入地域レジリエンス強化プロジェクト」について解説しましょう。対象はウガンダ国内で難民を受け入れている地域と難民の影響を受けている地域です。難民を含む統合的な開発計画の策定のための仕組み作りを通して、地方行政の能力向上を図るものです(注10)。
こうした長期的な支援のほかに、日本政府はジャパン・プラットフォーム(JPF)などを通して日本のNGOに資金を提供することで、難民や国内避難民に対する緊急人道支援にも取り組んでいます。また、UNHCRをはじめとする多数の国際機関にも資金拠出を行い、多様な分野での難民・国内避難民支援に大きく貢献しています(注11)。
ワールド・ビジョン・ジャパンの難民支援
上述のJPFにも加盟しているワールド・ビジョン・ジャパンは、日本政府や国連の資金も活用しながら、世界各地で難民や国内避難民への支援を展開してきました。
2022年に始まったウクライナ危機に際しては、ウクライナ国内の病院における食料供給や医療品の支援、近隣国における物資支援や水衛生環境の改善、子どもたちが安心・安全に過ごせる場所「チャイルド・フレンドリー・スペース」の設置、教育支援、社会心理的サポートなどを実施してきました。
隣国ルーマニアでは、子どもたちが避難先でいち早く新たな環境になじみ、安心して学べるよう、ウクライナから避難した子どもたちにルーマニア語を学ぶ機会を提供したり、タブレットや本など学びに必要な物資を提供したりしています。ウクライナのハルキウから避難し、現在はルーマニアで学校に通う11歳のソフィアちゃんは、ワールド・ビジョンに対して次のように語ってくれました。
「ここで爆弾を恐れずに勉強できることに感謝しています。学校に行くのは大切です。紛争で勉強できる時間がなくなってしまいました。ここでその時間を取り戻したいのです」
勃発からすでに1年以上が経過し、ウクライナ危機も長期化の様相を呈しています。ワールド・ビジョンは今後も、ウクライナの子どもたちに寄り沿った支援を続けていきます。
難民支援募金にご協力ください
紛争は、発生した直後には世界中で大きく報道され、注目を集めます。しかし、難民を生み出している原因の多くは、2011年に始まったシリア紛争のように長期化した人道危機です。そして、国際社会からの関心や支援は、時間の経過とともに薄れていく傾向にあります。
ワールド・ビジョンは、ウクライナ難民など比較的最近避難した人びとへの機動的な支援を行うかたわら、シリア難民や南スーダン難民、ミャンマー難民のように、長きにわたって避難生活を強いられている人びとへの支援も進行中です。避難した子どもたちの命と健康を守り、今できる最良の未来を築くことを目指して、次の3つの柱に沿って支援活動を実施しています。
- 緊急支援物資の提供や避難先での水衛生環境改善をとおして「命を守る」支援
- 避難先で日常生活を取り戻し、心身の傷をいやすための「回復を支える」支援
- 学習の中断を余儀なくされた子どもたちに学びの場を提供し、心に寄り添って「未来を築く」支援
故郷を離れて先の見えない生活を強いられている子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へご協力をお願いします。
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