国際理解教育とは?ねらいや実践例、これからの課題について

私たちの日常のなかで、いろいろな国や地域にルーツを持つ方々を目にしたり、コミュニケーションをとったりする機会が増えているのではないでしょうか。そうしたときに、自分とは異なる文化や習慣に対して、寛容さや理解を示すことが大切になります。

その点で、国際理解教育の重要性は年々増していると言えるでしょう。この記事では、国際理解教育について具体的な実践例や課題とともに解説し、国際理解教育の今後のあり方について見ていきます。

国際理解教育とは何か

バングラデシュに逃れてきたロヒンギャ難民の親子
マラウイで暮らす子どもたち

国際理解教育とは、互いの文化や考え方を知ることで双方の「違い」を理解し、相手を尊重することで相互理解の態度を養う教育のことです。ここでは、国際理解教育の定義や目的、必要とされる背景について解説します。

定義・理念

日本の学校教育現場で行われている国際理解教育に焦点を当てて、国際理解教育の定義・理念について見ていきます。

文部科学省の中に、これまで日本の教育政策に大きな影響を与えてきた中央教育審議会という組織があります。この中央教育審議会において、「国際理解教育」という言葉が大きく取り上げられたのは1996年でした(注1)。

中央教育審議会が出した「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第1次答申)」の中の「国際理解教育の充実」において、国際理解教育は以下のように述べられています。

広い視野を持ち、異文化を理解し、これを尊重する態度や異なる文化を持った人々と共に生きていく態度などを育成するためには、子どもたちに我が国の歴史や伝統文化などについての理解を深めさせることが極めて重要なことになる。

(文部科学省:「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第1次答申)」第3部、第2章、[2] 国際理解教育の充実)


つまり、国際理解教育の定義・理念は、自分と相手、両方の文化や考え方を知ることで「違い」を理解し、相手を尊重することで相互理解の態度を養うための教育であると言えるでしょう。


目的・ねらい

次に、国際理解教育の目的・ねらいについて見ていきます。同じく「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第1次答申)」の中の「国際化と教育」において、次のように記述されています。

このような国際化の状況に対応し、我々は特に次のような点に留意して、教育を進めていく必要があると考えた。

(a) 広い視野を持ち、異文化を理解するとともに、これを尊重する態度や異なる文化を持った人々と共に生きていく資質や能力の育成を図ること。
(b) 国際理解のためにも、日本人として、また、個人としての自己の確立を図ること。
(c) 国際社会において、相手の立場を尊重しつつ、自分の考えや意思を表現できる基礎的な力を育成する観点から、外国語能力の基礎や表現力等のコミュニケーション能力の育成を図ること。

(文部科学省:「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第1次答申)」第3部、第2章、[1] 国際化と教育)


つまり、国際理解教育の目的・ねらいは、「異文化を理解し尊重・共生できる資質・能力」、「自己の確立」、「コミュニケーション能力」を育成することにあると言えます。


背景にある課題

では、日本の教育において国際理解教育の重要性が叫ばれるようになった背景には、どのような課題があったのでしょうか。

国際理解教育は、1947年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が提唱したことに始まります(注2)。ユネスコは、第二次世界大戦やその後の東西冷戦、南北問題などによって、人々の平和や人権が脅かされ続けている国際社会の状況を受け、それらの問題を解決する人材の育成を目指し、国際教育を推進しました。

そして1974年、ユネスコは世界中の加盟国に向けて「国際理解、国際協力および国際平野のための教育ならびに人権および基本的自由についての教育に関する勧告」(注3)を発し、世界中で国際教育が実践されるようになりました。ユネスコが提唱した国際教育で取り扱うべき分野は、民族や平和、人権、難民、資源・環境など、国際社会において問題とされている事柄でした。

一方で、日本で始まった国際理解教育は、上述の定義・理念や目的・ねらいからも分かるように、異文化理解やコミュニケーションを強調したものであり、ユネスコの国際教育とはやや異なる形で進められてきました。その背景には、日本が経済成長を遂げる中で、急速な国際化の波に飲み込まれることになり、まずはその国際化に対応できる人材の育成が急務になったことが考えられます。

国際理解教育の実践例

ウガンダの難民居住地で暮らす子どもたち
ネパールで暮らす子どもたち


日本の国際理解教育は、2002年の「総合的な学習の時間」の小中学校における導入(高校は2003年から)により、日本の学校現場で広く実践されていくことになります。ここでは、日本の学校現場で国際理解教育がどのように実践されてきたか、また現在どのような課題があるのかについて解説します。

学校現場で実践される国際理解教育

学校現場における国際理解教育は、主に「総合的な学習の時間」を用いて行われます。

「総合的な学習の時間」とは、「探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成すること」(小学校学習指導要領(平成29年告示))を目標に行われている授業です。

学習指導要領において、総合的な学習の時間で扱うテーマ例として「国際理解」が挙げられています(注4)。総合的な学習の時間が始まった翌年の2003年に文部科学省が行った調査によると、全国の62.6%の小学校で「国際理解」のテーマを総合的な学習の時間で扱っています(注5)。

このことから多くの学校現場において、国際理解教育について関心を持っていることが分かります。この他にも学校現場では、外国語活動や英語、道徳の授業、学校行事や部活などの特別活動を通じて、さまざまな国際理解教育が実践されています。

ここで、学校で行われている国際理解教育の実践例を紹介します。

社会(中学3年生)「ネパールの防災に協力しよう」

近年では海外経験豊富な教員も増えています。滋賀県の中学校では、ネパールに渡航経験のある教員が、現地で感じたことなどをテーマに授業を行いました(注6)。

ネパールがどのような国かを知ることから始まり、2015年にネパールで起こった大地震を例に、開発途上国における防災について考える授業となりました。全5時間で行われた授業の後半では、ネパールの防災に対して日本がどのような協力ができるかなど、実践的な話し合いや意見発表が行われました。

生徒からは、途上国への援助の必要性を実感した、国際協力についてもっと学びたいと思った、などの感想が挙がったようです。



国際理解教育の課題

このように、日本の学校現場における国際理解教育が始まって約20年が経過し、各地で実践が広まる中で、次のような課題も見えてきました。

  • 国際理解教育と類似した教育の乱立
  • 国際理解教育の指導方法や指導例の不足
  • 教員の知識・経験に頼ることの限界


国際理解教育と類似した教育の乱立

国際理解教育と並び、グローバル教育や開発教育、ESD(持続可能な開発のための教育)など、類似した呼称の教育テーマが登場し、それぞれの違いの曖昧さが学校現場に混乱を招いています。

開発教育やESDは、ユネスコが提唱した国際教育の理念を継承しており、日本の国際理解教育と異なり、さまざまな国際社会における課題にどう向き合うかに焦点が当たっています。

また最近よく耳にするグローバル教育も、国際(=国家間)という言葉を用いるのではなく、さまざまな課題をグローバル(=地球規模)に考える必要があるという理念から生まれたものです。

このように、その時代の価値観や課題に応じて名称が変化しているにもかかわらず、その教育方針や実践方法がどう異なるのか明確に示されていないことが、学校や教員が実践することをためらってしまう要因のひとつになっています。

国際理解教育の指導方法や指導例の不足

国際理解教育の指導方法や指導例等がまだまだ不足していることも課題のひとつです。

国際理解教育は、教科書などの教材が十分になく、総合的な学習の時間や学校行事など、教科指導時間外で行われることがほとんどです。実践例が少なく体系化もされていないため、国際理解教育のノウハウや指導のポイントなどが十分に周知されていません。

先ほど記述した、総合的な学習の時間で「国際理解」のテーマを扱った62.6%の小学校のうち、「外国語会話」の授業を「国際理解」として扱った学校の割合は51.0%でした。今後、国際理解教育の多様な指導実践と、そこから得た知識や経験の共有が課題と言えるでしょう。

教員の知識・経験に頼ることの限界

また、実践方法や指導例が共有されたとしても、実践する教員が持つ国際理解に対する知識や経験によって、授業の質が変化してしまうことも課題と言えます。

国際経験が豊かで、さまざまな国際社会の課題に精通している教員が国際理解教育を行うことで、一定程度の授業の質を保つことができます。しかし、実際の学校現場にそのような教員が在籍していることは稀で、そのための知識を身に付けるだけの時間を確保することは多忙な教員には難しいのが現状です。

学校現場で国際理解教育を行うためには、授業実施を教員だけで抱えるという体制的な問題から考える必要があるでしょう。

国際理解教育のこれから

ウガンダの難民居住地で暮らす人々
ジンバブエで暮らす子どもたち

ここまで、日本の学校現場における国際理解教育の理念や実践例、課題を見てきました。しかし、そもそも国際理解教育は学校現場を中心に行うべきなのでしょうか。

ここでは、国際理解教育の今後のあり方について考えていきます。

民間が担う国際理解教育

前章で、学校現場で教員が国際理解教育を行う難しさや限界について述べました。この課題を解決する方法として、民間の力を借りるという選択肢があります。その代表が国際協力NGOです。

国際協力NGOの職員は、その多くが開発途上国の最前線での活動に携わっています。このように国際経験が豊富で、なおかつ国際社会の問題を間近で見てきた彼らが学校現場に出向き、出前講座や特別授業を行うことは、子どもたちにとって国際理解を考えるよい機会となります。

また現在日本には、国際協力を行っているNGO団体が400以上あると言われており(注7)、全国各地に存在しています。

彼らは、開発途上国で支援活動をする一方で、日本国内における活動の周知や社会課題の認知などの啓発活動にも力を入れています。国際協力NGOは、まさに国際理解教育のスペシャリスト集団なのです。



私たちにできること

国際理解教育が必要な対象は子どもだけではありません。グローバル化が進む社会で働き、生活する大人にとっても、国際理解はもはや必要不可欠なものになっています。

大人が国際理解教育を受けるためには、自分で学ぶ機会を作ることが重要です。国際問題や異文化についての知識・情報を書籍やメディアを通じて身に付けたり、実際に国際交流ができる機会を見つけて参加したりすることで、国際理解の知見を養うことができます。

国際協力NGOがホームページなどで発信する情報に触れたり、彼らが行う報告会やセミナーに参加するのもひとつの方法と言えるでしょう。


ワールド・ビジョンの取り組み

コロンビアに逃れてきたベネズエラの少女とワールド・ビジョンのスタッフ
子ども向けの教育イベントに参加する日本の子どもたち

ワールド・ビジョン・ジャパンは、チャイルド・スポンサーシップや緊急人道支援の実施など、健やかな子どもたちの成長を支援する活動を通してSDGs達成への貢献を目指すとともに、日本の市民社会組織として、日本政府に声を届けるアドボカシーにも積極的に取り組んでいます。

ここでは、ワールド・ビジョン・ジャパンの国際理解教育に関する活動、あなたがワールド・ビジョン・ジャパンと共にできることを紹介します。

ワールド・ビジョンと国際理解教育

ワールド・ビジョン・ジャパンでは、国際理解教育に関して以下のような活動を行っています。

たとえばワールド・ビジョン・ジャパンのスタッフが教育機関を訪問して授業や公演を行ったり、課外活動の一環として小中高生の事務所訪問を受け入れたりしています。また、学校やご家庭でご活用いただける「国際理解教育」に関するワークブックやDVDなども用意しております。

ユースプログラム・サマースクールは、日本に住む子どもたちに世界の現状を知ってもらうために開催しているイベントで、開発途上国の子どもたちの日常生活を疑似体験するなど、参加型プログラムで楽しく学びを深めます。また、学校や学年を越えて交流し、友だちの輪も広がります。

申し込みなどの詳細はこちらのページをご覧ください。

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