シリア難民の現在の数や流出原因、受け入れ国、支援の現状を知ろう

投稿日|2025年3月26日
更新日|2025年6月8日
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この記事でわかること

​ワールド・ビジョン・ジャパンは、シリア内戦による難民の現状や受け入れ国、支援活動について解説しています。​​同団体は、子どもたちが安全な環境で教育を受けられるよう、コミュニティ内での保護活動を行っています。

紛争や災害を逃れて難民となる人の数は近年増え続けていますが、なかでも最も人数が多いのがシリア難民です。「アラブの春」に端を発するシリア内戦が始まってから10年が経つ現在でも、多くのシリアの人々が難民として不安定な生活を続けています。

この記事では、シリア難民の数や、シリアが多数の難民を生んでいる背景、そしてシリア難民を受け入れている国について、最新のデータを使って解説します。そのうえで、シリア難民支援の現在の取り組み内容や今後求められる支援について、ワールド・ビジョン・ジャパンの活動実績を交えて紹介します。

シリア難民とは?現在の数や流出の原因

はじめに現在のシリア難民の数や、シリアから多数の難民が流出した原因を把握しておきましょう。ここでは、シリアから国境を越えて避難した「難民」だけでなく、シリア国内で避難生活を送っている「国内避難民」についても、最新のデータを使って紹介します。

現在のシリア難民の数と推移

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、2019年末時点で、世界には約660万人のシリア難民が存在します(注1 P8)。同時点で、すべての難民の合計人数は約2,960万人と報告されているので(注2)、シリア難民は難民全体の実に22%以上を占めていることになります。

UNHCRのデータベースを利用して過去10年間のシリア難民の数の推移を見てみると、次のグラフのようになります(注3)。

グラフにあるとおり、シリア難民の数は2012年から急増を続け、2018年には665万人を超えました。その後、2019年からはわずかに減少していますが、未だに660万人近くのシリア人が難民としての暮らしを余儀なくされている状況です。

シリア難民流出の原因と現状

シリアからこれほど多数の難民が流出している原因として、シリア内戦が挙げられます。

2011年、北アフリカや中東のアラブ諸国で政府への抗議活動が活発化し、複数の国で政権交代が起きました。「アラブの春」と呼ばれるこの民主化運動の波は、同年3月にシリアにも波及しましたが、政権の強硬姿勢により政府軍と反体制派の武力衝突が本格化し、シリアは内戦状態に陥りました。反体制派が多数の組織に分裂していること、また国際社会の足並みが揃わないことなど、さまざまな要因により、紛争は長期化しました(注4)。

シリア内戦は2021年で丸10年を迎えますが、反政府勢力の影響下にある地域では空爆などが続いており、国内は荒廃しています(注5)。このように、シリア国内の治安が改善していないため、多くのシリア人が現在も国内外での避難生活を強いられているのです。

シリアにとどまる難民「国内避難民」

避難生活を余儀なくされているのは、国外に逃れたシリア難民だけではありません。国境を越えず、国内で避難生活を送っている人々を「国内避難民」と呼びます。危険から逃れて家を離れ、支援を必要としているという点では難民と全く同じです。国内避難民がひとたび国境を越えれば、その時点から難民と呼ばれることになるので、シリア難民について考える時には、同じように国内避難民にも目を向ける必要があります。

UNHCRのデータによると、2020年時点でシリア国内避難民は673万人以上いるとされていますが、この数は難民とほぼ同等です。先ほどの難民数のグラフに国内避難民の数を併記すると、次のようになります(注3)。

難民数が近年微減傾向にあるのに対し、国内避難民は増減を繰り返していることがわかります。特に2020年は増加幅が大きく、最多を記録した2014年以来の水準にまで増加しています。難民の数が減っているからといって、必ずしもシリアの状況が改善しているとは言えないのです。

シリア難民の受け入れ

レバノンに逃れてきたシリア難民の家族
レバノンに逃れてきたシリア難民の家族

これだけ多くのシリア難民たちは、どこで避難生活を送っているのでしょうか。最新のデータを使って、シリア難民を受け入れている国を地域別に見ていきましょう。

シリア難民を多く受け入れている国

世界全体で126カ国がシリア難民を受け入れていますが、大多数のシリア難民は近隣国にとどまっています。

UNHCRの2020年のデータによると、シリアと国境を接するトルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、そして同地域内にあるエジプトを加えた5カ国だけで、シリア難民全体(6,596,627人)の83%以上を受け入れています(注6)。この5カ国の受け入れ人数を表にまとめると、次のようになります。

受け入れ国受け入れ人数シリア難民総数に占める割合(%)
トルコ3,574,836人54.19%
レバノン884,266人13.40%
ヨルダン657,960人9.97%
イラク245,421人3.72%
エジプト130,042人1.97%
5カ国合計5,492,525人83.26%

近隣国のなかでも、シリアの北側に位置するトルコが、すべてのシリア難民の半数以上を受け入れているという状況が見えてきます。

欧米のシリア難民受け入れ状況

全体的な傾向としては近隣国にとどまる難民が多いものの、欧米で生活しているシリア難民も多数存在します。先ほどのUNHCRの2020年データによると、欧米諸国のうち5,000人以上のシリア難民を受け入れている国は16カ国あります。受け入れ数上位の国を表にまとめると、次のようになります(注6)。

受け入れ国受け入れ人数シリア難民総数に占める割合(%)
ドイツ562,168人8.52%
スウェーデン114,054人1.73%
オーストリア53,015人0.80%
ギリシャ36,013人0.55%
オランダ32,598人0.49%
スイス20,077人0.30%
デンマーク19,964人0.30%
フランス19,265人0.29%
ブルガリア17,832人0.27%
ベルギー16,555人0.25%
ノルウェー14,554人0.22%
スペイン14,491人0.22%
イギリス11,422人0.17%
アメリカ8,559人0.13%
合計940,567人14.26%

先に挙げた近隣国以外で10万人以上のシリア難民を受け入れている国は、ドイツとスウェーデンのみです。特にドイツは56万人以上を受け入れており、トルコ、レバノン、ヨルダンに次いで4番目のシリア難民受け入れ大国となっています。

日本のシリア難民受け入れ

法務省が公開している情報によると、最近では2019年と2018年にそれぞれ3人、2017年には5人のシリア人が、日本で難民認定を受けています。これに加え、難民として認定はされなかったものの、人道的な配慮を理由に日本への在留を認められたシリア人も、2019年に7人、2018年に2人、2017年に4人いました(注7 1 2 3)。

難民認定とは別に、日本はシリア難民を留学生として受け入れる取り組みも行っています。
国際協力機構(JICA)をとおして実施されているこの取り組みは、「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム」と呼ばれ、ヨルダンないしレバノンに避難している最大100人のシリア難民を留学生として迎え、日本での修士号の取得を支援するものです(注8)。このプログラムの参加者は、修士課程修了後に日本企業に就職し、日本にとどまるケースもあります(注9)。

シリア難民への支援

漂白剤をはじめとする衛生用品の支援を受けたシリア難民の人々
漂白剤をはじめとする衛生用品の支援を受けたシリア難民の人々

最後に、シリア難民に対する支援の現状や求められる支援について詳しくお伝えします。シリア難民が多数暮らしている近隣国では、ワールド・ビジョンも長年活動を継続しています。

シリア難民支援の現状

武装勢力の支配下に置かれていた約3年の間、多くの子どもたちが教育を受ける機会を奪われました。それだけではなく、流血した負傷者や遺体を目にしたり、爆破によって家を失ったりと、多くの子どもたちが過酷な経験を強いられました。

ワールド・ビジョンは、子どもたちが安全な環境で質の高い教育を受けられるよう、コミュニティの中で子どもたちが心身ともに保護される環境を整える活動を行ってきました。

現在は新型コロナウイルス感染症の影響で学校が閉鎖されていることもあり、子どもたちが家庭で楽しく学べる教材の配布、子どもの保護委員会の組織化と運営支援、保護者への子育てに関する研修(体罰に頼らないしつけの仕方を学ぶ)、そして個別支援が必要な子どもへの支援を実施しています。

ワールド・ビジョンの支援を受けた子どもたちの変化

まず、シリア難民支援の規模をイメージするために、世界中で集まるシリア難民支援向けの資金の額を見てみましょう。

国連人道問題調整事務所(OCHA)が公開しているデータによると、2020年に集まったシリア難民支援のための資金は総額およそ53.9億ドル(約5,700億円)でした。

経年で見ると、2015年に資金総額が約60億ドルに達してから数年間はほぼ横ばいで推移していましたが、2018年に最高額の62億ドルを突破した後は減少傾向が続いており、2020年には2014年以降で初めて55億ドルを割り込みました(注10)。

この記事を読んでいる人の中には、2020年11月にNHKで放送された「世界は私たちを忘れた ~追いつめられるシリア難民~」という番組を見た人もいるかもしれません。この番組名が示すとおり、近年シリア難民に関する報道はまばらになり、国際社会からの支援も減少しています。

その反面、新型コロナウイルス感染症の影響で、難民たちはさらなる苦境に置かれています。世界中が危機に直面している今こそ、最もぜい弱な立場にある難民への支援が求められるのではないでしょうか。

シリア難民のために求められる支援内容

シリア難民への支援は、食糧や物資の配布、仮設住宅の建設、安全な水の供給、保健医療サービスの提供、教育機会の確保など、多岐に渡る分野で行われていますが、今求められる支援はどのようなものでしょうか。

シリア内戦開始から10年が経ち、難民たちの避難生活は長期化しています。こうした状況下では、難民たちが自活に向けた未来志向の支援がより重要となります。

避難先の国に定住して働く場合も、今後シリアに安全が戻った時に帰還して国の再建に尽力する場合も、いずれの場合でも読み書きや計算などの基礎的な知識は必須です。このため、避難生活中も子どもたちが基礎教育を受けられるようにするための支援は欠かせません。

また、現在は新型コロナウイルス感染症への対策が求められています。たとえばヨルダンでは2021年1月から、難民たちも無料で新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を受けられるようになりました(注11)。

ワールド・ビジョンのシリア難民支援

ワールド・ビジョンは、2014年からヨルダンでシリア難民への教育支援を開始し、現在は学習に困難を抱えるシリア難民の子どもたちに補習授業を行っています。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、ヨルダンでは一時ロックダウン(都市封鎖)が行われ、学校も何カ月にもわたって閉鎖されました。こうした状況を受け、2020年4月からは、補習授業を遠隔で実施しています。

先生が授業動画とワークシートを作成してチャットアプリで配布し、週に1度はオンライン会議システムを使って授業を行い、質問に答えるなど、子どもたちが質の高い教育を受け続けられるよう努力を重ねています。

さらに、ワールド・ビジョンは、シリアにとどまっている国内避難民への支援にも携わっています。ただし、シリアは情勢が安定していないため、シリア国内で活動するシリア人スタッフを近隣国のスタッフがサポートする形で支援を展開しています。

活動内容は、飲料水の供給、国内避難民キャンプ内の仮設トイレの汲み取りやごみ収集、衛生キット配布など、水と衛生にかかわるもので、これも新型コロナウイルス感染症の予防に欠かせない活動と言えます。

ワールド・ビジョンのシリア難民支援を支援する

シリアの政情は今も安定からはほど遠く、難民や国内避難民が故郷に戻って生活を立て直せる日がいつになるのか、先行きを見通すことは困難です。

2020年からは、新型コロナウイルス感染症の流行も手伝って支援ニーズが増加しているのに反し、国際社会からの支援が縮小し、シリア難民や国内避難民はますます厳しい状況に置かれています。

ワールド・ビジョンは、シリア難民やシリア国内避難民の子どもたちに対して、次の3つの合言葉の下で支援活動を続けています。

  • 「命を守る」:新型コロナウイルス感染症等を予防するための、石けん配布や手洗い指導等
  • 「順応する」:紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや、個別に必要な物資提供等
  • 「未来を築く」:補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作り等

故郷を離れて先の見えない生活を強いられている子どもたちの命と未来を守るため、ぜひワールド・ビジョンの難民支援募金へのご協力をお願いします。
※このコンテンツは、2021年2月の情報をもとに作成しています。

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