【開催報告】福島子ども支援事業終了報告会

(2018.04.20)

2年間の活動成果から、子どもの貧困とどう向き合うか

国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン(以下、WVJ)と、福島のNPO法人ビーンズふくしま(以下、ビーンズふくしま)は、協働事業として2016年4月から2018年3月まで実施した「福島子ども支援事業」の終了報告会を、4月16日、福島市アクティブシニアセンター・アオウゼ大活動室で開催しました。

「福島子ども支援事業」は、東日本大震災後、原発事故による長引く避難生活等、直接的・間接的な影響により困難な環境にある子どもたちが、生きる力を育み、豊かな人生を生きられるようになることを目的に、①生活困窮家庭の子ども支援、②仮設住宅等で生活する子どもの学び・遊びの支援、③事業から得られる知見の蓄積と発信を3つの柱として実施してきました。報告会では、顕在化する子どもの貧困とどう向き合うか、今後の課題も含めて討議されました。

開会挨拶をする、若月ちよビーンズふくしま理事長

冊子「ふくしまの子どもたちとともに」


報告会の第1部では、 WVJの高橋スタッフが福島子ども支援事業について説明し、2つの団体が協働して互いのノウハウを学び合いながら進めた活動の成果を報告しました。続いて、ビーンズふくしまの影山スタッフ、山下スタッフより、3月に発行した冊子「ふくしまの子どもたちとともに」pdfアイコンおよび「貧困の連鎖をたちきるために」が紹介されました。

冊子「ふくしまの子どもたちとともに」は、東日本大震災後に開始した仮設住宅での学習と遊びの支援内容をまとめたもので、子どもの孤立を防止し、コミュニティが子どもを支えていく力を取り戻すために行った支援の成果報告となっています。担当したビーンズふくしまの影山スタッフは、表紙の写真の女の子のエピソードを語り、「仮設に住んでいる(いた)子どもたちの実際は、暗い話や深刻な状況ばかりではなく、心の元気はある、屈託なく笑う日常もあったということを伝えたいと思いました。最初は荒っぽい言動もみられた不安定な心を抱える子どもたちと、関係構築しながら積み重ねてきた活動について、一般の方から専門家の方まで広く多くの方に知っていただきたい」と語りました。

冊子「貧困の連鎖をたちきるために」

冊子「貧困の連鎖をたちきるために」は、2012年、県から委託を受けて子どもの学習支援に取組始めたビーンズふくしまが、その実践を通して、生活困窮家庭に育つ子どもの中には、自分が支援を必要であることをについて声をあげられない子どももいるため、家庭訪問型(アウトリーチ型)の支援が有効であることを学び、積み重ねた経験をまとめた冊子です。担当したビーンズふくしまの山下スタッフは、「学習できるようになる前に、子どもの生きる力を育てる健全育成支援全般や家庭環境の整備など"学習以前"の支援が必要な子どもたちがいます。貧困の連鎖を生み出しているものが何なのか、目の前の子どもの実状に目を向けてほしいと思います」と訴えました。

パネルディスカッションを通して

活発に進められたパネルディスカッション
支援事業の成果に聞き入る参加者
左から、山下氏、影山氏、福地氏、土屋氏、
中鉢氏、木内

第2部では、第1部で報告した活動の成果報告を受け、パネルディスカッションを行いました。第1部で登壇したビーンズふくしま、WVJのスタッフに加え、みやぎ心のケアセンター副センタ―長の福地成氏、日本社会事業大学災害ソーシャルワークセンター客員准教授の土屋佳子氏、WVJ事務局長の木内真理子が参加し、ビーンズふくしま常務理事・事務局長の中鉢博之氏のファシリテーションの下、活発な討議となりました。各スピーカーによる発話の要旨は以下の通りです(発話順)。

山下仁子(ビーンズふくしま 貧困対策支援事業 事業長)

子どもの意思を大切にするソーシャルワークを実践してきました。まずは子どもの真意に近付くための寄り添う支援が必要です。重度のアルコール依存症の母親の下で育っている子どもの支援のため家庭に入ってみると、親子間での暴力が繰り返されているような環境がありました。その子は、高校入試の1カ月前になって、高校に行きたいという声をあげました。誰もがあきらめていましたが、自分の言っていることに耳を傾けてくれる人がいるということに自信をつけて挑戦した結果、全日制高校に合格することができました。私たち地域の大人にできることは社会を動かす、制度を変えるということを論じる前に、貧困の中で生きる子どもたちに目を向け、寄り添い、そして子どもの夢を支えようとする大人でいることなのではないでしょうか。

影山浩一(ビーンズふくしま「うつくしまふくしまこども未来応援プロジェクト県中」前事業長)

この支援が始まったのは6年前になりますが、私が活動に関わり始めた3年半前の子どもの状況を見ても、けんかしやすかったり、ストレスを感じている様子が見られましたが、その言葉の背景に何があるのか、を理解しようと努めながら関係構築をしてきました。家庭と学校以外の居場所があることが大切だと思っています。震災発生から7年が経ち、子どもの方から震災の記念番組を見よう、とか、一緒に黙祷しようという申し出があることに、時の経過と、これまで信頼関係が構築されてきた場があることの意義を感じます。一方で、中学を卒業した高校生が放課後にふらっと立ち寄れる場が地域に必要だと感じています。震災に限らず様々な背景から、居場所を必要とする子ども、若者のための新たな取り組みを始めています。

木内真理子(ワールド・ビジョン・ジャパン 事務局長

ワールド・ビジョン・ジャパンが途上国で行っている子どもたちの支援とどこが異なり、どこが同じなのかを考えていました。異なるのは、途上国にあるのは絶対的貧困であること、また、紛争の影響を受けている子どもへの支援ニーズが増大していることだと思います。一方で、共通点は、子どもの成長には多様で包括的な必要を満たす必要がある、とういことですが、「子どもに寄り添う支援」と一言で言っても、子ども一人ひとりのニーズの多様化という現実があるのだと思います。子どもを見つめて捉えている実状を、どのように情報発信して、社会をつくっていくのか、というのも課題です。多様なニーズを抱える子どもたちに対して「私にも何かはきっとできる」と多くの方々が感じられるような発信が、求められているのではないかと思います。

福地先生(みやぎ心のケアセンター 副センター長)

子どもに対する個別のカウンセリングではなく、地域全体として「学ぶ場所」「遊ぶ場所」が必要であることが、日本社会で認知されてきていると思います。日本の精神保健の在り方として、不健康な人がいると医療機関に収容するという傾向がみられ、病床率が高く、入院期間も長いのが特徴でした。そうした傾向を改めるようにWHO(世界保健機関)からも勧告を受けているさ中に東日本大震災が発生しました。支援する側が、外に出て支援対象の子どもたちとつながる、アウトリーチにエネルギーを注ぐようになってきたと思います。大災害などが起きた後、そこで受けた傷から回復するには、一世代(ワンジェネレーション)、つまり100年かかると言われています。私たちが今、助けなければならないと思っている子どもたちを支援する側に育てるという人材育成の発想が必要です。「子どもを中心に置く」という考え方は重要ですが、周りの全ての支援者に強要してしまうと、支援者側の孤立を招くことにもつながると思います。後世まで多くの人が取り組める仕組みづくりをしてきちんとつないでいくことが求められているのではないでしょうか。

土屋佳子(日本社会事業大学災害ソーシャルワークセンター 客員准教授)

震災直後から、福島県のスクールソーシャルワーカーとして関わってきた経験があります。「ソーシャルワーク」は、連携による相互作用から成果が生まれてくるものと思います。完成した冊子には、ビーンズふくしまさんが子どもたちとの個別的なかかわりを大切にしながら、様々な関係機関と連携してきた様子が描かれており、丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。学校教育、児童福祉の枠だけでは対応できないニーズが、震災をきっかけに露わになる中、今日報告されたような子どもの代弁(アドボカシー)やアウトリーチ活動は、支援のありかたとしてとても重要と考えますが、実際には、そのことに重きをおいてやってきているNPOは本当に少ない現状があります。子どものために何ができるかを愚直に考え、子ども一人ひとりの主体性を奪うことなく、必要な支援を可視化していくことや実践したことを紹介、共有していくことが大切だと思います。


子どもたちのために互いに連携を

報告会の締め括りとして、WVJ木内より「"子どもが生きる力をつけていく"ということが、一世代(ワンジェネレーション)を超えていく力になるのだと思います。災害、貧困、紛争、いろいろな困難がありますが、皆が手を携えることによって、いろいろないろなチャンスに恵まれた子どもたちが作っていく次世代の社会が楽しみです」と挨拶し、2年間の福島子ども支援事業は終了しても、今後も子どもたちのために互いに連携していくことを確認し、閉会となりました。

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