【スーダン危機】平和が戻らない限り、子どもたちの未来は絶望的

(2023.05.18)

ワールド・ビジョン東アフリカ地域事務所長 リリアン・ドッゾ
ワールド・ビジョン東アフリカ地域事務所長 リリアン・ドッゾ

武力衝突の発生から1カ月あまりが経過し、いまだ戦闘の続くスーダン。ワールド・ビジョンのスーダンを含む東アフリカ地域の活動を統括するリリアン・ドッゾは、子どもたちの未来を守るためには、平和が絶対に必要であると訴えます。

リリアン・ドッゾからの寄稿文

スーダンから国境を越えてチャドに逃げて来た子どもたち

スーダンの子どもたちは、今、あまりに厳しい状況に直面しています。武力衝突が止まない限り、スーダンは国全体が子どもたちを巻き添えにしながら混乱を深め、国を超えて地域全体が人道危機に見舞われるでしょう。

そうならない未来予測を立てたいところですが、繰り返される停戦合意の失敗が意味するのは、紛争の長期化です。一度争いが始まり広まってしまうと、平和を取り戻すことが難しいのは、近年の他の紛争からも明確です。アメリカとサウジアラビアが仲介役として執り行われている交渉が一刻も早く成立することを願うばかりです。

この紛争は、実は最悪なタイミングで勃発しています。この地域は壊滅的な干ばつに見舞われており、何百万人もの人々が飢きんともいえる状態にあります。スーダンでも150万人が飢餓状態にあり、何万人もの子どもたちが命の危機に瀕しているのです。

スーダン内戦に発展する可能性は、東アフリカ地域全体に大きな影響を与えます。ここでは周辺国を巻き込んでの対立の懸念には触れず、人道的側面に注目します。絶望のうちに避難を余儀なくされる人々は増え続けています。生き延びるために必死な何千人もの人々が日々スーダンを逃れています。すでに10万人以上が隣国のチャド、中央アフリカ共和国、エチオピア、南スーダン、エジプトに逃れています。

スーダンを逃れている人々の中には、エチオピア北部や南スーダン、さらには、シリアやイエメンから逃れてきた難民も含まれています。母国の紛争を逃れてスーダンに逃れてきた彼らは、今、その危険な母国に戻らざるをえないのです。

この争いが多くの子どもたちをあらゆる意味で日々苦しめていることに、私は胸が張り裂ける想いです。

スーダンから国境を越えてチャドに逃げて来た子どもたち

スーダンは、紛争がなくても飢餓で十分に苦しんでいた国です。栄養不良が蔓延し、300万人以上の子どもたちが栄養不良であり、人道食料支援が必要な状況でした。

スーダンは、アフリカ大陸で3番目に大きな国です。つまり、人道支援を幅広く届けるためには、悪路を長距離を移動しなければなりません。さらに、今は戦闘によって安全なルートが確保できず、ワールド・ビジョンが活動しているスーダン南部のダルフールやコルドファンには支援物資が届かなくなってしまいました。

また、国連組織や人道支援団体は略奪の被害にも遭っています。特に南ダルフールでの被害が激しく、食糧、車両、事務所、店舗などがくまなく略奪されてしまっています。支援活動を再開するためには、活動場所への安全なアクセス確保はもちろんのこと、人道支援活動インフラの再建から始めなければなりません。その間に苦しむのは、子どもたちです。

スーダンを逃れて隣国に避難している人々のニーズに応えることも容易ではありません。避難民の家族が極度にぜい弱な状態でたどり着く先は、総じてインフラが整っていない僻地です。このような場所では戦闘が勃発することもあり、支援物資を届けることは安全面でもコスト面でも非常に困難です。

また、スーダンから隣国への避難路は決して安全ではありません。女性と子どもは強奪、窃盗、レイプ、性暴力のリスクにさらされています。どの武装組織がどの地域を支配しているか、どこで戦闘が発生しているのか分からないため、安全の保障がありません。

スーダンを逃れる人は80万人を超えると国連は予測し、警鐘を鳴らしています。このような大規模な人の移動に対応し、必要な支援を届けるためには、複数国の連携が不可欠です。

国外に逃れている人々だけでなく、スーダン国内に留まっている人々の状況も、日々急速に悪化しています。数千人が負傷、数百人が死亡している中、医療サービスは崩壊手前、病院や下位の保健施設ーは電力、水、吸入用酸素、医薬品、医療従事者すべてが不足しています。もちろん、子どもたちは学校に行くことはできず、家に籠っています。

また、食料も不足しています。首都ハルツームで暮らす人々は、物価高騰と食料不足に苦しみ、乳児にミルクをあげられない母親が多数います。ハルツームのスーパーマーケットやその他の店が機能不全になると、人々は命がけで食料を探しに出かけます。ハルツームでは対立する組織が軍事拠点の争奪戦を繰り広げているため、市民は空爆、戦闘の勃発、武装勢力による検問に常に怯えて暮らしています。地方に親戚がいる数千人の人々が安全を求めて今日も避難し、他の人々は命がけで国境を越えています。

紛争が勃発する前から、ワールド・ビジョンを含む多くの人道支援機関・団体がスーダンで数百万人を対象に支援活動を行っていました。スーダンの人口4,900万人の3人に1人が人道支援を必要としている中、活動に必要な資金は14%しか集まっていませんでした。今、数百万人が人道支援という命綱を絶たれ、加速する暴力の渦と、食料と医療の不足に直面しています。停戦合意が守られないため、働くこともままならず、銀行も機能していないため生活資金は減る一方です。

戦闘の中心地となっているハルツームから遠く離れた紅海近くの都市、ポートスーダンに国際機関は支援の拠点を築き始めています。

ワールド・ビジョンのような人道支援組織は、安全が確認され次第スタッフを現地に送り、現場の状況を把握し、人道支援を再開したいと切に願っています。不安定な通信状況ですが、連絡が取れるときにはスーダン国内に留まるスーダン人スタッフと連絡をとっています。家から一歩も出られないような危険な状況でも、彼らは「早く支援活動に戻りたい。子どもたちが大きな夢を描きながら平和に暮らせる国を作りたい」と口にしています。

このまま紛争が続くと、シリア、イエメン、南スーダン、ウクライナでそうだったように、スーダンの子どもたちの未来にも壊滅的な影響を与えかねません。残念ながら、私たちは皆、そのことを知っています。お願いします、戦いをやめて平和の道を進んでください。どうか、子どもたちのために。


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