【新型コロナ】途切れることのない学習支援 -ヨルダンからの報告

(2020.08.21)



紛争、新型コロナ...厳しい状況にも負けない支援を

迫害、紛争、人権侵害...、あらゆる暴力がはびこるシリア危機は、現代における最大の難民・避難民危機です。660万人のシリア難民の多くは隣国に避難しており、その一つであるヨルダンでは、難民の大量流入により公共サービスがひっ迫する事態となっています。学校教育の現場では、1日2交代制を採用する公立学校を増やすことで、シリア難民の子どもたちとヨルダン人の子どもたちへの教育機会を確保してきましたが、過密状態は解消されず、教育の質に大きな影響を及ぼしています。弱い立場にあるこれらの子どもたちは、学校を中退するリスクに直面しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、ヨルダンでは全国的に都市が封鎖され、それに伴い学校も3月15日から閉鎖されています。ヨルダン政府は、子どもたちが教育を継続できるよう、テレビやオンラインを通じた教育機会を提供する等、あらゆる手段を講じてきました。

しかし、ワールド・ビジョンが実施した調査では、回答したシリア難民家族の76%が、学校閉鎖に伴って子どもたちのサポートが必要になったと感じたと回答しています。これは、ヨルダン人家族よりも高い割合です。テレビやオンラインの授業についてシリア難民家族からは、「詳しく説明しないと子どもには分からない」「私の子どもは読み書きのサポートが必要です」「話すスピードが早すぎる」等の意見が聞かれました。

難民キャンプの学校の様子
難民キャンプの仮設の学校で勉強する子どもたち(ヨルダン/2016年)
ワールド・ビジョンは、学習に問題を抱える子どもたちが学校を中退しないよう、ジャパン・プラットフォームからの助成を受けて2014年からヨルダンで教育支援事業を実施してきました。学校の授業についていけない生徒を対象に補習授業を実施していましたが、学校の閉鎖と同時に活動も一時中断を余儀なくされていました。

しかし、ぜい弱な立場にある子どもたちは、教育が中断する期間が長ければ長いほど、学校が再開しても学校に戻らない可能性が高くなります。そのような事態を避けるため、補習授業を遠隔で実施するプログラムを、4月19日から開始しました。これまでに567名の子どもたちが参加し、それぞれの理解度に合わせた授業に参加しています。



「想像とは全く違うことが起きました」

遠隔授業という初の試みを実施するにあたり、ワールド・ビジョンではまず教師に対して、リモート学習のやり方や効果的な授業の方法等を、WhatsApp(携帯電話のメッセージサービス)やzoom(オンライン会議システム)を駆使してトレーニングしました。補習クラスを担当する教師の一人、ナヒードはこう語ります。

遠隔で生徒とコミュニケーションがとれるのか、伝えた情報が正しく受け止められるのか、どのように授業を準備すればよいのか、多くの懸念がありました。でも、実際に自宅から教え始めてみると、想像とは全く違うことが起きました。WhatsAppグループを通じて生徒と交流できるので、教室に子どもたちがいるような感じがします。私の生徒たちは、zoomの授業に参加するだけでなく、オンラインで宿題を送ったり録音したりしているので、授業を理解してくれているのが分かります。子どもたちはWhatsAppグループに非常によく反応してくれます」

ナヒード先生
オンラインツールを使って授業を配信する教師

補習クラスを受け持つ教師たちの努力により、生徒たちの学習にも良い変化が現れ始めています。「英語については、あるクラスではライティング力が向上しましたし、別のクラスではライティング力と読解力の両方が向上しました」と、ナヒードは言います。

シリア人のアブドゥラマン君(11歳)は、4月にこの遠隔授業プログラムに参加しました。ロックダウンの前、彼は公立学校での学習に苦労しており、中間テストの結果を受けてワールド・ビジョンのプログラム受講者として登録されました。休校中、アブドゥラマン君は、ヨルダン教育省が提供するいくつかの遠隔授業を欠席したため、分度器を使う宿題を進めることができませんでした。

「数学の補習授業の先生のおかげで、分度器を使って角度を測ることができるようになりました」
と言うアブドゥラマン君。誇らしげに家にあるあらゆる物の角度を測る様子を収めたビデオが、先生の元に送られてきました。「補習クラスの先生の授業は、息子には完璧で分かりやすいです。息子は多くのことを先生から学んでいます」と、お母さんも語ります。

自宅でオンライン学習をする生徒
オンラインの補習授業に参加する生徒

小さな成功を重ねることが未来につながる

分度器を使えるようになったこと、アラビア語を読めるようになったこと等の小さなサクセスストーリーは、子どもが勉強する上でモチベーションと自信を保ち続けるために非常に重要です。今、小さな成功を重ねることが、子どもたちが再び学校に戻った時の学習の継続にも役立ちます。そしてそれは、子どもたちの明るい未来につながります。

このプロジェクトを担当する松﨑紗代スタッフはこう語ります。
「私たちのチームにとっても初めての経験です。チームのスタッフも在宅勤務をしているため、プログラムを遠隔仕様に変えるのは容易ではありません。しかし、私たちはアブドゥラマン君が体験したような成功の瞬間をより多くの子どもたちが経験できるよう、COVID-19の間、日々努力しています」



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