【セミナー開催報告】子どもに対する暴力をなくすために

(2017.09.20)

世界では今、紛争・虐待・いじめ・人身取引など様々な暴力により、5分間に1人の子どもが命を落としています。

ワールド・ビジョンでは、2017年9月1日、子どもたちを守るために私たち一人一人が何ができるのかを考えるセミナー『子どもに対する暴力をなくすために~持続可能な開発目標(SDGs)16.2の達成を目指して』を、パートナー団体とともに開催しました。

SDGs、人間の安全保障と、子どもに対する暴力


最初に、前国際連合日本政府代表部大使の南博氏より、2012年から SDGs(持続可能な開発目標)に関わられてきた中で、SDGsのゴールやターゲットの採択に至る過程で様々な議論が噴出したが、唯一各国の異論が出なかったものがSDG16.2であり、子どもに対する暴力撤廃は誰にも否定できない目標であったとの紹介がありました。そして、SDGsが訴える包括的な取り組みは、子どもに対する暴力撤廃のアプローチに適していると話されました。

また、子どもを中心に置き、守り、能力強化する、そしてそのために様々なステークホルダーの協力が必要となる子どもに対する暴力撤廃の取り組みは、日本政府が20年近く訴えている「人間の安全保障」の考え方そのものとの見解を示されました。

次に、日本政府の取り組みとして、本年7月の国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)にて、岸田前外務大臣が自発的国家レビューの中で子どもの貧困や暴力の対策、若年層への取り組みを実施していくと宣言したことに加え、2013年6月の「子どもの貧困対策法」、2016年2月の「子ども・若者育成支援推進大綱」、同年6月の「児童福祉法」、「児童虐待防止法」の改正、2017年4月の「子どもの性的搾取にかかる基本計画」の策定など、幅広い取り組みを紹介されました。

最後に、日本で昔から「国の宝」と呼ばれている子どもたちは、その呼び名に相応しい扱いを受けるべきこと、そして、日本でも世界のいずれの国でも、いかなる子どもも取り残されてはならないと思うとの力強い言葉で締めくくられました。

外務省前国際連合日本政府代表部大使の南博氏

なぜ、今、子どもに対する暴力なのか

続けて、「子どもに対する暴力撤廃のためのグローバル・パートナーシップ(GPeVAC)」 事務局長のスーザン・ビッセル氏より、世界中で、毎年2人に1人の子どもが、虐待、搾取、ネグレクト、人身取引、児童労働、女性器切除、早期結婚、オンラインを含むいじめなど、何らかの形で暴力にさらされており、この1年間だけでも、2~17歳の子どものうち約10億人が身体的、性的、あるいは精神的暴力に遭っており、4人に1人の子どもが身体的暴力を、女子は4人に1人、男子は13人に1人の割合で性的虐待を受けているとの衝撃的な事実が共有されました(注1)。加えて、実際の被害は、性的被害の場合は申告件数の30倍、身体的暴力の場合は75倍にものぼることも紹介されました。

そして、このような現実を踏まえて創設されたGPeVACについて紹介しました。GPeVACの運営は、国家、市民社会、民間企業など、子どもの暴力撤廃に携わる様々なステークホルダーにより行われていること、GPeVACのビジョンは、子どもが暴力にさらされることなく育つ世界、使命(ミッション)は、社会全体を子どもにとって安全な場所にし、あらゆる形の子どもに対する暴力を撤廃することであるとの説明がありました。
特に、「撤廃する(end)」という言葉は意図的に選んでおり、削減や半減などの中途半端な目標ではなく、完全になくすことを目指したと紹介されました。GPeVACのゴールは、(1)政治的意思の醸成、(2)子どもに対する暴力撤廃の行動の加速、(3)協力体制の強化の3つであると説明されました。また、具体的な行動は、UNICEFなどで効果が実証されているINSPIRE戦略(注2)に基づいて実施しているとの紹介がありました。

次に、国によるGPeVACとの関わり方について紹介がありました。すでに13ヶ国が、子どもに対する暴力撤廃に積極的に取り組む「パスファインダー国」として参加していること、さらに、新たに日本を含む19ヶ国と議論をしていることが紹介されました。そして、子どもに対する暴力撤廃の取り組みを共有するため、2年に1度、Solutions Summitを開催することとなったこと、その第1回が、2018年2月にスウェーデンのストックホルムにて開催予定であること、スウェーデン女王より、子どもに対する暴力撤廃のためさまざまな取り組みをしている日本に、ぜひ「パスファインダー国」に加わってほしいとの期待が寄せられたことを紹介しました。

「子どもに対する暴力撤廃のためのグローバル・パートナーシップ(GPeVAC)」事務局長のスーザン・ビッセル氏

日本にできること、私たちにできること

次に、日本人で初めて、国連子どもの権利委員会の委員となられた弁護士の大谷美紀子氏から、日本における課題や日本に対する期待が紹介されました。

日本でも、いじめ、体罰、性的虐待、人身取引など様々な暴力に関する問題が増えているが、これらが「子どもに対する人権侵害」と捉えられていないことが課題であると述べられました。
「子どもの権利条約」は、国連で採択された数ある人権条約の中で初めて暴力そのものを人権侵害と捉えた条約であり、子どもの権利委員会は、「子どもの権利条約」加盟国において、国家による、あるいは学校・家庭における子どもに対する暴力が広く蔓延していることを問題視し、各国に勧告を出してきたことを紹介しました。また、委員会からの勧告を受け、国連総会の決議により、約3年かけて行った子どもに対する暴力に関する国連研究結果の報告書が国連総会に提出され、国連事務総長特別代表が任命されたことなど、子どもの権利委員会による積極的な取り組みを受け、国連の子どもに対する暴力撤廃に関する取り組みが本格化したことが紹介されました。

そして、日本で子どもに対する暴力撤廃に向けて効果的に取り組むには、こうした国際的な動きと歩調を合わせていくことが重要と述べられました。子どもに対する暴力は、全ての国で起こっており、グローバルな取り組みに日本が参加することによって、国内における取り組みをより効果的に進めることができると同時に、日本が国際社会に貢献することもできるとの見解を述べられました。
また、国内において子どもに対する暴力撤廃に取り組む政府機関やNGOなどが、個々の問題ごとの取り組みを越えて、子どもに対する暴力撤廃という大きな枠組みの下で、研究者、専門家、企業、自治体、若者・子どもを巻き込みながら連携し大きな運動にしていくことが重要であり、この観点から、多様なアクターが参加する国際的なプラットフォームのモデルを提供するGPeVACの活動への期待を述べられました。最後に、今後、日本において、より総合的・包括的な取り組みや、国際的な連携、予算の投入などが求められると締めくくられました。

国連子どもの権利委員の大谷美紀子氏

市民社会の取り組み

最後に、ワールド・ビジョン・ジャパンの柴田スタッフより、市民社会による、子どもに対する暴力撤廃に向けたアドボカシーの取り組みについて紹介しました。

国際的なアドボカシーの取り組み事例として、SDGsの採択に至るまでの数年間にわたり、市民社会として政府との意見交換を繰り返し行い、結果としてゴール16に子どもに対する暴力の撤廃というターゲットが入ったことを紹介しました。

また、国内でのアドボカシーの取り組み事例として、本年初頭より、ワールド・ビジョン、エース、セーブ・ザ・チルドレン、ヒューマンライツ・ウォッチ、ヒューマンライツ・ナウに加え、大谷氏、UNICEFが集まり、子どもに対する暴力撤廃に向けた協働の動きが生まれたこと、これらの団体で今年7月のHLPFに向けて、日本政府に対し働きかけを行った結果、岸田前外務大臣のスピーチに、「子どもに対する暴力に取り組む」との文言が入ったことを紹介しました。

そのほか、子どもに対する暴力撤廃に関する政策提言書として、ODAにおける子どもに対する暴力撤廃の取り組み状況についての『Counting Pennies』、ビジネスセクターにおける子どもに対する暴力撤廃の取り組み状況についての『The Case for Business Action to End Violence against Children』を紹介したほか、キャンペーンの事例として『It takes a world to End Violence against Children』を紹介しました。このキャンペーンの名称が示すように、一つの団体の活動だけで子どもに対する暴力をなくすことは難しく、政府を含む世界中の協力が必要であることを訴えました。

最後に、子どもに対する暴力をなくすために私たちにできることとして、(1)知ること、(2)伝えること、(3)ともに協力していくことがあると伝え、2030年には世界から子どもに対する暴力がなくなっていることを目指し、協力して取り組みたいと呼びかけました。

ワールド・ビジョン・ジャパン柴田スタッフ



当日は、様々なセクターから約100名が参加し、各スピーカーによる報告後の質疑応答も活発に行われました。

SDGsの担い手となる子どもたちに対するあらゆる暴力を撤廃するために、ワールド・ビジョンでは今後も、国内外のパートナーと協働しつつ、政策提言やキャンペーンを通じて、政策決定者や社会に対し訴えていきます。

子どもに対する暴力撤廃に協働で取り組むパートナー同




(注1)米国・疾病予防管理センター(CDC)による報告書
"Global Prevalence of Past-year Violence Against Children: A Systematic Review and Minimum Estimates" (2016)

(注2)INSPIRE
I:法の実施と執行、N:社会的に容認されている規範や価値、S:安全な環境、P:親、I:収入、R:対策、支援、E:教育