TAKE BACK FUTURE キャンペーン

Take Back Future キャンペーンについて

Q1) なぜこのキャンペーンでは、特に「紛争貧困により移動を強いられる子どもたち」にフォーカスするのですか?
A1)
紛争や貧困により移動を強いられる難民、移民の子どもたちは、ほとんどの場合、パスポートなどにより法的に身分を証明できない立場で国境を越えたり、国内を移動し、本来享受できるはずの社会的制度、関係による保護を奪われます。その結果、人身取引や性的搾取、児童労働、子ども兵士としての徴用など、多くの暴力の危険にさらされるのです。移動を強いられること自体、子どもたちにとっては心も体も傷つけられる経験であり、さらに、その後も暴力の危険に身を置き続けることは、将来にわたって深刻な影響を与えます。しかし、このように移動を強いられ、故郷や家族から引き離された子どもたちのニーズに応える政策は極めて限られているのが現状です。

第2次世界大戦以降、最悪の水準となっている難民・避難民数(6850万人)において、子どもは半数以上(52%)を占め、そのうち保護者を伴わない子どもは17万3800人(2017年)で、前年の7万5000人より大幅に増加しています。

ワールド・ビジョン・ジャパンは、今、世界で最も弱い立場におかれている難民・移民の子どもたちを暴力から守りたい、という思いで、本キャンペーンを開始しました。


Q2)「紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する暴力」とは具体的には何を意味しますか?

A2)
紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する「暴力」は、おおよそ次の3つに分類できると考えます。

① 子どもたちに移動を強いる根本的な原因としての暴力(紛争貧困など)
② 移動を強いられる状況に陥ることでリスクが高まる暴力(児童労働人身取引、早婚、子ども兵士への徴用、性暴力など)
③ 家庭や教育現場等、日常的な環境で発生する暴力(虐待、体罰、差別など)

本キャンペーンでは、支援とアドボカシーを通じて、主に②③の対策に力を注ぎます。①について直接的に、即効性のある解決策を講じることは容易ではありませんが、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が「教育における失敗(教育の欠如、教育アクセスの不平等、排他や嫌悪を助長する教育内容)が紛争のリスクを高める」 と主張しているように、実際に教育の不平等が存在する地域での紛争再発のリスクが大きいことから、教育支援を通じて、紛争のリスク軽減への寄与を目指します。

さらに、国境を越えて、一人でも多くの方々が今起きていることを知り、関心を持ってつながっていくことが問題解決への一歩につながると考え、日本社会での関心喚起を通じた貢献を目指して活動します。


Q3) なぜこのキャンペーンでは、特に「教育」に力を入れて子どもたちに対する暴力撤廃に取り組むのですか?
A3)
子どもに対する暴力撤廃には、法律や制度など社会的制度を整えること、子どもへの暴力を生み出している慣習や価値観への働きかけ、保護者へのサポート、子どもたちへの教育など、様々なアプローチがあります。国際的には、WHO(世界保健機関)が、UNICEF、米国疾病管理・予防センター(CDC)、汎米州保健機構(PAHO)、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)、米国国際開発庁(USAID)、世界銀行等の研究や取り組みを通じて実証され、取りまとめられた以下、7つの戦略から成る「INSPIRE」が知られています。

・法律の確実な履行(Implementation and enforcement of laws)
・社会的規範や価値の見直し(Norms and Values)
・安全な環境の提供(Safe environments)
・保護者への啓発(Parent and caregiver support)
・収入や経済面のサポート(Income and economic strengthening)
・子どもを保護し回復を支援する仕組み(Response and support services)
・暴力から守り、加害者にもさせないための教育(Education and life skills)

ここで挙げられている通り、「教育」は、子どもに対する暴力撤廃を目指す上で、法律などの社会的制度、慣習や価値観への働きかけ、保護者へのサポートなどと同様に重要な役割を果たします。「教育」には子どもの「保護」「エンパワメント」の両面の働きがあり、どちらも子どもたちにとって必要不可欠です。

一方で、移動を強いられる子どもたちの多くが教育を受ける機会を奪われています[1]。難民の子どもが学校に通える可能性は、平時の1/5程度に留まり、初等学校に通えている難民の子どもは50%、中等学校に通えている子どもは25%に留まっています。十分な教育を受けられずに育った子どもは、人身取引などの暴力に遭うリスクが高いという調査結果の報告(UNICEF2017)[2]もあり、移動を強いられる子どもたちへの教育機会の提供は急務となっています。

本キャンペーンでは、教育を通じて、移動を強いられる子どもたちへの暴力撤廃を目指します。なぜなら、移動を強いられている難民、移民の子どもたちこそ、自らを守る力となる教育を必要としているにもかかわらず、その機会を奪われ、さらに弱い立場に追い込まれているからです。最も弱い立場の子どもたちを守るため、ワールド・ビジョン・ジャパンは教育を通じて貢献します。


[1] Nicolai, Susan, et al., Education Cannot Wait: Proposing a Fund for Education in Emergencies. Overseas Development Institute (ODI). London, May 2016, p.10

[2] United Nations Children's Fund (UNICEF). Harrowing Journeys: Children and Youth on the Move Across the Mediterranean Sea, At Risk of Trafficking and Exploitation. September 2017, p.29


Q4)「教育」は、どのように「紛争や貧困により移動を強いられる子どもたちに対する暴力」を撤廃する力になるのですか?
A4)
ワールド・ビジョンは世界各地でのこれまでの支援経験から、紛争や貧困により移動を強いられた子どもたちに対する暴力撤廃のためは次の5つが重要であることを確認しました[1]

① 安全な環境の創出
② 子どもを保護するシステムの強化
③ 教育への安全なアクセス
④ 態度、慣習、行動の変容への挑戦
⑤ 子どもたち自身に平和の担い手になってもらうこと

教育は、知識を身につける学習機会の提供という目的だけでなく、上記①~⑤すべての領域に寄与し、子どもの「保護」「エンパワメント」のために重要な役割を果たします。

【教育を通じた「保護」】
―今、周囲にある暴力から子どもたちを守るために―

学校やインフォーマル教育などの学ぶ場を安全に配慮して確保し(①)、同時に子どもを保護するシステムと連携させる(②)ことで、子どもたちは、孤立した状態では巻き込まれるリスクが高い児童労働、人身取引、早婚、子ども兵士への徴用、性暴力などの暴力から身を守ることができます(③)。また、治安や環境が不安定な中でも、学校に通うという規則的な生活と、同年代の子どもたちと安心して遊べる場の確保により、子どもたちは安心できる日常感覚を回復し、心を守ることもできます。

【教育を通じた「エンパワメント」】
―将来の展望を開くために

ワールド・ビジョンが過去10年以上緊急支援を行ってきた現場で、子どもたち自身が「教育」の重要性について声をあげています。教育を受けられることが、中長期的に子どもたちが困難を乗り越える力と希望を与えることを、子どもたち自身が理解しているのです。「学び続けられる」ということ、それ自体が子どもたちの自信の回復を助け、未来への希望の種となります。また、暴力から身を守るライフスキル[2]などのインフォーマル学習[3]、平和教育[4]などを取り入れることにより、将来、暴力に巻き込まれるリスクを減らし、暴力の再発を防ぐ[5]とともに、子どもたち自身が平和の担い手としての力をつけられます(⑤)。さらに、教育の機会を通じた子どもの変革は、加害者になり得る大人や子どもが暮らすコミュニティ全体の態度、慣習、行動変容にもつながります(④)。

【教育が暴力撤廃の力に】
―エチオピアの難民キャンプに暮らす南スーダン難民の子どもの声―

ジョウイ難民キャンプで、WVJの支援により2016年から中等教育が開始され、それまであきらめていた勉強を再開することができました。それ以来、午前はNGOで働き、午後は中等教育校で勉強する生活を送っています。将来はNGOで働いて、子どもたちに教育の機会を作ってあげたいという思いで勉強を継続しています。

キャンプでの生活は、外に出られない閉そく感の中、祖国への帰還の目途も付かず、希望を見失いがちになります。実際、故郷や祖国の戦闘の悲惨な状況が噂で聞こえてくるたびに、同じ年代の友人の中には、『こんな生活を続けるくらいなら祖国に戻って戦いに行く!』という人もいます。でも、そんな時僕は、『ペンは剣よりも強し」を引用して、『戦っても命が無駄になるだけ。今はここで勉学に励み、祖国を変える人にならなきゃならないんだ』と説得しています」


[1] World Vision International, "On the Road to Somewhere: Why ending violence against children on the move is possible" 2018外部リンク

[2] WHOの定義では、ライフスキルとは、「人びとが十分な情報に基づき意思決定し、問題を解決し、批判的・創造的に考え、効果的に意思疎通し、健康的な関係を築き、他人と共感し、健康的かつ生産的に自分の人生を管理できるための能力」。
WHO, Skills for Health: Skills-based health education including life skills. 2003, p.3pdfアイコン外部リンク

[3] UNESCOの国際教育標準分類において、インフォーマル学習とは、「意図的または自覚的だが、制度化されていない学習であり、個人・家族・社会志向による、家庭や職場、地域コミュニティや日常生活における学び」。
UNESCO, International Standard Classification of Education (ISCED) 2011. Montreal, 2012, p.12pdfアイコン外部リンク

[4] UNICEFの定義では、平和教育とは、「紛争や暴力を防ぎ、紛争を平和的に解決し、平和を創出するような行動変容を子ども、ユース、そして大人もたらすために必要な知識、技術、態度、価値観を促進するプロセス」。UNICEF, Peace Education in UNICEF: Working Paper. June 1999, p.1pdfアイコン外部リンク

[5] エチオピアでは、最も暴力に遭いやすい年齢の子どもたちが集まることのできる場所・スキルを身につける機会がないと、ギャングなどに勧誘されてしまうという問題があり、中等教育事業を実施しています。また、ウガンダの教育支援事業では、平和教育クラブに入りたい動機を尋ねたところ、対象の子どもたちから、「悪い勧誘にちゃんとNOと言えるように」、「流されるのではなくやるべきことをやるために」、「指針がないとやっていけない。平和教育クラブに入ることで、正しい方向を示すことができるようになった」との声が聞かれています。

Q5) 暴力撤廃のためには、周囲の大人や加害者を巻き込むことが必要では?
A5)
ワールド・ビジョンは、子どもだけにとどまらず、大人の行動変容を促すことが、暴力の発生を抑え、子どもの保護体制を築く上で極めて重要と捉えています。そのため、ワールド・ビジョンが行う支援事業では、保護者やコミュニティの大人が子どもの権利や、子どもに対する暴力を止める必要について理解を深めることにより、暴力を発生させない、暴力の予防に力を入れた活動を行っています。

また、実際の暴力発生時においては、加害者、および暴力を生み出す原因となっているすべての大人への対応が必要です。これには専門機関である警察等の介入が必要であり、この問題に取り組む関係者間での専門性を生かした役割分担と連携が重要だと考えています。

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